ゾンビAI★すらぐちゃん

ふぃる汰@単行本発売中

第1話 ゾンビAI、拾いました

 

 西暦2200年、日本。

AI技術が発達し、事務、在宅系の仕事はAIのサポートが当たり前となっていた。



 しかし、少子化による労働者不足の影響が最も出ているであろう、介護や土木などの、

肉体労働をするAIロボットの制作は、金属資源の枯渇が深刻となっている現在の地球では難しかった。



 ロボット作ろうとすると、なんか環境団体とかが資源の無駄遣いがーとか言って妨害してくるし。



 そこで、日本のとある研究者によって開発されたのが「ゾンビAI」である。



 ゾンビAIとは、死亡した人間を特殊な防腐処理により腐らないようにし、「ゾンビ状態」になった検体の脳に、特殊なAIチップを挿入し、操作できるようにした、肉体がゾンビのAIである。



 開発当時は倫理問題についての議論もあり、今でもアンチゾンビAI団体によるデモが起きている。



 それでも、資源コストを抑えられ、人件費もほとんどかからないゾンビAIは、現在の日本ではそこそこ浸透してきている。

海外では宗教観違いから、あまり導入が進んでないとも聞くけど。



 ゾンビAIを買うには、安くても高級車くらいの値段がするため、主に企業で労働者の代用として使用されている。

一部富裕層の間では、見た目が良いゾンビAI(もちろん値段も高い)を、家政婦ロボット代わりに購入しているらしい。



「まあ、俺には一生関係ない話だけどな……」



 俺の名前は羽香森 ロウ(はかもり ろう)、22才男性、身長188cm。

物心が付かない幼児の頃に、とある病院の前に捨てられていたらしく、今の里親の養子になるまで、施設で育った。

未だに本当の親の顔は知らないし、知りたいとも思わない。



 なんとか高校を卒業して、今はしがないバイト暮らし。

学歴は微妙だし、金はないし、彼女もいないけど、まあなんとか暮らしてる。



「俺も可愛いゾンビAI娘ちゃんと暮らしたいぜ……宝くじでも当たんねーかな」



 買ってねーけどな。宝くじ。



 夜間警備のバイトが終わった平日の早朝、俺はそんなことを考えながら帰宅していた。



「太陽が目に沁みる……溶けそう……」



 夜勤により日々の生活がほぼほぼ吸血鬼になってしまった。いや吸血鬼にはなってないわ。



「……ん?」



 住んでいるボロアパートの前まで来たところ、ゴミ捨て場の横に大きめの段ボールが置いてあった。



「古紙回収は今日じゃないだろうに。てかちゃんと畳んで……」



 パカッ



「……スヤァ……Zzz」



 段ボールの中でなんか寝とる。



「ええ……この子、ゾンビAIか?」



 防腐処理をしたゾンビ特有の、薄暗い青色の肌。

短く切りそろえられた髪の下には、おだやかな表情で眠っている女の子の顔があった。



 随分と幼い顔立ちだ。元々がバラバラ死体だったのか、首や顔に縫合痕がある。



「けっこう整った顔してんな。かなり高いんじゃないか?」



 ゾンビAIになる検体は、元死刑囚や、身寄りのない遺体が多い。

そのため、若くて可愛い女の子のゾンビAIなんてのはめちゃくちゃ高価なハズだ。



「……ん?」



 段ボールの中をよく見ると、二つ折りにされた紙が入っている。

女の子を起こさないように紙を取り出し、確認する。



 ”拾ってください。”



 紙には、そう一言だけ描いてあった。



「……君も、捨てられたのか」



 ゾンビAIは元々が人間であるため、正規で廃棄するには複雑な手続きが必要だし、処理費用も高額だと聞く。

普通にゴミに出したら死体遺棄で逮捕されかねない。



 しかも、ゾンビだから勝手に死ぬことがない。

そのため、一部の心無い人たちによる不法遺棄により、野良ゾンビAIが徘徊しているとニュースになったりする。



 このままだと、この子は保健所に持ち込まれて、元の持ち主が現れなければ、廃棄処理が行なわれるだろう。



「死んでからも働かされて、いらなくなったらポイは流石にねえよ」



 こういうことが無くならない限り、ゾンビAI反対派のデモがなくなることはないだろう。

いっそのこと、廃棄処理をして、まっとうに弔ってやった方がいいのかもしれない。



「しっかし、ゾンビの割には随分いい顔で寝てんなあ」



 彼女の寝顔を眺めていたら、何故かお世話になった施設の先生を思い出した。今も元気にしているだろうか。



「うおっ、結構重い……ウチのアパート、ペットOKだったかなあ」



 俺はバイト終わりの疲れた身体に気合いを入れて、彼女を連れて、部屋に帰ることにした。

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