episode Ⅺ 試合再開
「はっはー! ほら、もう終わりかい?」
ドガッ!
{ゼン←1HIT 94ダメージ}
「僕もタフな方だけど、君も相当なタフだね……既に1000以上のダメージを与えてるのにまだ戦闘不能にならないなんてね。驚異的と言っても過言じゃないよ」
「はぁ…………はぁ……ぁ……」
く、クソ野郎め……。戦闘不能になったら薬は渡さねぇとかほざいたんだろうが。
だがそろそろやばそうだ……。マジで立てなくなっちまってる。
「ぐぐぅ……はぁ……はぁ」
「おおーーっと!! ゼン選手まだ立ち上がります!! 既に相当なダメージ数があの体に叩き込まれているにも関わらず、今ゆっくりと立ち上がりました!! しかしアンソニー選手の猛攻が続く中、反撃ができない状況!! ここで巻き返しになるか!!」
「ち、ち……く……しょ……ぉ……」
薬を届けねぇと……。
《ゼン←ゼノス コール》
またか……何回コールしやがんだゼノスの奴。
さっきから何回もコールが届いてるが、ずっと無視してたんだ。
どうせ俺がやられて何もしねぇ事の意味を知りたいんだろうぜ。
そう言えば、ディックやティナからもコールが来てたな。
どいつもこいつも……、放っておいてくれりゃいいのによ。
お節介な連中が。
「さあ、ゼンくん。そろそろこのショーも終わりにしようかと思うんだ。どうだろ? 最後に君の口から降参って言ってみたらどうかな?」
「降参……さっきはさせねぇとか言ってたじゃねぇか」
「僕はこう見えて優しいんだよ。君をこのまま戦闘不能にする事は簡単だけど、君の口から言って欲しいんだよ。負けました、とね。だってボコボコになって終わるのは惨めだよ? 潔く降参した方が男、だよね?」
ニヤリと気持ち悪ぃ笑みを俺に向ける。
殴りてぇ。1発でいいからおもっきり殴り飛ばしてぇ。
けど、そんな体力はもう俺には残されちゃいねぇんだ。奴は卑怯者だ。あいつが全部悪ぃんだ。それは間違いねぇ。
だが、レリスを危険な目に遭わせちまったのは俺のせいだ。
俺がゼノスのスカウトを受けなきゃ、こんな事には……。
「ふっ……なんにも考えてなかったな。俺は」
「ん? 何がおかしいのかな?」
降参か……。降参してウィザードも辞めちまおう。
そうすればもうレリスを危険に晒す事はねぇだろう。
「そんなに言ってほしけりゃ言ってやるよ」
「ふふふ、やっと言う気になったんだね。懸命な判断だよ。僕には逆らわない方がいいって身を持って知っただろうからね」
「んん〜! アンソニー選手の攻撃が止み、両者睨み合いが続いております!ゼン選手は相当疲労してる様子! さあ! どちらがこの沈黙を破って行くのか!!」
降参、俺の口からこの2文字の言葉が出ようとした時だった。
この場には相応しくない優しい女の声で〝待った〟がかけられた。
俺、アンソニー、観客、ここにいる人間全員がその言葉を放った人物がどんな奴なのかを確かめる為に振り向く。
それは空から飛空馬に乗って降りて来る。あの飛空馬のデザインはブレイブガードのもんじゃねぇか。
太陽で眩しくて誰か特定は出来なかったが2人降りて来たんだ。そんでその内の1人はティナだって事が分かった。もう1人は誰だ? 長ぇ髪をした静かな雰囲気の女だった。
「ユシア? 君がどうしてブレイブガードのメンバーと一緒にいるんだい? 試合中だって分かってるだろ? 何故止めた!?」
「アンソニーさん……。どうしてこの様な事を」
「な、……何だよその寂しげな顔は……」
「私はブレイブガードのティナ・ウィンスレットです。アンソニー・ハイデンはゼンを脅迫し、不正に試合を進めようとしています! ウィザードマスター! 試合の中断を進言します!」
「な!?」
「おい、今ブレイブガードって言ったか? マジかよ!? よく見りゃあれって氷の女王じゃねーか!?」
「うぉ!!! 氷の女王ティナだよ!!!!」
「なに? アンソニーが不正だって?」
「アンソニー様が……嘘よ! あたしのアンソニー様がそんな下劣な事をするはずないわよ!」
ティナ達の登場で一瞬だけ静かになった観客が、またざわつき始めたな。
まだ信じてる奴もいたが、少しずつアンソニーに対しての不審が募り、どんな不正をやったのか興味を持つ奴が増えて来たのが分かった。
そんな観客の声に混じって俺の名前を呼ぶ声がした。
ティナだった。
「ゼン、レリスは無事よ。薬もディックが取り戻したわ。これであんたは自由に戦えるわよ」
「薬……何でレリスの薬の件を知ってる?」
俺はティナから話を聞いた。
ゼノスが推測し、その指示によって動いていた事。
長い髪の女、ユシアがレリスを助けてくれた事。
ディックやレイモンド、ブレイブガードのメンバーが俺やレリスの為に。
感謝? そんなもんは感じねぇ。こいつらが勝手にやった事だ。
誰も頼んじゃいねぇし、恩着せがましくすんじゃねぇとさえ思う。
だが……事実、レリスの命はこいつらによって救われたんだ。
何なんだよこいつらは……。
しかもユシアとか言う女は、アンソニーんとこのプリーストだって話だろ? 訳わかんねぇよ……。
心の中がモヤモヤする。何でこんなに心がざわつくんだ?
「アンソニー選手の不正が発覚したとの事ですが……これは思ってもみない展開ですねー! さあウィザードマスターからはまだご返答はいただけておりませーん!」
「ふ、不正だって? ふっふっふ……。こんなのは言い掛かりだよ! ティナさん、貴方の様な才色兼備の女性が僕に興味を持ってもらえる事は嬉しいんですがね、自分のものにならない嫉妬心でこの様なデタラメな話をばら撒くのは、ちょっとやり過ぎなんじゃないですか?」
「な、なんですって……嫉妬心? あんた何を言ってるの……?」
「僕がこの落ちこぼれを脅して、不正に勝とうとしてるってその証拠はあるんですか?」
「もちろんあるぜ!」
また空から声が聞こえて来た。この声はディックだな。
ティナ同様ディックももう1人飛空馬に乗せて降りて来るが、赤髪の背の小せぇ男が、挙動不審にソワソワしながらディックの横に立ってた。
「り、リッシュ!? 何してるんだ君は!?」
「あ、あのぅ……ぜ、ぜぜんぶ話しました……す、すすみません……!」
「っつー事だ。ウィザードマスター! アンソニーは、一度除名したリッシュを使ってアギレラの鎮魂薬をレリスがいる医療施設だけじゃなく、アルヴァニア中の医療施設から盗んで、こいつの家の地下に隠してました。スキャンしてあるので証拠の提出はいけます!」
さっきからティナもディックも、ウィザードマスターって言ってるが、誰に向かって言ってやがるんだ?
闘技場のどこを見ても、それらしき奴は何処にも見当たらねぇんだが……。
そう思った瞬間、タイミング良くリージョン内のジャッジメントが一点を光で照らして、爺さんの顔を浮き出しやがったんだ。
こいつが、ウィザードマスター?
ティナやディックとのやり取りから、このウィザードマスターっつうのは要するにウィザードの1番偉ぇ奴なんだと思った。
《ふむ。今提示された証拠は、正式な証拠として認められた。アンソニー・ハイデンが犯した不正行為は、ルール第13条第5項の〝正々堂々の精神〟に反する行為であると判断した。よってアンソニーには洗礼の刑が執行されるが、本試合は双方の合意により続行か否かを執り行うものとする》
と、話しが終わったら爺さんはフワッと消えて無くなった。
ウィザードマスターだと? 初めて見たぜあんな爺さん。
ティナやディックの話を疑ってた奴も、爺さんの発言でアンソニーが不正行為をしたって心変わりしやがった。いや、じゃねぇな。
ウィザードマスターの言葉は絶対なんだな。
証拠を見せろとかあれだけ強がってたアンソニーが、この世の終わりみてぇな面をしてやがる。
「おい不正野郎、よくもレリスを危険な目に遭わせやがったな。降参なんてすんなよ」
「ちょ、調子に乗るなよ!! 不正行為はき、き君が先じゃないか!!」
「てめぇさっきも言ってたが、俺が不正でブレイブガードに入隊したんなら証拠があんだろ? あぁ? 出してみろよ!」
「しょ、証拠はあるさ! あるに決まってるだろ!! 試合に勝ったら見せてやるよ!」
「てんめぇ……嘘つくんじゃねぇ!!」
「ウィザードマスター! ルール変更を要請する! ウィザード・エンゲージからウィザード・バトルに変更、人数は5vs3、後は通常のルールでやる!」
あ? 何言ってんだこいつ。いきなりルール変更だと?
ってまたあの爺さんの顔が浮かんで来やがった。
《ホストであるジューダス・ハイデンの許可を確認した。よってこれより、ウィザード・バトル5vs3で試合を再開する》
「な、なんだと!?」
そんな事が出来んのかよ。それも5vs3って人数おかしいだろうが。ホストだったら何でもありなのか……。
爺さんが消えたら、早速ジャッジメントのログが表示されやがるし、これでやるんだな。まぁいいぜ……やってやるよ。
{ウィザード・バトル}
{フェニックスvsゼンパーティ}
{制限時間20分}
「ユシア、リッシュ、君達は除名だ! おっといけないリッシュはもう除名済みだったかな? くっくっく、君達は僕を裏切っただけじゃなく、よりにもよってゼンの方についたんだからね! 覚悟しておいてね」
「ど、どど……どうしよう!?」
赤髪のリッシュっつう奴が俺の方に話しかけて来やがった。
って半泣きじゃねぇかこいつ。どんだけビビってんだよ……。
「残りの2人と言うのは、どうやらわたくし達の様ですね……リッシュさん」
「う、うん……。ア、ア、アンソニーさんに、か、かか、勝てる訳ないよ……。し、ししかも、む、む向こう……ふ、フルパーティなんだよ!?」
「あんなクソ野郎なんかにビビんじゃねぇよ!」
「ひぃ!?」
おいおい……今の言葉にビビっちまったのか……。
ったく……面倒臭せぇ野郎だな。
「よう、リッシュだったよな?」
「え!? あ、う、うん……」
「ウィザードは出来るんだろ? 除名されたっつっても、やった事はあるんだよな?」
「え、う、うん。ホ、ホホケツだった……けど。一応……」
「試合が始まったら、そこの女ととにかく逃げろ。いいな? 俺が全部片付けてやるから」
「え!? き、君が5人を相手にす、すするの!? む、む、無理だよ! や、ややられちゃうよぉ……!」
「まあ見とけ。それとユシア」
「何でしょう?」
「レリスの件は世話になったな」
「大した事してないですよ」
「あんたは確かプリーストだったよな。いけるか?」
「はい!」
「ユ、ユシアは、フフフフェニックスに入隊してす、すすぐスタメンにえ、え、選ばれたぐらいの、の、ププププリーストの能力がたたた高い」
このリッシュとか言う奴、ずっとビビってやがんのか?
それにしてはヤケに喋りやがんな……わっかんねぇ。
「さあさあさあさあ!! 各々アーディルを入れて下さーい! ルール変更で試合再開です!! 果たして勝敗の行方は如何に!!」
「アーディルは10個全部俺が持つ。いいな?」
「う、うん」
「分かりました!」
この実況者は5vs3の人数不利なとこは触れねぇんだな。
明らかに贔屓だが、アンソニーの奴ここまでしてまで俺に勝ちたいんだな。
{ゼン←HP166回復}
{ゼン←HP184回復}
ん? さっきから背中になんか……癒しの魔力を感じるな。
{ゼン←HP201回復}
{ゼン←HP175回復}
振り返るとユシアが俺に向かって緑色の光の玉をポンポン飛ばしてやがんだ。治癒術か。
「ポアラマです。傷を回復致しました」
ポアラマはポアナの上位治癒術だな。遠距離から癒しの玉を飛ばして回復させるが、確か回復量は直接体に触れて治療するポアナの方が高ぇんだったよな?
ユシアは結構出来るプリーストなんかもな。だったら……。
「なあ、俺はいいから、こいつを守ってやってくれねぇか? ビビりまくってやがるからよ」
「勿論です! ただリッシュさんは風属性魔術(ウインドスペル)に長けておりまして、風魔導士を目指しているそうですよ。素晴らしい方なのです!」
「ちょ、ちょちょっとユシア!」
「お喋りはそこまでだよ! ふっふっふゼン! 1vs1じゃ確かに君は強かった。けど、本当のウィザードと言うものは5vs5なんだよ。この試合は絶対に僕が勝つ!!」
アンソニー、てめぇだけは許さねぇ。何千倍にもして返してやるから覚悟しとけよ。
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