episode Ⅶ 果たし状


「刃物で攻められると、急に最強が崩れちまうなー! ゼン君!」



 そう言って火の魔力を両手に集めながら、身の丈ほどの燃えた大剣を出したかと思ったら背後に回られた。あんなでっけぇ剣を持ってんのに、なんで速く動けんだよ……。

 試験の時に見た動きとは明らかに違う動きだ。

 やっぱあの試合は、みんなあれが本気じゃなかったんだな。

 追いついたと思ったらまた突き放されるみてぇで、マジで気分悪ぃ。



 ブゥンッ!!


 寸前でかわす。なんつー威力なんだよ。地面が抉れたぞ……。食らったらやばかったが大振り過ぎだ。避けろって言ってるようなもんだぜディック。俺はその隙を見逃さなかった。



「はぁぁぁー!! 飛炎!!」



 ギュオォォォー!!



{ゼン←攻撃力25%アップ 7秒}

{ゼン←攻撃力速度25%アップ 7秒}

{ゼン←行動力25%アップ 7秒}

{ゼン←火属性25%アップ 7秒}



 体内で爆発させた火の魔力を拳に集中させて、素早く兄貴面を殴る。

 だがディックの両手からパッと大剣が消えて、俺の燃えた拳が命中する直前で往なされ、カウンターで膝蹴りを顎に入れられたんだ。



 バキィィ!!



「うがぁっ!」



 流れるような動きで腕を掴まれちまって、背負い投げで地面に叩きつけられた。とんでもねぇ衝撃が背中に走り、痛みを感じる間もなく追い討ちにまたあの燃える剣で腹目掛けて突き刺して来た。



「ぐはぁ!?」



 内臓もろとも貫かれちまった。中が燃えてるみてぇに痛ってぇ……。

 そうか……あの剣もフォースエッジっつうスペルだった。だから物理的な重さなんてねぇんだ。

 ディックの奴、わざと大振りを見せて俺を誘いやがったな……。

 



{ゼン←3HIT 347ダメージ}

{ゼン←火傷 60秒}



「なっはっはー! まだまだだねーゼン・ヴァンガード君!」



 ちっ、仁王立ちしながら笑いやがって。

 しかもディックはまだ全然本気を出しちゃいねぇ。くそ……。



「おめぇの弱点はフォースエッジだな。特に重量感のある武器に弱い」


「…………なんもかんもお見通しって訳かよ。クソ……!」


「にゃはははは、まあな! 見た目に囚われすぎだ」



 悔しいがディックの言う通りだ。どうしても見た目に囚われちまう。でっけぇ剣は重いってな。

 魔力で作ったやつなんだから重さなんてねぇのに。

 確かにそこが俺の今の弱点だぜ……。

 無闇に接近戦で攻めずに遠距離からスペルぶっ放してた方がいいのかもしれねぇな。


 ん? リージョンが解放されたぞ。



{プラクティスモード終了}



 あ? ちょっと待て、まだトレーニングして30分ぐれぇしか経ってねぇだろ。



「どう言うつもりだディック」


「おめぇな……。さてはまたリンク外してやがんな? レイモンドとは常にリンクしとけって言ってんだろうがよ。リンクやテレパシーみたいなスペルは日常的な使用が許可されてんだよ。転送魔術(センド)もそうだって教えたろ?」



 ウィザードのルールとして、身につけたスペルは試合の中でしか使ってはいけないもんと、日常的にも使用が認められているもんとがあるって言ってたな。

 レイモンドとリンクしておけば、遠く離れていても会話が出来るんだ。

 しかもレイモンドとリンクしてる奴の声もまるでここにいるかのように話が出来る。

 だが、俺には必要ねぇんだよ。日常であんたらと話す事はねぇんだから。



「まあその話はいい、とりあえずおめぇもリンクしてティナの話を聞け。おめぇに話したい事があんだってよ」


「ティナ?」



 俺はすぐにレイモンドとリンクする為に魔力を体から天に向かって放出する。

 これで俺の魔力をレイモンドが拾って繋いでくれるって訳だ。

 テレパシーは1対1の会話、リンクは複数人でテレパシーが出来るって覚えてるんだが、どっちも俺には必要ねぇんだよな。



《あ、繋がったわねゼン。私今、ハウスのエントランスにいるんだけど》



 クランハウスって何処もこんな規模なんか知らねぇが、ブレイブガードのクランハウスはエントランス、居住区画、演習場の3つに分かれてる。ハウスって名前がついてるから俺もここへ来るまではそれなりにでっけぇ建物なんだろうなって想像して、実際に来てみたら見事にその想像を上回りやがったんだ。もうな……1つの街なんだよ。

 ティナがいるエントランスはその名の通り玄関なんだが、そこからここ演習場までは歩いて30分はかかる。


 だからわざわざここまで俺に伝えに来るより、リンクして話せば早ぇのは分かる。

 ハウス内には俺達以外にも運営スタッフっつう奴らもいて、そいつらに伝言を頼んだりする事もあるみてぇだが、ティナは自分で出来る事は自分でやるってタイプらしいな。


 優しさだか気遣いなんだか知らねぇが……。


 何の用だと聞いてみたら、アンソニーから手紙が届いてるらしい。

 俺宛によりにもよってアンソニーから手紙だと?



《あんた転送魔術(センド)使える? もう使えるようになったかしら?》


《馬鹿にすんじゃねぇよ。あんなの10歳で習得するスペルじゃねぇか》


《あんたの事だから、戦闘系のスキルしか学んでないって事も無きにしも非ずじゃない? 現にリンクも繋げてなかったでしょう?》


《うっ……うるせぇよ》


「図星だなーゼン君!」



 ディックには一切反応せず、俺は転送魔術(センド)を使ってティナが発信してる魔力と、例の〝ブツ〟をキャッチし、俺の手元へと取り寄せる。

 イメージ的には空から目的の地点に目掛けて手を伸ばして掴み取るって感じだ。



「アンソニーって、アンソニー・ハイデンか? ジューダスの息子の?」


「多分な」


「おめぇ、またとんでもねぇ奴と知り合いだったんだな。ジューダスって言えば、パルチザンを仕切ってるリンベル地区代表のクランだぜ? ハイデン一族は超がつくエリートでもって、めちゃくちゃ金持ちだぞ」



 手紙の内容は俺への悪口が大半だったが、最後に1対1での決闘を受けてくれみてぇな事が書かれてあった。果たし状か。



《まさかアンソニー・ハイデンと知り合いだったなんて驚きだわ》


「へへ、ティナも同じ事言ってらぁ。……なになに? リンベルの闘技場でエンゲージで試合か?」


「勝手に人の手紙を見んじゃねぇ!」



 タイマン張って喧嘩すんのに、何でリンベルの闘技場なんだ?

 なんかよく分かんねぇが、売られた喧嘩は買う。

 しかもその相手が俺がずっと復讐したかったアンソニー。

 あの時の借りを返してやんぜ。


 俺はすぐにリンベル地区へと向かった。






 ったく。何でクランの奴らも来てんだよ。

 指定されたリンベル地区の闘技場の前までやって来たんだが、ゼノス、レイモンド、ディック、ティナ、ジェノと漏れなくブレイブガード全員が揃って待ってやがった。



「おっせーぞゼン! 何ちんたらしてたんだ? もう会場は観客も入ってるしそろそろ始まっちまうぞ」


「観客?」


「きっと、彼のお父さんのコネでしょうね。普通こんな異例なマッチなんて勝手に組めないもの。しかもエンゲージでしょう? 大会のノリだわね……」



 なるほどな。多分俺を見せ物にしてみんなの前で恥をかかせようって魂胆だな。どんだけ腐ってんだあのクソ野郎は。

 だがな、俺はあの時からてめぇが想像出来ねぇ程の力と知識を得たんだよ。

 今の俺なら、てめぇをコテンパンに倒せるだろうぜ。



「ボコボコにしてやるから待ってろよ。アンソニー」



 他にも、レイモンドやらゼノスやらが何か喋ってやがったが、受付の手続きもあったし無視して控室へとやって来た。

 それにしてもアンソニーの人気は凄まじいな。この控室にまでアンソニーを呼ぶ声が聞こえて来やがる。

 人気があろうがなんだろうが、叩きのめすだけだ。



 午後14時30分。アナウンスが闘技場内に響き渡る。



《ウィザード・エンゲージ。ハイデン様主催の特別マッチ、アンソニー・ハイデンvsゼン・ヴァンガードの試合が間も無く開始されます》



 俺はバトルステージへ続く大扉を開いた。

 すり鉢状の円形の建物の中にびっしりと観客で埋まってる。

 ここまでくるともう……1つの生き物だな。俺は歓声に圧倒されつつステージに辿り着く。

 もちろんその歓声は俺に向けられたもんじゃねぇがな。



 暫くして向こう側の大きな扉がゆっくりと開いたら、そん中から奴が金髪ロングヘアを靡かせながら入って来た。

 観客に手を振りながら、俺の方に向かって歩いて来る。



「やあ、ゼン。僕の挑戦状を受けてくれてありがとう。まずは礼を言っておくよ」


「なんなんだこの試合は。普通に2人だけでタイマンでやりゃあいいだろう」


「ふっ、これだから貧乏人は……。君には徹底的に恥をかいてもらいたくてね。僕の気が収まらないんだよ」



 やっぱりな。



「ブレイブガードに入隊を認められたんだってね? はぁ……全く君と言う人間は、僕に勝ちたいが為に手段を選ばずに不正までなんかして入隊したんだろう? ……ほんと、怒りを通り越して呆れるよ」


「あ? 不正? んな事やる訳ねぇだろ」


「しらばっくれるなんて見苦しいよゼン。この前は僕の事を卑怯と言ってたけど、卑怯なのはどっちなんだよ」



 こいつ、まさか俺がブレイブガードに入隊出来たのは俺が不正したからだって思ってんのか? こいつ……マジか……。



「不正かどうか、やってみりゃ分かんだろ」


「キャー! アンソニー様! こっち向いてー!」


「アンソニー! そんな何処の馬の骨かわかんねー奴なんてぶちのめしちまえ!」


『アンソニー! アンソニー! アンソニー! アンソニー!』



 歓声がまたさらに大きく、バトルステージ中を取り巻いた。

 アンソニーがベラベラ喋ってる声も掻き消えちまうぐれぇの馬鹿でけぇ声だな。



「レディースエーンジェントゥルメーン!! 只今よりアンソニー・ハイデンvsゼン・ヴァンガードのスペシャルマッチを行います!! 今回のルールはな〜んと!! エンゲージ!! 他は一切介入する事が出来ない1対1の戦いになりまぁ〜す!!」



 気合いが入りすぎて声が裏返っちまってんじゃねぇか。



「アンソニー選手は、17と言う若いご年齢でクラン、フェニックスを立ち上げたリーダーであり、ここリンベル地区では知らない者はいないんじゃないかと思う程の期待のクランです! そして言わずもがな、パルチザンのリーダー、ジューダスさんのご子息であります!」


 

 なっげぇ……。この後も暫くアンソニーが如何に素晴らしい人間なのか、どれだけの実績をそのフェニックスで成し遂げて来たのかを、まるで俺に教えるように1つ1つ並べてやがる。



「さー! 対するゼン選手は、何を隠そうあのブレイブガードに入隊した少年であります! どんな試合になるのか、私も少しばかりか緊張して参りました」


「へぇ……あいつが噂の入隊した奴だったのか」


「噂じゃ不正して入ったとかって話みたいだぜ?」


「マジかよ。卑怯な奴だな! 見た目も地味で何考えてるか分からん暗そうな顔してるもんな」


「それに比べ、アンソニーは誰もが羨むほどの美形だ。男の俺でも溜め息出るくらいだよ。美しい」



 周りの歓声を聞いてまんざらでもねぇ顔でニヤニヤと俺を見ながら金髪を掻き分ける。



「さあ! ご観客の皆様には試合内容をジャッジメントが大型ウインドウに表示しますので、詳細はあそこでご覧下さい!」



 大型ウインドウ? あの浮いてるでっけぇ窓のことか?

 なるほど観客も誰がどんだけダメージを出してるか、把握出来るって事だな。



「それでは! 試合開始です!」



{ウィザード・エンゲージ}

{アンソニー・ハイデンvsゼン・ヴァンガード}



「楽しみだよ。その強がってる顔がもうすぐ引きつって泣いて謝る事になる。くっくっく、言っておくけど、君は僕には絶対に勝てないよ。例え君がブレイブガードのメンバーに師事を受けていたとしてもね」


「ブツブツうるせーんだよ。いいからさっさとかかって来いよ、クソ野郎」


「ふ……ふふ。本当に君って……何処までも僕を怒らせるのが上手いんだねぇぇ!!!」



 俺とアンソニーのエンゲージがこうして始まった。

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