episode Ⅵ 入隊試験 ③
「うるるるあぁぁぁぁ!!!」
「う……ぐぅ! がはっ……」
{ゼノス←1HIT 89ダメージ}
ゼノスの腹に肘を入れ、そのまま空へと蹴り飛ばし風属性支援魔術(ウインドサポートスペル)の縮地を使って打ち上がったゼノスの真上まで一瞬の内に移動すると両手を組んで今度は地上に向けて打ち落とす。
「おるるあー!」
「ぐわぁぁぁ!?」
{ゼノス←1HIT 87ダメージ}
「まだ行くぜ! クイックフェザー!!」
背中に風の魔力で作った翼を召喚し、落下して行くゼノスに素早く飛んで追いつき、さらに俺は数発の連撃を浴びせた。
「うおぉぉぉー!! フウザ!!」
ズバババババババババババババッ!!!
「おぉぉ……ぐぐぐぅ……」
{ゼノス←67HIT 143ダメージ}
フウザは風の魔力を圧縮させた小さな風の刃を無数に連射する風属性魔術(ウインドスペル)
一撃の威力は弱ぇけど、こいつでヒット数を稼げればそれでいいんだ。
風属性の基本魔術、フウザの最上位魔術。これで決めんぜ。
「ゼフザリオン!!」
ビュアォォォォァァァァァァーーー!!!!
巨大な竜巻がゼノスを切り刻む。ウィザードの戦術の基本は、ヒット数を稼いで大技に繋げる事。
最低ランクの威力の弱ぇスペルなんかは、大抵が連発出来るからちょっとした隙があったら入れておく。
ヒット数が次の攻撃の威力を高めてくれるんだ。
{ゼノス←8HIT 385ダメージ}
ゼノスが立膝をついた。そんでアーディルが1つ飛び出したのをすかさず俺は体の中に引き寄せた。
「お、おい……マジ……かよ!? ゼノスからアーディルを奪いやがったぞ」
ん? いつの間にかディック以外の奴らがいやがるな。
みんな驚いた表情で固まってる。俺がゼノスからアーディルを奪った事がそんなに予想外だったのか?
ゼノスは元々体力も魔力も減ってた。霊神フェンリルを召喚し、ディックの大技を食らって、回復なしで俺と戦ったんだからよ。
そう考えると俺の望んだ喧嘩は出来てねぇって事だ。
{制限時間←0 タイムアップ}
{ゼノスパーティ アーディル数 6}
{レイモンドパーティ アーディル数 14}
{今回のウィザードの勝者レイモンドパーティ}
{レイモンド・ロック←157Ct 獲得}
{ディック・ストライバー←96Ct 獲得}
{ティナ・ウィンスレット←122Ct 獲得}
{ジェノ・クラヴィス←91Ct 獲得}
{ゼン・ヴァンガード←551Ct 獲得}
2つはゼノスがまだ持ってて取り返した形になったんだな。あと4つは……そうか、レイモンドとティナが苦戦してた奴の2個と、プリーストの2個か。
今回は俺達の勝利に終わったが、アーディルは誰が持ってるか見た目じゃ全く分かんねぇからな。
アーディルをうまく奪ってそのまま逃げ延びて勝利なんて事もあるだろう。
喧嘩には勝って勝負に負けるってな。
ウィザード・バトルの方は制限時間と一緒に気をつけねぇと。
試験が終わった。
そう、俺は今回のウィザードでゼノス達に審査されてたんだ。
勝手な行動ばかりした俺はきっと、不合格なのかもしれねぇ。
けどそれならそれでいいんだ。自分の信念を曲げてまで俺はこのクランにいたいとは思わねぇし。
ダメだったら、また元の生活に戻るだけの話だ。
試験が終わってから2時間経ち、俺はまた演習場に呼び出された。
ゼノス、レイモンド、ディック、ティナ、ジェノ、みんな勢揃いで俺を待っていた。
まあ不合格だろうな。
「今回のゼンの試験結果だが……皆の評価を聞かせてくれ」
「んじゃ、俺から言わせてもらおっかな!」
ディックか。
今回特にあんたの指示を無視した事が多かったから、評価は低いだろうな。ただ俺が取った行動には後悔はねぇ。どんな評価でも俺は受け入れるつもりだ。
「ゼン、おめぇは確かに強えよ。たった1人でゼノスを倒しちまうんだからよ。だがよ、ウィザードはパーティプレイだ。おめぇの勝手な行動が仲間を危険に晒しちまう事もあんだぜ?」
だろうな。ゼノスだけに気を取られていた俺は、レイモンドやティナの事は全く考えてなかった。
プリーストが落ちれば、俺達セイバーの戦力はガクッと削ぎ落ちちまう。
そうなると一瞬の内に形成逆転になって負ける事もあるだろうな。
「仲間がいるんだからもう少し頼ってもいいの。確かにあんたは1対1なら誰にも負けないかも知れないわ。でも複数人で攻められたらあんたは直ぐに潰される。いい? 頭脳(ここ)も使って戦うのよ」
ティナが冷静に言葉をこの場に落とす。
そうだな、確かに言う通りだと思った。だから、
「気をつけなきゃいけねぇ部分は今回、俺なりに理解したつもりだ。けどよ、俺はあんたらと馴れ合うつもりはねぇ」
「ふん。最近ウィザードを学んだばっかりの奴が、弱っていたとは言え、ゼノスからアーディルを取った事は素直に認めてやる。訓練を積めば俺様といい勝負が出来そうだ」
ジェノの言葉の後にレイモンドも続く。
「だね。まさにユグドラシルの祝福を受けしグランベルクの末裔だからこそ、そんな破格な威力をまだ未熟な君が発揮出来るんだから。君自身の能力は極めて高い。将来ゼノスを超える逸材になれる可能性を僕は見た」
「私も皆と同じ意見だ。ゼン、お前は強い。私をあそこまで追い詰めた力。レイモンドの言った通り、将来このクランを引っ張って行く可能性を私も見た」
ゼン・ヴァンガードってフルネームで改めて俺を呼んだゼノスの顔はすげぇ穏やかだった。
そして一言〝合格〟と俺に言った。
ゼノスのその言葉に思考が追いつかなかったんだよ。
俺は仲間の指示に従わずに勝手に行動したってのに、何で合格なのかが分からなかった。だから聞いたんだ。
「俺は指示に従わずに勝手な行動を取った。レイモンドとティナがもしかしたら危険な状態になっちまってたかもしれねぇ。そんな風に思わなかった。これって仲間として失格なんじゃねぇのか?」
俺は仲間っつうもんがイマイチよく分からねぇんだ。
信頼? 思いやり? そんなもんで勝負に勝てんのか?
「ゼンよ。それを分かってるお前だから合格なのだ。確かに仲間と連携を取らずに勝手な行動でパーティをピンチにしてしまうのはパーティバトルとしては致命的だ。しかし、ただ指示にだけ従うような人間にはなって欲しくはないのだ」
「矛盾してると思ったか? まっ、そう言うこったな! おめぇがなんでユグドラシルを持ってんのか、本当にグランベルクの末裔なのか興味もある。けどよ、やっぱおめぇの信念ってやつを見て、このクランに必要だって思ったんだ」
「俺は合格……なのか?」
「うむ。お前も今日からブレイブガードの一員だ」
「てな訳で、みんなで飯食いに行かねーか? ゼンの入隊祝いってやつだ!」
「いいねー。僕は賛成だよ」
「私もこの後特に何もないし、行ってもいいわよ」
「ゼノス、ジェノおめぇらも来るよな? 久々にみんなでパーっとやろうぜ!」
「ディック、お前の奢りなら俺様は行ってやってもいい」
「ジェノ……おめぇ相変わらず人の金で飯食いやがるな……ま、まあ〜いいぜぇ……。んじゃゼン、行こうぜ!」
「行きたきゃ勝手にあんたらで行ってくれ。俺はここでトレーニングを続ける」
馴れ合いは嫌だっつっただろうが。試合中の連携、仲間の指示に従って作戦通りに行動する、この事に関しては百歩譲って理解出来た。
けどよ、あんたらと仲良くする事に何の意味があるんだ?
相手の事を深く知り過ぎると、相手を信用したり信頼が生まれたりする。そんで最後には裏切られるんだ。
そうだ、必ず最終的にはみんな俺から離れて行く。
あんたらもきっとそうなんだ。
もうあんな思いは2度としたくねぇんだよ。
あんな思いはな……。
「あ、おい! ゼン! ちょっと待てって!」
ディックの言葉を背中に感じながら、俺はトレーニングに戻るのだった。
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