episode Ⅴ 入隊試験 ②
「ゼノスのトラップよ。 もうだから待ちなさいって言ったでしょう」
「ポアナ」
{ゼン←HP98回復}
レイモンドが俺に駆け寄り、俺の体に触れて緑の光を出した。
すると、さっき受けたダメージがなくなった。相変わらずレイモンドは状況判断が早い。
開始早々、早速プリーストのサポートを受けちまうなんて。
「ゼン、ディックと合流してくれ。ここから北西だ」
「…………分かった」
くそ、アーディルを奪いやがって。取り返してやる。
とりあえずディックがいる地点まで向かうか。
ティナが言うようにゼノスが展開した地形には、トラップが仕掛けられてあるみてぇだから、慎重に行かねぇと……。
「つっても……何処に仕掛けられてるか分かんねぇじゃねぇか」
{ゼン←レイモンド コール}
ジャッジメントがなんか表示しやがったな。
コールって何だ……。確か、テレパシーでやり取り出来るあれか!
俺は魔力を使ってレイモンドからのコールを受けた。
《やっぱりね。ゼン、僕が送った地形の情報を共有してないだろう? 習わなかった? 試合開始と同時にセイバーはプリーストとリンクをしておくって》
「そういや、そうだったな」
プリーストはただマナを生むだけの役割じゃなく、色んなサポートが出来るって確か言ってたな。
ただ目の前の敵を倒すだけの事を考えてたから、すっかり忘れちまってたが、プリーストが如何にウィザードで重要な立場にあるか身を持って知ったぜ。
レイモンドとリンクすると、緑の波が俺の体からばーっとバトルステージ中に広がっていったんだ。
すると、地面に黄色く光る魔力の塊が見えるようになった。
もしかしてこれ全部ゼノスのトラップか?
そこら中に仕掛けられてあんじゃねぇか……。
黄色く光る地面は踏まねぇようにって注意して歩いてたら、背後から強い風がスパーンと通り過ぎた。
「なんだ!?」
ジェノが一体のモブの背後に飛んでいって、凄まじい連撃を浴びせてやがった。
大きな斧を両手で振り下ろし、モブを地面に叩きつけた。
ジェノが持ってた斧はモブを倒したら消えたんだが、ウィザードは武器や防具の使用は禁止のはず……つう事は、あれも魔術なのか。
{モブA←1HIT 293ダメージ}
{モブA←HP0 戦闘不能}
す、すげぇダメージだな。
ジェノは、モブAから飛び出したアーディルを取り込んで直ぐまた別のモブを探しにサッと素早く飛んで行く。
確かジェノは風と雷が得意って言ってたが、まさに風の如くとんでもねぇ速さで駆け抜けて行きやがったな。
「フォースエッジ」
「!?」
いきなり耳元で声がしたから、思わず飛び退いちまったじゃねぇか。こんな事すんのは、ディックしかいねぇ……。
案の定ディックが笑って立っていやがった。
こ、こいつ、いつの間に俺の背後に……フォースエッジ?
「セイバーの中には魔力を武器の形で作り出して使う奴もいる。あんな風にな」
「魔力を武器に……そんな事も出来んのか」
「想像力さえありゃな。さ、関心ばっかしてるんじゃねぇぞゼン。俺達の相手はあそこだ」
ゼノスは前方に聳える岩山のテッペンに腕を組んで立ってた。あいつはステージを得意な地形に変えた。だから土属性が得意……か。
「ドルーフ」
土属性魔術(アーススペル)か。でっけぇ岩が飛んで来やがる。
「ゼン、どうすんだ? 対処しねーとぺったんこだぞ〜」
「わーってるよ」
俺は魔力を体の中で爆発させた。
「うおぉぉぉぉ!! 飛炎!!」
ギュオォォォー!!
炎のように赤く燃えるオーラが体にまとわりつく。
{ゼン←攻撃力25%アップ 7秒}
{ゼン←攻撃力速度25%アップ 7秒}
{ゼン←行動力25%アップ 7秒}
{ゼン←火属性25%アップ 7秒}
右拳をギュッと握りしめ、飛んでくる岩のど真ん中を突いた。
ドガアァァン!!
「ほぇぇ……もうオリジナルスペルなんて編み出してやんの」
当たり前だ。俺には12年も差があんだからよ。普通にやるだけじゃ、あんたらには追いつけねぇよ。
独自のトレーニングも色々とやってんだから。おかげで毎日寝不足になっちまってるがな……。
俺の目標はアンソニーとウィザードで勝負して勝つ事。てめぇをぶちのめす為ならどんな辛い訓練メニューも俺は熟すぜ。
って、ゼノスの奴相変わらず速ぇな。けど、一瞬で空中に飛び上がったが、今の俺なら辛うじて捉える事が出来た。
突っ込んで来るのか? なら、こっちから行ってやる。
「ドルーフ」
「ちっ! またか!」
今度は3つの岩が俺の頭の上から降って来た。
さっきから基本スペルしか使って来やがらねぇな。やっぱ俺の事を舐めてやがる……。
この数日の間、俺は大きく成長したんだ。魔力も扱える量が格段に増えてるのが分かるんだ。そんで、あいつのさっきの動きも見えた。
一撃を入れられれば俺にだって勝機はある。
「おらぁぁぁ!!」
岩をぶち破ってさらに加速させて、ゼノスまで届かせる。
飛炎、火の魔力を体内で溜めて爆発させて力を増幅させる俺のオリジナルスペル。
燃えた拳をゼノスの顔面に命中させようとしたが、ガードされる。
{ゼノス←1HIT 33ダメージ}
ほとんど効いてねぇじゃねぇか……。
《ゼン、マナを取り込むのを忘れずにね。僕はティナと南東の方でモブBと交戦中。ジェノ、ある程度撹乱出来たらティナを助けてくれ。ゼノスが召喚したフェンリルが、こっちに向かって来ているんだ》
《……了解》
「かぁぁ〜聞いたかよ、ゼノスの奴、フェンリルなんて召喚しやがったぜ……」
「フェンリル?」
「霊神フェンリル。土属性を司る神様だ。ゼノスはそいつを召喚してレイモンド達の所に向かわせたらしい。あいつマジで本気でやってんな……へへ」
「何がおかしいんだよ」
「俺も燃えて来たって事だよ! ほら、ついてこいゼン!」
そう言いながらディックは、ゼノスに向かって走りながら両手に火の魔力を集めた。
「ランブレイズ!!」
ディックの周りの地面から、いくつもの火柱がゼノスに向かって走って行ったんだが、あれはオリジナルか? 炎は暫くすると狼に形作られて、ディックと共に走って行く。炎で出来た狼か。
まるでそれぞれが意思を持っているかのようにゼノスの周りを取り囲んだ。
「よっしゃ! 狼ども〜突っ込め!!」
「ディック、相変わらず攻めのパターンが少なすぎるぞ」
「う、うっせぇ! ゼン、俺が囮になる。次に合図を出したら、あの飛炎とか言うスペルを使え。いいな?」
「そんな卑怯な事はしねぇ。ゼノスは俺1人でやらせてくれ」
「馬鹿野郎! 連携を取るんだよ! ゼノスの後ろにいるプリーストは俺がやる。まずゼノスは俺がやると見せかけて本命のおめぇが背後からドカンだ。いいな? 俺が合図を送ったらおめぇにバトンタッチしてやっから! 先輩の言う事は聞け! な!」
「ちっ」
行きやがった。
連携なんて俺には必要ねぇんだよ。俺は正々堂々とタイマン張ってやりてぇんだ。
いくらゼノスがすげぇ奴だったとしても、2対1なんてフェアーじゃねぇ。
「ガドルフ」
火の狼に包囲されたゼノスはまた土属性魔術(アーススペル)で自分の周りに壁を発生させたんだ。
ドルーフの上位スペルだな。基本スペルの性能は頭に叩き込んでるつもりでも、いざ本番になるとぱっと出てこねぇ。
ん? ディックは何処言ったんだ? 俺がそう考えたのはほんの一瞬だった。この疑問が浮かんだと同時ぐれぇに奴はゼノスの頭上に飛び上がってたんだ。
「はっはーかかったなーゼノス! 俺もまた本気だぜ! ドォラァゴォブレイズだぁぁ!!」
ギュオォォォォォォォォーン!!!
今度は火のドラゴンか? さっきの狼と言い、ディックのオリジナルスペルは生きてるみてぇに動きやがる。
図太い蛇のように空を螺旋状に回りながら、火のドラゴンが頭上からゼノスに向かって墜落して来る。
「あれは回避出来そうにないな……」
ゼノスの表情が変わったな。ただのスペルじゃねぇって事ぐれぇは俺でも分かる。
ん? ガードする気か? 魔力がゼノスの両手に集まってそれがガラスのようなもんを作った。そうか、あれはシールドだな。
シールドがダメージを吸収して自分のダメージを軽減する、あれも基本的なスペルだ。
「ばーか、シールドなんかで防げる訳ねーだろうがよ!」
「ぬ、ぬうぅぅ……ぐぐぐ」
ゴォォォォォー!!
燃え盛るドラゴンの大きな口がゼノスの体ごと飲み込み、大爆発を起こした。
俺のとこまで爆風が来やがる……。
ドラゴブレイズか……なんつう破壊力だ。
{ゼノス←6HIT 1964ダメージ}
{ゼノス←火傷 60秒}
{ゼノス←火属性耐性低下 60秒}
「せ、せん……きゅうひゃくだと!? シールドでダメージ軽減が入ってこのダメージなのか……!?」
《おいゼン! 何やってんだよ! 合図送ったろ! 今のあいつは火属性耐性がめちゃくちゃ下がってっから、おめぇの飛炎が効く! ぶちかましてやれ!》
ディックからのテレパシーか。俺はそれに何の返事もせずに、ただじっとゼノスを見ていた。
《ゼン! おい! 聞こえてんだろ!! せっかくのチャンスを逃しちまうだろうが!! これは卑怯でも何でもねー! 作戦なんだぞ!》
俺はこんな戦い方は嫌だ。喧嘩ってのは正々堂々戦って相手を倒すもんだ。ウィザードだろうが俺の信念を変えてまで、勝ちたくはねぇ。
{ゼノス←火傷 回復}
{ゼノス←火属性耐性低下 回復}
隣にスッと降りて来るとディックは俺の胸ぐらを掴んだ。
まあ、あんたが怒るのは無理もない。それは分かってる。
けど、そんな戦い方は俺はしねぇ。
「おめぇ何様のつもりなんだ! ああ!? ウィザードはチームバトルだ。おめぇ1人で勝つなんて、そんな甘ぇ事考えんじゃねーよ!」
「証明してやるから、そこで見てろ」
ディックとゼノスの戦いで分かったのは、トレーニングの時のゼノスとは全く動きが違うと言う事。
それと、基本スペルも使い方によってはかなり使えるもんだって事も分かった。
俺はずっと俺だけのスペル、オリジナルスペルを発明する事で敵に攻撃の予測が出来ねぇようにすれば勝てると思ってたんだ。
今回の試験でまた1つ俺は大きく成長した。
さて、と。
静かに目を閉じて瞑想を始めると、目の前にエメラルド色に淡く輝く大きな木が蜃気楼のように現れた。
セイバーやプリーストはウィザードに勝利するとCt(キャルト)っつうポイントが手に入るんだが、これを使って〝スキルツリー〟で自分を成長させる事が出来るんだ。
今そのスキルツリーを呼び出したって事。
ここにはウィザードの基本スペルから、オリジナルスペルまで俺の可能性の全てを見る事が出来る。
ゼノスの攻撃の要となっているのは土属性魔術(アーススペル)。
得意属性を頻繁に使ってやがる。
土の弱点は確か……風属性か。
よし、Ctを使って風属性の基本スペルを全部アンロックさせる。
{ゼン←フウザ 習得(-70Ct)}
{ゼン←ゼフウザ 習得(-180Ct)}
{ゼン←ゼフザリオン 習得(-650Ct)}
次は風属性の支援魔術(サポートスペル)を適当に覚えとくか。
{ゼン←クイックフェザー 習得(-250Ct)}
{ゼン←縮地 習得(-720Ct)}
結構使っちまったが、まあこれで何とかなんだろ。
「待たせたなゼノス。正々堂々とタイマンでやろうぜ」
ん? なんだ? ゼノスも隣にいるディックも俺を見て固まってやがる。
「お、おめ……ぇ。それ……どうなってんだよ」
「あ?」
それ? 何のことだ?
「神樹……ゆ、ゆぐ……ユグドラシル!? な、何故だ!? 最初に教えた時は確かに普通のスキルツリーだった……」
俺のスキルツリーの事を言ってんのか?
「あ? 何言ってんだよ。みんな持ってるじゃねぇか。あんたらに教わったんだぜ?」
「い、いや……お前のそれは……ただのスキルツリーではない」
「な、なあゼノス。これがあの伝説のユグドラシルってやつならよ……こいつは……ゼンは……」
「あぁ……。ウィザードの創始者と言われている伝説の……グランベルクの末裔だ……」
なに? 俺がグランベルクの末裔? なんだそりゃあ……。
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