episode Ⅳ 入隊試験 ①
ゼノスから演習場に集合って指示が出た。
こんな朝早くにやんのかよ……。昨日のトレーニングが終わったのが夜中の2時……って今日じゃねぇか!
眠たい目を擦りながらも俺は遅れずに演習場へと向かった。
そこにはゼノス以外にも4人、ブレイブガードのメンバーがいた。
「ゼン、今日はお前の入隊試験だ。今日やる全てのトレーニングメニューは試験だと思って臨んでくれ」
「わかった」
ゼノス、あんたも2時間しか休んでねぇのに顔に全く出ねぇってのは、流石アルヴァニアの英雄って言われるだけの事はあんぜ。
「AチームとBチームに分かれて試合をする。ルールは言うまでもないがウィザード・バトルだ。
エンゲージは1対1でやるルール、そんでウィザード・バトルっつうのは、5対5でやる公式のルールだったな。
セイバー4人の、プリーストが1人が基本中の基本だが、プリーストを複数人入れてサポート力を高めるっつうフォーメーションもあるんだとか。
だが今回は基本のP1S4でやるらしい。
Pはプリースト、Sはセイバーだな。フォーメーション組む時にそう呼んでる。
「Aチームは、レイモンド、ディック、ティナ、ジェノ、ゼン。Bチームは私、あとは練習用のモブとなる」
「よう新入り! しっかり実力出してけよっ!」
そう言ってポンッと俺の肩を叩いたのは、ディック・ストライバー。
ゼノスの次に身長が高い。明るい性格でちょくちょく兄貴面してくんのがうぜぇ奴。
うぜぇが、実力はやっぱゼノスのクランにいるだけあってかなり戦闘レベルが高い。
火の魔力を得意としてるみてぇで、このクランで火の魔力を使わせたら右に出るもんはいねぇ。
確かに強くて尊敬は一応してる。けどそれとこれとは別だ。俺は明らかに面倒臭い顔で手を弾く。
「俺に触んじゃねぇよ」
「別にいいじゃねーかよ。試験の審査員はゼノスだけじゃねんだぜ?
「あぁ? 俺はそう言うのが大嫌いなんだよ。実力で試験に通ってやるから見とけよ」
「おーおー言うねー! 言ったねーゼン君! んじゃ、期待してるぜーにゃはは!」
「みんないい? これはゼンの試験でもあるけど、ゼノス抜きでどれだけ実力が出せるか、私達のトレーニングでもあるのを忘れないでちょうだいね」
ティナ・ウィンスレット。普段はよくディックと感情的に言い争ってるのを目にするが、一緒にトレーニングしてるといつも冷静な判断で行動している印象だった。そんで洞察力も鋭い。
このクランで唯一の女みてぇだが、魔力も男に負けてねぇし普通に凄ぇ女だ。
「ゼン、ルールはもう頭に入ってると思うけどプリーストである僕を守りつつ、敵を攻めていく。これを忘れないでくれよ? いいね?」
「あぁ。何度も言うが、俺はウィザードを学びに来てるだけだ。あんたらと馴れ合うつもりはねぇからそれも忘れんなよ」
レイモンド・ロック。凄腕のプリーストだ。
プリーストはパーティの要となる存在。常に周りの状況を把握しながら、マナを生んだり、支援魔術で味方を強くしたりする役割。レイモンドの凄さは状況判断能力とマナ生成の速さだ。
ブレイブガードのメンバーん中で、1番痩せ型のヒョロヒョロな奴。見た目だけで言うなら間違いなくプリースト顔だ。
プリーストだけが使える治癒術ってスペルはその名前の通り、味方の傷を治したりするんだが、傷ついたら直ぐに治癒術が飛んでくるのは凄ぇと思った。周りを見てすぐに反応出来る力、こいつも凄ぇ奴だ。
「おいお前。魔力なしでゼノスにダメージ入れたんだってな。面白えじゃねぇか。今度俺様とサシで勝負しろ」
ジェノ・クラヴィス.この男の見た目を一言で言うとサングラスをかけた黒羊。
クルクルの癖の強ぇ髪がマジで羊の毛なんだよ。
んで、いつ見ても黒いサングラスをかけてるから素顔を見た事ねぇんだよな。
ただジェノはこん中で1番接しやすい奴だ。
タイマンで戦う以外の事を考えてないところも同じだ。
「俺はいつでもいいぜ。あんたの都合次第だ」
「では、ウィザード・バトルを開始する。バトルステージへ向かおう」
ゼノスがそう言うと、俺達は演習場のど真ん中に設置されてるバトルステージと呼ばれるエリアに入る。
ウィザード・エンゲージが自分でリージョンを展開し戦えるのに対し、ウィザード・バトルは特定のエリア内で戦うもんって覚えてんだけど、それがこのバトルステージってとこなんだ。
「なあレイモンド、アーディルはどうすんだ?」
「各々2つずつ所持でいいと思うけど、誰か今日の作戦考えて来たりした?」
「そうね、今回はゼンと連携を取ったりして色々試してみたいって思ってるからそれでいいと思うわ」
「俺様は通常通り単独で裏に回ってゼノス以外を撹乱する」
「そっか! んじゃいつも通りって事で! おいゼン、アーディルの使い方分かるよな? バトルは確かこれで3回目だったか?」
「あぁ。説明はしなくていいぜ」
アーディルは青白い光の玉の事を言うんだが、ウィザード・バトルはただ単に相手を攻撃して倒すだけじゃ勝てねぇんだ。
制限時間以内にどれだけアーディルを持っているか、多い方が勝利になるんだ。
エンゲージと違って、ただ相手を倒せばいいって訳じゃねぇからその辺は注意しねぇとな。
「よし、皆準備をしてくれ。アーディルを入れろ」
バトルステージに入ると、エンゲージと同じくジャッジメントが4体ステージ上空を飛んでるんだが、同時に20個のアーディルも同じく空をグルグルと回ってやがんだ。
味方パーティ10個、相手パーティ10個、それぞれ魔力で引き寄せて体の中に入れる。
今回はそれぞれ2個所持らしいから、体の中に2個アーディルを入れる。
このアーディルを如何にして取られねぇようにするか、そんで相手からどうやって取るかを考えていかなきゃなんねぇんだ。
「ゼン、これまで学んだ事を全て活かして試験に臨むんだ。それでは、試合開始とする」
「おい、ゼノスの奴も2個ずつか! 俺達に合わせて来やがったな!」
{ゼノスパーティvsレイモンドパーティ}
{制限時間→20分}
ジャッジメントがログを表示した。
これは試合開始の合図だ。この合図と同時にレイモンドが「ディック!」と叫ぶ。
「言われなくても分かってんぜー!」
何で名前を呼んだのか分かんねぇけど、次の瞬間何もなかったこのステージが岩山が聳える荒野に姿を変えやがったんだ。
地形魔術(フィールドスペル)だ。バトルステージの地形を自分の得意とする地形に変化させる高等魔術。
レイモンドがディックの名前を呼んだのは、そう言う事か。
けど、兄貴面は苦い表情してやがるが……。
「くそ! ゼノスの奴、相変わらず詠唱がはえー!」
「問題ないよ。ゼノスの戦略はみんな分かってるからね」
「ゼン、貴方はディックと一緒に行って。レイモンドは私が見て」
何言ってんだよ。固まってたらゼノスにやられんだろうが。
俺はティナの言葉を最後まで聞く前に、目の前の練習用のモブに向かって飛ぶ。
「ちょっ、ちょっとゼン! 待ちなさい!」
魔力は呼吸と同じ。息を吸って吐き出す呼吸のように、マナを取り込んで体ん中で魔力を使って吐き出す。
俺は近くのモブに素早く近づいて拳一点に魔力を集め、胸元を突いた。
「うるるるあぁぁ!!!」
ドゴォォォン!!
{モブC←1HIT 84ダメージ}
よし、まずまずだな。この調子で続けていくぜ。
次の攻撃を繰り出そうとした時、足下から鋭く尖った石の槍が突き出しやがったんだ。
「うがぁぁっ!!」
{ゼン←3HIT 98ダメージ}
やべぇ、今のでアーディルが俺の体から1つ飛び出しやがった。
「甘いぞゼン」
それを素早くゼノスが取り込む。さっきの魔術はゼノスか。
いきなり地面から……全く予想してなかった。
「くっそぉ……」
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