episode Ⅲ-2 異変 -レリス視点-


 おにいちゃんが、ゼノスさんと一緒にクランハウスに行って丁度1週間。

 私もリンベル地区のお家から王都アルヴァニアの医療施設にお引越しして来た。

 リンベル地区の端っこの田舎町に住んでたから、こっち来て人の数にびっくり。

 オシャレな人がいっぱいいて、行ってみたいお店もいっぱいあってウキウキしちゃった。でも外出は出来ないんだ。

 この施設に来たのって、おにいちゃんとすぐ会えるようにって

ゼノスさんが、お金の事から全部やって下さったの。

 本当、優しい人だな。



 「おにいちゃん、ゼノスさんにいきなりスカウトされてきっとびっくりしただろうな……うふふふ」



 その後すぐに、はぁ、と溜め息が出る。でも、本当の事を知ったらきっと怒っちゃうよね。私、おにいちゃんに隠してた事があるんだ……。

 

 おにいちゃんが必死で貯めたお金は、ほとんど病院代に消えてた。

 だから私は内緒で治療を時々キャンセルしてたの。

 おにいちゃんはほとんど家にいなかったから、先生が訪問に来てたよって言えば信じるだろうって。


 結果は上手くいった。私はそのお金を使って、コネを作ったんだ。

 ゼノスさんはこの国の英雄だから、きっとおにいちゃん喜んでくれるかなって、ウィザードを始めてくれるかなって思ったんだ。



「うぅっ!?」



 一瞬だけ胸がズキンって痛みがした。脈や心臓がドクンドクン、って波打ってる。それでいて全身が凍ったように痛い。いつもの症状だけどまた悪化したのかな。

 メタラ病は不治の病。アルヴァニアで最高の医術力がある施設でも、この病気を治す事は出来ないの。

 


 おかしいな……ドクドクドクとまだ全身で鳴ってる。

 いつもならお薬飲むと治るのに、もう飲んでから1時間以上経ってる。


 そう言えば手足の感覚がしない。

 新しいお薬が原因? 合ってないのかな?



「……とり……あえず、先生呼ば……ない……と」



 ベッド横の棚に置いてる水晶、これに手を翳せば私の魔力に反応して遠くの先生達がいる部屋の水晶に伝わるんだっけ。

 人間ってどんな人でも魔力は備わってるものだって先生が言ってた。

 私やおにいちゃんみたく、学校に行ってなくて魔力の扱い方を知らない人でも水晶は反応するから安心だね。



「う……そ……?」



 手が……私の手が…………?



「透け……てる……?」



 私の手先、足の先が薄く透けてるの。水晶に翳したから?

 そう思って手を目の前に持ってくるとやっぱり透明。

 メタラ病の症状の最終ステージ、全身に身も凍るような感覚を感じたら次に全身の透過が始まる。それってただ透明になったって事じゃないんだよね。


 私の存在そのものが消えてなくなるの。

 魂が汚れてなくなってしまう病気だから、どんな治癒術も蘇生術も無効。

 でもね、私がそれ以上に最も恐れているものがあって……。


 この世界の人から私と言う記憶が消えてなくなっちゃうの。

 私なんて最初からいなかったかのようにみんな忘れる。


 例えこの先の未来で、蘇生術が発達して魂ごと蘇らせられる日がやって来ても、私は誰からの記憶にも残ってないから蘇生される事はないんだ。


 私って自分でも明るい性格だと思ってたけど、その元気も全部吸い取られてる気がするな。

 

 ずっと延命治療を続けるか、止めるか選んでここまでやって来た。

 選べただけ幸せだったんだね私って……。


 そこで私の記憶は途絶えてしまった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る