episode Ⅲ ルールを学ぶ



 俺はゼノス達のクラン、ブレイブガードのハウス内の演習場でウィザードのトレーニングに励んでいた。

 こっち来て2日目だ。昨日はゼノスとマンツーマンでウィザードの知識だけを叩き込まれた。けど今日からは、実際に体を使ってやるトレーニングらしい。

 


「いいかゼン、それではルールをお浚いするぞ。しっかり頭に叩き込んでおいてくれ。まずウィザードには大きく分けて2種類の役割がある」



 【セイバー】→主に相手と戦う役割を持つ。

 【プリースト】→マナを生む、仲間を支援するサポートの役割を持つ。


 魔力を扱うにはプリーストのマナを取り込む必要があり、試合中セイバーは、プリーストを守りつつ相手チームを倒さなくてはならない。

 と、ゼノスが光の窓を呼び出して動きのついた絵で分かりやすく説明してくれる。



「つまり、相手チームのプリーストを先に倒しちまえば、向こうのセイバー達は戦力が落ちるって訳だな?」


「流石だな。だが、実際の試合はそう単純なものじゃない。しかし、ここではプリーストがいないとセイバー達は、魔力を使う事が出来なくなるとだけ覚えておいてくれ」



 そう言いながら、ゼノスはドーム状の半透明な何かをこの辺りに広げやがった。

 この透明なドーム、アンソニーの時にも見たやつだ。

 いきなりこのドームが現れてウィザードが始まったんだ。



「このドームを〝リージョン〟と呼ぶ。リージョンに入ったらウィザード開始となる。ウィザードは必ずリージョンを展開してからでないと行えないようになっているのだ」



 ゼノスの説明の途中に、何処からともなくやって来た丸い球がドームの中を飛び回ってやがんだ。


 1、2……4つの丸い球か。ん? 目があんのか? パチパチと瞬きしてるように見えるんだが……。



「なんだありゃ」


「あの4つの丸い球は、ジャッジメント。リージョン内の試合のデータを記録して視覚的に情報を教えてくれる」



{ウィザード・エンゲージ}

{ゼノスvsゼン}



 俺の目の前に光の窓が出てきて、情報が表示された。



「この、1番上に表示されてるウィザード・エンゲージって何なんだ?」


「エンゲージは公式じゃない試合だ。お前にも分かりやすく簡単に言えばストリートファイトだな。エンゲージは必ず1vs1で行われる。それ以外の者はこのリージョンに入って来れなくなる」


 そうか、だからあの時ゲイルの奴は外にいやがったのか。

 あれは中に入る事が出来なかったんだな。

 リージョンの中には俺とゼノスの2人。ジャッジメントっつうやつは上の方でグルグルと回ってやがる。

 試合のデータを取ってるって事なんだな、なるほど。



「よし、とりあえず今のお前の力を見てみよう。どんな攻撃方法でも構わんから、私を倒すつもりで全力で来るのだ」


「全力か、おもしれぇ! やってやろうじゃねぇか!!」



 相手が何だろうが関係ねえ。俺は全力で向かって行った。

 ゼノスの奴、両手を後ろに組んで微動だにしねぇが、舐めてんのか。



「うるるるあぁぁぁぁ!!!!」



 ドガアァッ!!


 ゼノスの横腹に右フックを入れてやった。


{ゼノス←1HIT 1ダメージ}



 お、ジャッジメントがなんか表示したな。

 1ヒット? 1ダメージってなんだ?



「そんな感じで、試合中ジャッジメントは我々に情報を与えてくれる。ところで、もうお仕舞いか?」


「あ? まだまだいくぜぇ!!」



 その後、俺は全力で殴り続けた。ゼノスを倒すつもりで。

 だが、壁を殴ってるみてぇにクソかてぇんだよ。



「だぁぁ!!!」



 ドムッ!



{ゼノス←0ダメージ}



「はあ……はあ……んだよ、さっきから1とか0とか……はぁはぁ……ばっかじゃねぇかよ……」


「それはお前の力が決して弱いからではない。お前は力任せにただ殴ってるだけだからダメージが出ないのだ」


「あぁ? ……はあ……はぁ……んじゃ、どうすりゃいんだよ」 


「このリージョン内では物理的な力は何の意味も持たなくなる。攻撃、移動、防御、全てにおいて魔力を使つかうのだ」



 そうか。だからアンソニーとやった時、手応えがなかったんだな。



 ヴゥゥンッ!



「な!?」



 一瞬で俺の懐に入って腹に手を当てた。そう、ただ手を当てられただけなんだ。

 それなのに俺は、まるで突風に晒されたかのように背後に吹っ飛んじまった。

 ゼノスの奴……走って来たんじゃねぇんだよ。なんなんだ今のは……。



{ゼン←1HIT 134ダメージ}



「魔力を使えば、こんな風にしっかりとダメージが出せる」


「う……ぐぅ……た、立てね……ぇ」



 腹に鉛が当たったみてぇに痛ぇ。



「だがな、正直、力だけでダメージを出せた事には驚いたぞ。お前は戦闘センスがある。魔力を使い熟せるようになればもっと強くなるだろう」



 その後、俺はゼノスに魔力の使い方を学んだ。

 魔力の基本は5歳時に習得するから、12年もの遅れを取り戻さなきゃなんねぇ。

 ウィザードのルール、魔力を使った戦い方、膨大な数の量の知識をゆっくりと着実に覚えていったんだ。


 ゼノスは、魔力を発現させるのは、怒りや憎しみなんかの感情を表に出すのと似ているって言ってた。

 なんとなくコツを掴んできたぜ。


 それから6時間が経った。



「うらぁ! でぇぇやぁぁ!」



{ゼノス←2HIT 68ダメージ}



「……ほう、今のは中々のダメージだったな」


「なるほどな、分かって来たぜ! 魔力ってやつがな!」


「よし、今日はこのぐらいにしておこう」



{プラクティスモード終了}



 お、リージョンってやつが消えたな。これでウィザードが終わったって事なんだな。

 ウィザードか……やればやる程、おもしれぇ。

 もっと魔力を極めて、ゼノスみてぇな強ぇ奴と戦ってみてぇぜ。



「ゼン、今回はトレーニングであるから練習用で取り込めるマナの量も少なかった。次は実戦で実際のプリーストからマナを取り込んでやるトレーニングに入る」


「なあ、エンゲージってやつは1vs1で、外からは入って来れねぇんだろ?」


「そうだ。エンゲージの場合、当事者以外は参加出来ん」


「だったらよ、マナはどうやって取り込むんだ? プリーストとずっと日頃から一緒にいろって事か?」


「ほう、中々の着眼点だな。プリーストも例外なく介入する事は出来んのだ。つまり、予めマナを取り込んでおく準備が必要になると言う事。エンゲージでウィザードを行う場合は、その辺りも気をつけるようにしないとな」


「そうか、じゃあ減ったマナは常にプリーストに頼まねぇといけねぇって事なんだな。めんどくせぇ……」


「いや、そうではない。我々も極々微量だが、休息を取っていると自然にマナを取り込んでいる。プリーストには遠く及ばないが、セイバーにも一応その能力は備わってるのだ。ただし試合後に限る。リージョンから出なければ休息にはならんからこれも覚えておいてくれ」


「ウィザードが終わった後って事だな」


「うむ。明日は、我がクランのメンバーと顔合わせだ。そしていよいよウィザードの本格的なトレーニングに入るぞ。更に厳しくなるから覚悟するようにな」



 やってやる。やってやんぜ……。







-アンソニー視点-


「へあぁ! ぐうおぉー!」


「うぅ!? あ……あぁ……」



{ゲイル←2HIT 74ダメージ}

{ゲイル←HP0 戦闘不能}



「ゲイル……まだまだだな〜君は」



{今回のウィザードの勝者アンソニー・ハイデン}

{アンソニー←18Ct 獲得}



 ふぅ。僕はリージョンを解放した。

 この間のパパとの試合、もっといけると思ったんだけどな。

 大会も近いし、ちょっとメンバーの編成をし直そうかな。



「誰かゲイルを医務室に連れて行ってくれー!」



 ゲイル……僕の忠実な下僕には変わりないが、ウィザードはてんで弱い。

 スタメンに入れてくれなんて言うから、ちょっとは成長したんだと思ってたんだけどな〜。

 

 ここは僕のクラン〝フェニックス〟のハウス。

 ジュニア部門でクランを持ってる人間は僕ぐらいだろうね……ふふふ。

 フェニックスはリンベル地区で、徐々に頭角を表してきてるって噂も結構耳に入ってくるぐらい、今年の大会で最も注目されてるルーキーなんだ。

 僕さえしっかりしていれば、まあジュニア部門で優勝間違いなしだろう。



「アンソニーさん! ここにいらっしゃったのですね」



 忙しなく演習場に入ってきたのは、プリーストのユシア・ヴァールハイト。

 この間僕がスカウトして来た超、超、超、超可愛い女の子なんだよ〜⭐︎

 お尻まで伸びたミルクティー色のウェーブロングヘアがちょっと風に揺れただけでもとてつもなくいい香りがする。

 言葉遣いも丁寧で、声も透き通っててまさにパーフェクト!


 パパのコネでスカウト出来たんだけど絶対に貴族に違いない。と言うのもこの子、情報のほとんどが伏せられてたんだよな。

 素性を隠せるイコール、権力(ちから)があるって事。

 まあ何でもいいんだよ可愛いから!


 でも、実は容姿だけじゃなく、プリーストとしての能力も素晴らしいんだよ。

 見た目、スタイル、性能、全てパーフェクト!



「あの……アンソニーさん? 聞いてます?」


「ぬわ!? う、うん……な、何かあったのかな?」


「ゼン・ヴァンガードさん、確かこの間アンソニーさんとエンゲージされた方でしたよね? あの方、ブレイブガードのクランに拾われたみたいなのです。ほら、ブレイブガードって今までスカウトなんてなかったじゃないですか、まだ入隊テストを受ける段階らしいですけれど、わたくし、ゼンさんってどんな方なのか興味があります!」


「なぁにぃ!? ゼンがブレイブガードに拾われただってぇ!?」



 ブレイブガードって言ったら、有名なゼノス・ガーランドがいるクランじゃないか。

 アルヴァニアの英雄なんて世界の人間が認知してるぐらい最強のセイバーの1人だ。

 あんな子供以下の知識しかなかったゼンが? どうして?



「あり得ない……選ばれるとしたら実力も金も持ってる僕のはず。断じてあんな貧乏の落ちこぼれじゃない」



 何かがおかしい。あんな奴が、あんな奴が、あんな奴が……。



「そ、そうか……不正だ」


「はい?」


「ゼンの奴、不正を働いてブレイブガードに自分を売り込んだんだな! 間違いなくそうだ! どっちが卑怯者だよ、お前の方が卑怯じゃないか!」


「あ、ああの……アンソニーさん?」


「貧乏人の落ちこぼれが! そんな卑怯な事をする奴には僕が制裁を加えてやらないとな! ふっふっふ……とっておきのやつをくれてやるよ……ゼン」

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