第27話
デスクに座ってから課題をしようとしたけど、中々集中できない。
今日は結構歩いたし、不思議と疲れたんだと思う。
それに、伊織くんに昔の話をしたことで、色々と思い出してしまった。
私の人生において、あの過去こそがカップリングをしたがる嗜好を生んだマイルストーン。
そう、伊織くんの言っている事は間違っていない。
きっと私はカプ厨で、それ以上でもそれ以下でもない。
異性同士どころか、同性同士にもお似合いだなんて考えてしまうくらいだ。
実際、今日だって女子同士で交換し合うアクセサリーについての話で必要以上に舞い上がってしまった。あれは元々百合カップルの為に出来た流行だったから、食いつくのは必然。
(あの時、伊織くんはよく話を聞いてくれたけど、やっぱり内心では引いていたのかな)
そんな私の特性は後天的なもの。あの過去があったから、私は変わった。
(伊織くんには全部話しきれなかったなぁ)
あの時語った話は事実だけど、私の過去話には続きがある。
それは、私の元親友二人が付き合った後のお話。
高校受験が一通り終わって、進学先を決めるよりも前に、男の子の方に呼び出された。
二人は毎日を幸せそうに過ごしていたし、私はてっきり彼女のことで相談したいことがあるのかな、なんてカップリング欲求が温厚だった頃の私は楽観的にも考えていたんだろう。
それなのに、男の子は私に二回目の告白をした。
浮気をしようとしているとか、今の彼女と別れて乗り換えるとか、そういう意味が含まれていない告白。すなわち、自己満足の類。
しょうもないお話だ。事実を伝えたかっただけ? 当時の私には理解できなかった。
恐ろしかった……好きな子がいるのに他の女に目を向ける男のことを恐ろしく感じた。
(どうして一途でいられないのかな?)
愛するってことは、意識しなければできないから、つまりあいつは、友情と愛情にメリハリが付けられなかった怪物に違いない。
逃げたかった。だから逃げた。地元を離れ、頭の中から記憶ごと追い出したかった。
間違ってはいないけど、本当に逃げたかったのは……残酷な現実からだった。でも、それはある意味正しい行動だったのかもしれない。
私は、二人を愛し合わせることに失敗してしまったんだって、わかったから。
未練たらたらだって事を隠すために、高校入学式の日の事も話した。
実際、私が案外まともでいられたのはあの日に萌奈と友達になったから。
土地勘のなかった私は学校までの通学路がわからず朝から迷ってしまった。そこで偶然出会ったのが、萌奈だった。
第一印象は、艶やかな金髪が同性から見てもしっかり手入れされているお人形みたいな女の子。お洒落に気を遣っている様からどこかおしとやかなお姫様のイメージ。
かと思っていたら、教室では人格が変わったみたいにギャルになって、最初はよくわからなかった。
最初は守ってあげたくなるような子だったのに、いつの間にかリードされていたのは私の方だった。
(だから私は萌奈のことを好きになった……とか、そうはならなかったけど)
恋愛系の映画を沢山見ていた私は、何となくだけど、この子はきっと一途な恋をするんだろうな……と、そんな感想を抱いた。
いつもながら自分の感想の短さに呆れる。でも何故だか、その方が余韻に残る。
萌奈との出会いで、私の頭の中には多くの展望に近しい妄想が浮かんだ。
少しだけ生きがいのようなものを見つけたみたいで、高校生活が楽しくなった。
結局、萌奈とは同じクラスになったとはいえ、五十音順の席で離れてしまったけど。
そんな時、退屈そうな私に話しかけてきたのが、前の席の浩介くんだった。
男性不振になりかけていた私は、初対面なのに上手く話すことが出来なかったけど、あの時は浩介くんの更に前の席にいた真澄がカバーしてくれて助かった。
けど、その瞬間私は気付いた……真澄が嫉妬の目線を私に向けていることに。
二人が付き合っていることには、言われなくてもすぐに気付いた。
とてもお似合いで、一番に互いを想い合っていて、素敵だと眺めるようになった。
あの頃には、もうカプ厨としての私の本質は、変わらないものになっていた。
とはいえ、私がカプ厨だったからこその失敗だってある。
萌奈が千里くんと友達になった時の話。
千里くんには彼女がいるというのに紹介してくれなかったから、本当は萌奈と付き合っているのか、なんて私は誤解した。
それで、つい二人をカップリングして揶揄ってみたけど、早とちりだった。
謝ったら二人はすぐに許してくれたけど、問題はそこじゃない。揶揄が他の人に聞かれていて、女子の中で噂が立ち始めてきたことにある。
私が原因を作ったんだし、どうにか噂にならないように解決策を練った。
千里くんには本当に他校の彼女がいたので、その境遇を参考にして萌奈にも他校の彼氏がいると仄めかす噂を流した。
もちろん、本人の許可はもらっていたし、萌奈は中学で告白されることが多かったから「とても助かるよ」だなんて曇りない笑顔で言ってくれて、気付けば噂は落ち着いてくれた。
そのことで、高校生の間に萌奈にお似合いの人はできないような気がして、意気消沈した日もあった。
そんな時、伊織くんが現れた。
私は他人の恋愛に関して二度と失敗しない。
萌奈が、私と伊織くんをくっ付けようとしているのは見抜いている。
伊織くんを紹介してきてから、見覚えのあるやり方に、昔の自分を思い出した。
似たことをし始めた萌奈は可愛げあったし、対抗心に燃えたんだろう。
プール掃除の後、マフィンを食べて貰った時に、伊織くんが知りながらも辛子の入った方を選んだ事を知った時は、この二人がお似合いだと確信できた。
千里くんも日頃から私と伊織くんが話しやすいように露骨だったから、萌奈の側にいることはわかっていた。
逆に真澄と浩介くんはそうでもないとわかったから、すぐに協力を仰いだ。二人の口は非常に固いから、私としても安心。
案の定、二人も萌奈の側に誘われたみたいで、上手く状況を探ることができた。
浩介くんと真澄さんは私の側にいる。
だから、今日のことも最初から全て見抜いていた。
伊織くんは私の考察に拍子抜けしていたけど、私の頭脳じゃ限界がある。
全てははカプ厨としての執念や意地、努力で補うしかなかった。
まあ全てを暴けた訳じゃない……伊織くんも底が知れない。
だからこそ、本懐を遂げた時はどんなに華々しいんだろうと、思えてしまう。
今度こそ、私を最高の恋のキューピットにさせてください。
「いいえ、絶対になってみせるんだから!」
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