拾ったのは負けヒロイン

無事に帰宅。

謎の少女も特に問題は起こさなかった。


1LDKのマンション。

一人暮らしを始めてからずっとここに住んでいる。


「はい、タオル。そっち風呂場だから。シャワー使って、沸かしたければ風呂入ってもいいけど」


「…いい。シャワーで済ませる」


「洗濯機に濡れた服とか入れといて、すぐに洗って乾かすから」


「…うん」


「それじゃ、ごゆっくり」


浴室の扉を閉める。

とにかく、着られる服を用意しよう。

ジャージでいいか?少しデカい?

まあ、服乾くまでの間はいいか。

匂い平気かな?

・・・柔軟剤の匂いだ。


準備を整えて浴室前の扉をノック。

僕は紳士だ。少女とはいえ失礼があってはならないからな。

とくに返事はないようなので、浴室にいる模様。いまのうちに洗濯機を回してしまおう。

あ、スカートに泥ついてる。仕方ない落としてやるか。


「おーい、風呂上がったら着替えとバスタオル置いておいたから使ってくれ!」


返事がない。

聞こえていないもしれないから、置き手紙だけ残しておく。


とにかく退散退散。


さて、僕も軽く着替えてダラダラする準備でもするか。


数十分後。


ガラガラ。

どうやら、シャワーを浴び終えたようだ。


「お、あがったか?そしたら僕もシャワー…に…」


「その、シャワーありがとう。あったたまった」


バスタオルを巻いて、来客用のスリッパで歩いてきた。

さっきまで暗くて虚だった目に正気が戻ったみたいだ。

じゃなくて、この子。ウソだろ?


メチャクチャ美少女じゃねーか!!!!!


藍色の艶々で透き通るようなロングヘアー、小顔に神秘的な大きな瞳に長いまつ毛!身体はもう少し細身と思ったら案外デカい…、

あ、これ僕のジャージだったわ。


「そのサイズとか平気か?動きずらいなら別のにするけど」


「いい。このダボっとしてるの悪くないから気にしてない」


ダボっとしてるんかー。

おっとそんなことしてる場合じゃない。


「僕もシャワー浴びてくる。その辺のソファでくつろいでくれ、冷蔵庫のもの勝手に飲んだり食べたりしていいから」


そう言い残して、僕はシャワーを浴びる。

はぁ。あったかい・・・。

じゃねーーーーー!!!!!

なんだあの美少女!


信じられない。

あんな子が現実にいるだなんて、

世界はまだまだ広いということか。

まあ、二次嫁には敵わんが。


だが、しかし。

それよりもどうするか?

明らかに問題あるみたいだからあんまり詳しくは聞けないかもな。

せめて断片的に聞いてみてそれからゆっくりと解決に近づけてみよう。


未成年を家にあげてる時点で、

普通にアウトだし。

こうしてる間にも何かされてたら?

さすがにないと信じたい。

とにかく手早くこの事態を解決したい!

それよりも早くビール飲みたい!



僕はシャワーを浴び終えて、

リビングに戻る。


「お、あがったんだ〜。ほら水分取るでしょ?」


おいおい。ウソだろ?

信じられないことが目の前で起こっている。

これを確認しないわけにはいかない。


「なぁ、キミ。それ、何飲んでるの?」


「なにって、ビールに決まってるじゃん。ヒック。シラフなのに酔ってるの?」


ウソだろ?もう酔ってるし。

じゃなくて!未成年が酒飲んでるって!


・・・ハッ!いや、待てよ。

もしや前提が間違っていたのかもしれない。


「ちょっと聞いていいか?キミは成人ってことでいい?」


「そりゃそうでしょ〜。確かにお酒買う時、怪しまられることはあるけど、きちんとした大人ですー!」


なんで、そんな誇らしげに語るのか訳がわからん。そんなことより。


「なんで、制服着てたの?学生と間違われたりしない?」


「それは、カレシが喜ぶからき…た・・・ひぐっ、うぇーーーん!!!」


突然泣き出した。

どうやら心の傷の原因はカレシみたいだ。

カレシとやらの趣味を疑う。


「で?そのカレシはどうしたの?もしかしてケンカ?」


「違う!フラれたの!この格好で告白したらアリかもって言われてそうしたら、『いや、普通にない』って見捨てられたの!うぇーーーん!!!」


「それは災難、…だったな」


弄んだだけでなく。

そのまま捨てるとかなんてやつだ。

もしあったら一発ぶん殴ってやりたい!


「それだけじゃないの!私ね!これまで付き合ってきた人といい感じになっても必ずフラれるか自然消滅するの!」


なんだか、話が面倒な方へ逸れていった気がする。


「ほぅ、大変だな。一応聞いておくけど、相手の特徴について簡単に言えるか?」


「いろんな人と付き合ったから一概に言えないけど、私には物語の主人公みたいな人だった…なのにすぐに別の女を見つけては、

『運命の相手を見つけた』とか、

『俺には彼女しかいない』とか、

『彼女が僕にとっての特別』とか、

散々いろんな理由並べて、

結局フラれたのよーーー!!!

うわーーーーーん!!!!!」


泣きじゃくる少女(成人)をみていると、

惨めで可哀想な気持ちになる。


ふと、ひとつ。

恋愛の中で思い当たったとあるポジションを彼女に当てはめてしまった。

それは決して口外できないけれど。


「まあとにかく成人なんだろ?まだあるから飲むか?」


「うん!飲〜む!!!やけ酒じゃーーーーーい!!!!!」


どうやら、僕の拾ってきた美少女(成人)は恋愛が実らない、負けヒロインでした。

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