ブチ(しろてんてんうし)

1.概要

 錫見原市内で出産時に現れる牛の怪異。白地に斑点模様のダルメシアンのような柄の雄牛の姿をしている。主に夜間に出産する場合に、妊婦の前に現れ、母子やその周囲を手当たり次第に文字通り消去する。暴れまわることはなく、怪我人を出すことはないが、音もなく近づくため人間には近づいていることすら気づかせない。明屋慈畢愎神や薬子母神の眷属である犬などが気配に勘付き、人間に知らせることで難を逃れる場合もある。また、全ての出産時に現れるわけではなく、難産の場合に多く出現することが市内でも知られていた。そのため市内で出産すること自体がタブー視されている地域もあった。市内の産院では難産になりそうなハイリスク出産の場合は市外で出産することを勧めていた。更に通常の出産の場合も、夜間になりそうな場合はすぐに帝王切開に切り替えるなど、医療的に正しい処置よりも、この怪異から逃れることを優先していた。この出産のルールは家畜などにも適応されるため、菅沼が通う農業高校やその他家畜飼育者達の多くは夜に産気づいた母体がある場合、胎内の赤子もしくは母体のどちらかを即殺し、出産自体を無かったことにすることが多かった。また、夜間に出産させないための研究が大学で多く行われていた。なお、市内ではあまり知られていないが、この怪異の弱点は煙と強烈な悪臭である。

 この怪異は今作では響介が菅沼宅に避難した際に出現した。菅沼が飼育するヤギが夜間に産気づき、更に難産であったことなどから、菅沼の住む離れ及び飼育小屋の近くの雑木林に出現した。菅沼が飼っていた犬の薬子母神の眷属化が進んでいたことや、明屋慈畢愎神が一緒に飼育されたいた事などから、これらが不眠症で寝付けずにいた響介にブチ出現を知らせ、対応をさせた。響介は本編開始前にこの怪異について知っていたため、犬の糞を炊いて悪臭をまとった煙を発生させて撃退した。

 なお、菅沼が牛ではなくヤギを飼育していたのは、ヤギの出産は難産になることが比較的少なく、昼間に出産することが多いためである。

 

2.行動指標

 あらゆる動物の夜間出産時にランダムで母子から百メートル離れた場所に出現。市内には同時に一個体のみが出現する。また出現確率は難産であれば二倍となる。更に出産が長引くと十分ごとに出現判定が行われる。出現した場合は母子へ触れる前に撃退しなければ母子と周囲五メートル以内の存在を消去する。

 強烈な悪臭(特に動物の糞の匂い)を伴った煙を炊くことで撤退する。

 

3.補足・元ネタなど

 発想元は「梅毒」である。やたらと男女関係が爛れていた金子鈴美というキャラクターを作成した後、彼女が嫌っているものや、彼女が好むもの、或いは彼女が望まずとも迫るものを怪異化したいという考えがあり、「梅毒」を怪異化することとした。当初は天然痘の神である疱瘡神を錫見原市に登場させる予定があったが、天然痘が既に根絶された感染症ということもあったため、今作では現代日本で若者の間に流行している梅毒の怪異を登場させた。金子鈴美の一部といったような側面があり、彼女があきひず様を取り込んだ後に生み出した怪異として、牛の姿を取らせた。(なお、牛の姿である部分については、疱瘡神⇛天然痘⇛天然痘ワクチン⇛牛痘ウイルス⇛牛痘の神的なのでも良いな、というざっくりとした連想もあった)

 また、弱点の悪臭を伴った煙というのは、作者が知人から聞いた疫病除けのおまじない(恐らくは疫神信仰に列するような民間信仰の類い)をモチーフにしている。

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