黒い胎児(くらいやつ・くろいやつ)

1.概要

 錫見原市のロッカーや井戸など、暗い空間に出現していた薬子母神に由来する怪異。四方1m以内のあまり光が入らない空間に出現し、近づいた人間を引きずり込む。引きずり込む人間は基本的に「胎内回帰願望」や「希死念慮」を持った人間である。引きずり込んだ人間は脳などの神経系を啜った後、生後八ヶ月までの胎児として排泄する。

 本来は錫見原市の維持のため、住人の適正捕食を狙って薬子母神が生み出した怪異だが、市内に捕食対象となる人間が多かったことから多数の失踪者を出すことになった。捕食しすぎたためか、異常増殖を起こし、度々市内で異質な個体が出現した。異常個体は「コインロッカーに排泄胎児を陳列する」「効率よく神経系を啜るために人間の頭部のみを捕食しようとする」などを起こした。そういった個体は後に兄弟である犬たちが捕食し、処分した。

 神や眷属以外では珍しく自我が強く、人間とも会話する個体がいた。そういった個体は家屋の地下倉庫などに潜み、人語や人間の習慣の理解に努めていた。その後ロッカーに移り住み、赤子の泣き真似をして人間を誘うなどの捕食行為を見せていた。

 

 なお、薬子母神や犬たちと共に錫見原市の外に漏れ出た怪異の一つ。

 

2.行動指標

 上記記載の通りだが、個体差が激しい。正常個体は各駅や学校、ビル内のロッカーに潜み、上記のような捕食行動を繰り返していた。市内の主立った行方不明者や体液のみの採取が行われていた事件の原因となっていた。その特性上、市街地に出現する。家屋にも出現出来る環境はあるものの、別の怪異が存在していることが多いことと、捕食対象となる人間の絶対数が少ないため、避ける傾向があった。

 

3.補足・元ネタなど

 中心的な元ネタは「コインロッカーベイビー」と「ヒルコ(水子信仰)」で、水子信仰と母体回帰のつながりから薬子母神と繋ぎ合わせた。

 作者的に東京の駅のコインロッカーは度々死体が入っているイメージがあり、そういった事件を起こすことを目的として作られた。また、コインロッカー≒胎内とすることで、錫見原市が「胎内」と密接に関わる存在であると認識させたかった。実際に狙い通りの認識をしてもらえたかはわからないが、本作品における「日常の隙間にある怪異」の代表格として認識してもらえていたら嬉しい。

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