第44話 ゲームの進行と、イベントの記憶


最近開発されたここ、クーは他の地方と比べて魔物の出現が多い。

食料を獲得するのにも、ここ一帯は魔物がいるため一般人にはどうにも難しい。

しかしここを訪ねてくる観光客は多い。観光の魅力はその土地ならではの遊戯、景観、そして食事だ。食料の確保は地方から輸入しているのだ。しかし経費がかさみ…という乙女ゲームの設定にしては妙にリアルなモノである。


ではなぜ彼が海に入っていこうとしていたかというと、この世界に伝わる海の神の伝説だ。

先日の再生の乙女と同じように代償を差し出すことにより、神が一定の期間加護をするというもの。

彼が一人で思い立ったのか、私たちがここに来なかったら海にそのまま入っていっただろう。


と要約するとこんな感じ。


「他の地方に移ることはできないのですか?」

「俺たち家族はもともとの街を追い出されてここに来たんだ。費用も何もない。すべてなくなったんだよ」

彼はケイト。迫害を受けてここへ来た移民だ。なぜ迫害を受けてきたかは後々わかるとして。

この地方は新規事業が多く立ち上がっているため、住み込みの移民を多く募っているのだ。そういう人が多くいるのも不思議ではない。実際彼の言葉には悔しさがにじみ出ていた。唇をかみしめ握った拳は震えている。



「つまり、魔物がいなくなって安定して食料を確保できればいいのね」

「…そうだけど」

「わかったわ。私たちに任せて!」

これが星空のソワレのゲームの主軸である。休暇と言っておきながら、それを解決するために奮闘するのだ。正史でも主人公はこの選択をする。ゲームの史実を守るためだけではなく、彼らの生活のためにこれを引き受けることにした。


「…陛下」

リュカはあきれているのか、私を制するように言っている。

「彼は今自身を生贄にしようとしているのよ。騎士団に言ったとしても、すぐに対応はできないでしょう。だったら今ここにちょうど、魔法の心得がある人たちがいるんだもの。解決してあげましょうよ」

「魔法の心得って…アンタたち一体…」

「小言を言われても知りませんからね」


「そんなのいいわよ。だって私は女王なんですから」

「…女王!?」


うーん、いいわねそのリアクション。なんだかとっても新鮮で嬉しいわ。普段はこういった権利は主張しないのだけれどね。彼の表情見たさにもっとやってみたい気もする。

「…」

私はホテルに放心した彼を連れて行った。






◇◇◇







「…で。我々に魔物の討伐を行えと」

「そう」

「そう、って…陛下、あの我々、戦うための武器は持ってきていないのですが」

「大丈夫、今転移のゲートを作ったから」

「えええぇ」

「…まあ、民が困っているのだから助けなければならないですかね…」

「どちらにせよ、騎士団にも依頼が来るのですから、やるなら先の方がいいですよね」


どうにも彼、ケイトはリアクションが大きい人なようで。属性の長達の会議に口を大きく開けたまま放心しているようだった。私にはそれが面白くてこっそりと笑っていた。

彼ら属性の長達というのは地方の領主を兼ねているものも多いため、土地や民に不利益などがあると真っ先に対応する人格者なのである。



「ではいつにしましょう。今日、はさすがに準備がありますので難しいですよね」

「そうだな、準備ができ次第…夜が良い」

「夜は営業が終わっているから、討伐だけに集中できそうだね~」

「では準備ができましたら陛下に連絡、その日の夜に討伐しましょう」


こうして討伐予定はあっさりと決まった。とんとんと話が進む様子にまたケイトは驚いているようだった。彼の今までの環境が見て取れるようだった。


「すごいな。みんな話がわかって進んでいく」

「珍しい?」

「ああ。俺のところとは大違いだ」

彼はさみしそうに言った。私は背景が少しわかっているだけにそれ以上を聞かなかった。




こうして会議は終わった。

ここまではソワレのゲームの進行通り。あとは決行日までは武器の調達や術の習得がてらのイベントがある。そんなことで大丈夫かと思うが、このゲームの魔物は一定して強くはない。よっぽどの操作ミスがない限りは勝てるのだ。


部屋に戻った私はベッドに寝転がりながら今後の予定を立てようと記憶を頼りにメモをおこしていた。

(…でも)

私が女王に就任して、聖女に出会うまでは正史通りだった。しかし少しずつそれとは違いが出てきた。このソワレが舞台でも正史と同じなのだろうか。違いはないのだろうか。

少し不安になる。


コンコン

「陛下、私です。アリナです」

ノックと声が彼女の存在を知らせた。

私もこのままひとり不安な気持ちでいたくはなかったので、彼女の来訪を歓迎した。






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