第43話 物語の舞台、そして出会い



海洋リゾート地、クー。

最近急速に開発が進んでいるそこはいろんなホテルやら遊びの施設が豊富である。

しかもここはここ一年で人が住むようになったため、そこを治める属性の長や貴族がいない。「平民の街」というあだ名がついているらしく、私としてもどのような管理をしているのか気になっている。


「綺麗…海ってこんなに綺麗な色してたんだね」

私はこの世界で海を見たことがない。しかも前世では南の海には縁がないのでここまで碧いとは思わなかったのだ。

休暇ということで、いつも着ているようなドレスではなくパワンピースを着ることになった。もちろん男性陣もスパで着るような装束なのだが…


「似合う人と、そうじゃない人がいますね…」

アリナは私にしか聞こえないような声でつぶやいた。


例えばだ、ディンはもともとがあまりかっちりとした衣装ではないからそこまでイメージと違わず、爽やかに着こなしている。

ヘイムも見た目の幼さゆえ、少し大きめの服が保護欲をそそられるというか、守ってあげなきゃと思わせる。

スルトやノルズも騎士団で鍛えているからか用意されたそれは少し前が開けないと苦しいらしく、普段の鎧衣装とはギャップがあって魅力的に感じる。


問題は私の大事な人だ。

同じラフな格好でも白いシャツならまだ見られる。しかし花柄のシャツはどうにも不信感というか、前世なら詐欺をしていたのではないかと疑われてしまいそうなのだ。

※私は本当に彼のことを愛しています。


「いや~リュカは似合わないね~」

「…部屋に戻ったらすぐに着替えます」

「まあ君だけじゃないから。ほら、あの仏頂面みてごらんよ」


リュカと同じく良くは見えない人がもう一人。

「…」

「ルドル、そう怒らずとも。ほらリュカと同じく着替えれば良いですし」

「…誰も怒ってなどいない」


ゲームでは簡素な私服に着替えている状態でスタートするから、これは新鮮だった。



「はーい、いいですか~みなさんが滞在するのはこちらのホテルですよ~]

そうヨルドが案内してくれた宿泊施設はここ一帯で一番大きな建物だった。

前世では経験がなかったVIPやスイートルームでの宿泊。もちろん最上階だった。

「それぞれみなさん、個室になっていますが、誰かと一緒が良いという方はフロントに行ってくださいね~」

サラっととんでもないことを言ったけど、これがゲームでも同じなのだ。最初は個室で過ごすのだが、ルートやイベントが進むと誰かと同室になる。対象年齢が高い作品ではないため、大人の描写はないのだが…


「…だってさ、アリナ」


アリナは話しかけてくるディンを無視した。ニコニコとみんなの前で言ってのけるディンの扱いに最近は慣れてきたようだ。そういう関係になってから、ディンはみんなの前でわざとこういったことをする。そこまで逸脱したことはしないから様子を見ているのだが、どうやら独占欲によるもので、けん制しているようだった。


「はい~それではいったん解散しましょう。それぞれ自由に過ごしてください。夕食の時間になったらまたここに集合しましょうね~」

ヨルドの言葉で皆が散り散りになる。


「ちょっと待っていてください。すぐに着替えますから」

照れながら歩く彼も見てみたい気がするが…よっぽどだったのか着替えた彼と合流した。



「どこに行く?買い物?」

彼はホテルの入り口にあった『観光おすすめスポット』の冊子を眺めていた。

「うーん。それはもう少し後にするわ。ちょっと行きたいところがあるから付き合って?」

「…わかったよ」


彼が手を差し出す。当たり前のようにそれをつかんで、私はとあるイベントのため、海へ向かった。






◇◇◇



ここは観光地から少し離れた海。ここにある人物がいる。




「あ」

それは、海の沖へと歩みを進めていく。

「危ない!」

「レア!?」


もう少しで腰までつかってしまいそうな彼の腕を引いた。

危ない危ない。もう少し遅かったら彼やばかったぞ。


「なっ何をするのだ。これは儀式の途中なんだぞ」

(セリフも一致、やっぱりこの人で間違いはないね)


「儀式かどうか知らないですが、危ないです。海は怖いんですよ」

「そんなこと十分わかっているさ。でもこうしないと海の神は怒りを治めてくれない!」


彼はパーマがかかった黒髪を揺らして答えた。赤い瞳はじっと私と一緒にいるリュカをとらえる。

上半身に何も来ていない彼は浅黒い肌をさらしていた。砂浜まで連れてくると水滴が体のあちこちからこぼれていく


「なるほど、儀式ですか。しかし生贄を使うとは…残酷ですね」

「何故あなたはこんなことを」

「アンタら観光客だろ?そういうやつにはわからないだろうさ。ここの苦悩なんて」


「…どうしますか、陛下」

「うーん、あなたの力になれるかもしれないわ。事情を教えてもらえないかしら」

彼は外から来たものに厳しい。まあ見ず知らず、よくわからない観光客に事情を話すのはおかしな話だとは思う。




「わかったよ。今から話すけど、長くなるぞ?」

納得するの早くない?

さすが乙女ゲーム。あまり長引かないのね。


「構わないわ。教えてくださる?」


私は復習がてら、彼から事情を聴くことにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る