第41話 本当は見たいんですよ!なんとか我慢しました!


「アリナ様の好きなモノですか…以前はピンクやフリルなど年相応で可憐なものを好んでいましたね。今は寒色系などで落ち着いたものを着ていることが多いです。とちらもアリナ様が着ていれば素敵ですよね」


…うん、わかる。わかるぞ。この侍女さんとはアリナの似合う服について一晩語れると思う。

しかし俺が知りたいのはそういうことではなく。


「アリナ様は…前はよくご自分から長の皆様に積極的に声をかけていましたね。

やたらモノを多く与えようとしていたのも、『たくさん与えればそれだけ数値が増える』…と私にはよくわからないことを仰っていましたが。…今も殿方からのお誘いはありますな。しかしアリナ様は今ご自身を高めることに一生懸命ですから。基本的には袖にしています」


…この期に及んでまだアリナを誘う輩がいるのか。害虫は今すぐ払ってしまいたいが…

アリナは今それも気にはしていないようだ。命拾いしたな、そいつ。

…しかしアリナよ。モノをたくさん与えればそれだけ好かれるわけではないんだぞ。

天然だなあ、アリナは。


「アリナ様は女王陛下のお誘いには喜んで参加しますよ。ウキウキと楽しそうにしていらっしゃるので何も言わずとも予定がわかります」

あの一件以降、アリナは陛下のことを信頼しているようだ。俺としても貴族の高貴さやマナーを学ぶよりも、陛下のそばにいて彼女の温かさに触れてほしい。

「そうそう。陛下以外にも誘いに乗る方がいらっしゃいますよ」


…何!そんな奴がいるのか。アリナに気になる人が、いるのか…

「その方は…」


「今私の前で青い顔をしている方なんですけどね」



「アリナ様、陛下の時とは違ってその方とのお約束の日が近くなると、何度も何度も着るものを選びなおしたり、化粧の仕方を知りたがったり、美容施術を依頼するんです。それを指摘しちゃうと顔を真っ赤にして違う違うというのがかわいらしいんですよ。だからつい言ってしまうんですよ」


…くっ、感情が暴走しているっ。

指摘されて顔が赤くなるアリナも見てみたい。しかしそれが俺のための準備だと思うと…いじらしいというか。



彼女も、俺のことを好きでいて、くれているのか?





「今は陛下のところでお茶をしていますよ~」

走り出した俺へ彼女はそう教えてくれた。









◇◇◇






「あのね、貴方を守ったあのペンダント、ディンからもらったものなの」

「…ディン様が?」

聞くと、陛下が私の様子を見るための潜入捜査のためにディン様が陛下に渡したものだという。



「結局使わなかったから、返そうと思ったんだけど」


「私に持っていてほしいって言ってくれて。まあ女王に渡したものを返してもらうっていうのも変な話かもしれないわね」


ディン様は陛下に言ったそうだ。

「『俺が近くにいる、彼女を守ります。

俺は貴族ではないから高級なものではないけれど

君を守りたい気持ち、想い続けた気持ちは負けない』から

正規品を貴方に渡したいんだそうよ」

ご丁寧にモノマネつきで。本当に恋愛ゲームみたいなセリフを私に向かって言った。


「結果的に私にくれたものも、貴方の身を守ってくれたのよ」


…それ、わざわざ陛下に言うこと!?

ああもうどうしよう。さっきから顔が熱くてたまらない。


「ここまでしてくれる彼は義務感で動いているのかしら。もともとの優しい性格故の行動なのかしら?」


「アリナ!」

タイミング悪い…


「で、ディン様、陛下の御前ですよ。せめてご挨拶くらいなさってください」

私はその場を取り繕うのに必死で、普段は口にしないようなことと言った。


「いいのよ。それほど必死にあなたを探していた、ということなのでしょう」

うふふと楽しそうな陛下は彼女付きの侍女と共に部屋から出ようとする。


「へ、へいか…?どちらへ向かうのですか…」

「ちょっとそこまで」

「ううう…へいかぁ」


「…貴方は私に見てほしいのかしら?」

半分本気の目をしていた。ゲームのキャラとしての外観の私とディン様の照れる様子を見るのは、陛下にとって「尊い」のかもしれない。見続けたい気持ちをこらえて、私にそう言うのだ。


「…いいえ…」

「そう。じゃあちょっと行ってくるわね。

…ディン、ごゆっくり」



持っていた扇で口元を隠しながら、陛下は侍女と共に出て行ってしまった。







「あの」

「はい」


「…俺は、君のことをずっと前から愛している」

ゲームでちらっと見た彼は人に好かれそうな笑顔をしていた。友人は言っていた「女性に優しいキャラ」だと。実際にここで私を見ている彼は、それが感じられない。


ずっと前から、という言葉が少し気になるが彼は私を想ってくれているのだ。

そしてさらに

「君を守っていきたいんだ」

照れながら、私をまっすぐ見て告げる。


「君のそばにいても、いいかな」


私は、

何も言えず



首を縦に動かした。


へらっと安心した笑みを見せた彼は私へゆっくりと手を伸ばしてくる。

「ありがとう、アリナ」


彼の手が頬に触れた。

それだけで、嬉しくなって、なぜだか泣きそうになってしまった。






道化のように踊って

皆に見放れた、嗤われた。

そんなときに私のそばにいてくれた。

離れないでいてくれた。

なぜだかわからなかった、でも嬉しかった。


ただ、それだけだけど。



(ああ、これが好きになるってことなのかな)




この世界に生まれてよかったと、改めて思ったのだった。



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