第40話 おせっかい女王があらわれた!
「私は、あなたに救われました。
あなたにとっては計画の一部で
仕方のないことだったのかもしれないけど
あなたの手紙は
言葉は
私を助けてくれました。
もうあなたは覚えていないだろうけど
きっと自己満足なんだろうけど
本当に
本当に
ありがとうございました」
「だってさ、アリナってばほんと純粋っていうか素直っていうかね。かわいいよね、アリナ」
もう彼から「かわいい」を聞くのは何度目だろう。うんざりしているの吟遊詩人を尻目に嬉々として彼は語り続ける。
「…で。彼女とは進展があったのですか?」
「しんてん?」
「ないの?こんなに語っておいて!?」
「アリナは聖女としての使命に目覚め、ようやく真摯に向き合っているんだから邪魔したくはないし、その黒幕を引きずりだすのでそれどころじゃなかったし」
「…まあ。本来彼女は真面目なんでしょうね。言われたことや与えられたことをしっかりとこなすのでしょう。それ以外のことに目が向かないのもわかります」
あの一件から彼女は誰かと交流目的で過ごすということはない。なりゆきで誰かが一緒になることもあるが、誰と一緒でも特に態度を変えることがなく、冷めた対応が多い。
「基本的に俺が無理やりついていったり、一緒にいるから。アリナの意思を確認したことがないんだ」
「…実は嫌がっているかもしれないと」
「う」
「今まで自身の行いを顧みているので言えないけれど、本当は迷惑に感じていると」
「うう」
「自分の行いをしっかり褒めてくれる陛下は大好きだけど、それ以外は誰のことも想っていないと」
「はあ」
だんだん面白くなってきた。彼女のことになるとこんなにも一喜一憂するのか。
「本当に嫌でしたら陛下に相談しているはずですし、少なくとも嫌ではないということですね」
「…でもどうでもよいと思ってるかもしれない」
(面倒くさい)
彼のことが好きな女性たちがこの姿を見たらどう思うだろう。立ち直るのに時間がかかるらしい、少々面倒なこの男、早く解散したいと思っているがそうもいかず。
「誰かに聞けたら良いんですけどね。彼女に想い人はいるのか、等」
ふとつぶやいたその言葉に彼は目を輝かせた。
「そうかそれだ!」
…この男は。
考えたり想像したりすることばかり楽しんでいる。その後の話はあまり聞いたことがない。
「彼女付きの侍女にでも聞きとり調査してみよう」
浮かれる彼にまたのろけ話を聞かされるんだろう。もしくは何も想われていなかったと落ち込むのだろうか、どちらにせよ面倒なことに変わりはない。詩人は頭が痛くなった。
◇◇◇
「そう。彼女に会ったのね」
「…はい。会えないかと思ってたんですけど、なんとか」
客間に聖女を招いて、近況報告がてらのお茶を楽しんでいた。修練を積む必要がなくなった私はニール様のところへ機会が減り、かつての仕事に復帰している。といっても書類整理は電子化や私か補佐官どちらかの承認で良いということになったので私の仕事はずいぶんと減ったのだけれど。
だからこうして時間ができて、彼女と話ができる。
彼女、レイア嬢に対しての判断はロキやリュカから反対にあった。極刑にすべきだと。
ただ、彼女の功績を伝えた。
ここ数年の年少者の魔法および魔力の向上は著しく、それは彼女の開設した「だれでも魔法が上達する」学校が現れたからである。
魔法を教えるのは正史ではニール様だが、彼はある程度素質がある人へ教える人物。才能がなくとも使い方を教えるのは専門外で、彼の教え方は年少者には伝わりにくい。
彼女の素質や魔法の力は失うには惜しいと思った。それは事実だ。もちろん私怨でいろいろな人を巻き込んで大きな事態にしたことはレイアの、いや前世の彼女の罪である。
しかし私はレイアとして生きてほしいと思った。そこには彼女の記憶が障害であると感じたのだ。
「ねえ、ところであなたディンとは仲良くなったの?」
「…は?」
ここ最近、私は気になっていた。やたらディンがそばにいること、ディンの表情が今まで以上に優しいものであること。これはディン、アリナのことが好きなのだろうと。
「ディンのこと、どう思うの?かっこいいわよね!優しいしクリエイティブだし」
「…あの、ディン様は私のことそういう風に見ていないと思います」
「…ええぇ」
「だいたい、あんな事態を起こした張本人のどこを気に入ると言うんです?ディン様は人当たりが良いですから、私が孤立すると思ったので仕方なく、声をかけてくれているんです」
やたら早口になった彼女は手で顔を覆って言った。うーん、意識しているのか、これは…
「ディンはね、譲りたくなかったみたいよ。貴方のそばにいることを」
「…それはっ私が中傷を受けないためで…」
あらあらあら。真っ赤になってるわ。
(アリナちゃんの赤くなってるのかわいいぃぃ)
中身を知っているとはいえビジュが良すぎる。設定はレアが好きなのだけど。見た目が好きなのはアリナちゃんなのよね…特にこのアリナは姉心というか親心がざわざわする。ここまで成長できたのだからまだまだ素敵になれる。
少なくとも彼のことは嫌いではないようだし、気になっていると思う。だから少し彼女が進めるように手助けをしてあげたい。
「あ、そうそう。貴方を守ってくれたのはディンなのよ」
「…は?」
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