第36話 彼女の仮面が外れるとき 


間に合った。

間に合った、のかな?

仮面をつけた女性とディンとユーミールが対峙している。

後ろにはアリナ嬢がいた。

ひとまず、目立ったケガはないようだ。



「アリナ嬢を追いかけるためにわざわざ来てくださったのですか」

「ええ、まあ。ついでにあなたに会えるとは思っていたけど」

「陛下はすべてお見通しだったのかしら。アリナ嬢の目的もすべて」


…何を話していたのかわからないが、この状況から(アリナ嬢が拘束されていないかつレイア嬢が自由になっている)して彼女が弁明をしている状態なのだろうと、見てとれた。


「アリナ嬢をこちらに」

「待ってください、アリナ嬢は今絶望の淵にいます。女王陛下のもとに置くと彼女が暴走してしまうかもしれません」


おそらく、アリナ嬢は彼女の魔法によって動かせない状況だろう。こちらにくると不都合が生じる。そのため自分の近くから離さない。


「あなたは効率を重視するお方ですから単刀直入に言います。此度の聖女の暴走、あなた…レイア嬢が関与しているとみています。話を聞かせてもらえるかしら」

「関与…そう、なのでしょうね」

私が言及するも、それは用意していた回答をする彼女。自信と余裕を見せてくる様だけは立派な令嬢と言えるのだろう。


「私は確かに、彼女と手紙のやりとりをしていました。それは心身を喪失していた彼女を支えるため。他意はありませんわ」

「貴女はとある香料に関する研究の提出を意図的に遅らせたという疑惑もあります。それにより陛下の聖魔力が枯渇した…何か申し立てはありますか」

「まあそんな…わたくしは知りません。陛下がそのようなことになっていたなんて…」

大げさに悲しみ、泣く演技までしちゃって。大きな芝居すぎて笑ってしまいそうになる。しかし状況は良くない。彼女は用意していた答えを組み立てて私の前へ示している。


「確かにわたくしの家の事業がこの度人員削減や新規事業を参入したため、陛下の許可を得るための書類をたくさん提出しておりました。それにより疑われてしまうなんて…心外です」

私は先ほどから気になっている彼女の腕輪に注目した。

(…!これって)

シンプルな服装にそれだけが不気味なほど煌いている。正史のとわきら2で私を眠りに落とした怨念を倒すと手に入るドロップアイテム「奪力の腕輪」。

その名の通り、魔力を奪い自分の力にできるもの。ゲームの2週目以降も持ち込め、ゲームの作業が楽になるという特殊なモノだ。


(…そういうことね)

アリナ嬢が動けないのも納得した。その腕輪によって力を奪われた状態なのだろう。

アリナ嬢は人質状態にある。こうなってくると有無を言わせず、彼女の動きを封じてしまいたい。

だが彼女が強力な魔導師であり、こちらではかなわないため、無理に行うと危険だ。



「わかりました。ひとまず王城へまいりましょう。あなたも重要参考人として今すぐ王城に来てもらいます」

「…ずいぶんあっさりと引き下がりますのね」

「…?」

「拘束してくれれば、わたくしも正当防衛が成り立ちますのに」


彼女の杖が赤紫色に光る。

「危ない!」

私が叫んだところで彼らは異常に気付き、飛んでくる魔法弾から逃れた。


「なんのつもりだ、レイア嬢!」

「そうですわね…アリナ嬢が自棄になり、魔力が暴走、止めようとした女王ならびに属性の長達を巻き込んでしまった、というところですかね」

「何を、仰っているのですか」

「ああ、後程聞かれたときに説明するのです。こういう風に答えれば大丈夫ですわね」

そう言っている間にも彼女の周りには先ほどの赤紫の光が無数にわいてくる。


「わたくしは高尚な魔導師ですから、かろうじて命は救われた。そして…聖女と女王を失ったことで、次はわたくしが女王になる!」

夢を高らかに語って、彼女は仮面を外す。目が赤く怪しく光り、ケタケタと笑う。

ディンは彼女へ向かい身体の拘束を狙って飛び込む。

しかしそれも届かず


「主役さんたち、サヨウナラ。今日から私が主人公よ」

極上の笑みを浮かべて、彼女は私たちに魔法を放った。

そして…






「アリナ!!」

「どういうこと!なんであなたが動けるのよっ」

私たちの前には彼女アリナがいた。鳥かごのような障壁を作り、私たちを守っている。


「…間に、合った」

「アリナ…」

「手元を見てごらんよ。自分が優位になったことで油断したな」

腕輪の中心部に輝いていた宝石にヒビが入っている。ヒビが入ることで効力がなくなってしまった。そしてアリナに聖魔力が戻ったのだ。



「…まあいいわ。経験を積んでいない箱入り聖女なんて大したことない。まぐれで防げたんだろうけど、次はそうはいかない」


あんなにアリナのことを監視していたのに、修練に励んだことは知らないのか。

それとも、それも含んで大したことがないと思っているのか、どちらにせよ先ほどのようにはいかないだろう。

(そうだ、これ)



私は彼女へあるモノを渡した。



「私は、あなたを許すわけにはいかない」

「ふうん。それで、あなたが私を止める?やってごらんなさい!」







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