第37話 新ヒロイン対ライバル令嬢
星が煌くこの夜に不気味な光が輝いている。
それは高速で聖女に襲い掛かる。しかし聖女はそれを打ち消し、時には返していく。
「くっ」
「…何なのよ」
私たちの修行は無駄ではなかったようだ。
「何故相殺できるのよ!」
彼女の放つ無数の魔法弾をアリナはすべて中和させていく。最初こそ駆けつける際に息が切れていたが、徐々に神経を研ぎ澄ませ、レイア嬢の攻撃を防いでいた。
私たちはというと、彼女の防護魔法に囲われていて、守られてはいるものの、下手に手出しをすればそれも壊れてしまうため、見守ることしかできない。
もともとアリナには魔法の素質はあったのだ。それを伸ばす機会を持たなかっただけ。それはゲームでも彼女も感じていたはずだ。しかしそれは彼女の思い通りに進んでいるとたかをくくっていた。そして自分の実力に絶対的な自信をもっているのだろう。
その結果がこれだ。
「さあ。貴方の実力が鈍ったんじゃない?」
「貴様ああ!」
操っていたと思っていたアリナに馬鹿にされたのが、よっぽど屈辱的だったのか、激昂した。
しかし魔法の精度は劣っておらず、正確にアリナを狙っている。
「リュカ、今のうちに騎士団へ連絡できる?」
「わかった」
怒りに囚われている彼女が気づくかはわからないが、一応唇だけ動かし、彼へ指示した。この騒動だからおそらく待てば彼らは来るだろう。その前に「最悪」が起きた場合のため、状況報告を兼ねていた。
「埒があかない。時間がもったいないですわ」
彼女はいったん攻撃の手を止めて、アリナに吐き捨てた。
そして詠唱を始める。彼女ほどの実力になれば無詠唱でもある程度も魔法を使えるはず。しかしそれではアリナに防がれると思ったのだろう。彼女はアリナの捕縛魔法をよけながら、ただひたすらに強い魔法の生成の呪文を詠唱していく。
「アリナ!今がチャンスだ」
「…」
ディンが叫ぶもアリナは彼女へ飛び込むのをためらっている。うまくいけば彼女をとらえ、止めることができるだろう。しかしそれはリスクも高い。至近距離で彼女の強大な魔法を受けてしまえばさすがのアリナでも、無事では済まない。
「行ってください、アリナ!私たちを信じて」
アリナは負けない。彼女にも秘策がある。
アリナの目が大きく開き、加速させていった。
そして彼女の懐に入った瞬間
「とこしえの闇、安らぎの闇。彼のものをとらえ悠久の眠りを」
アリナの体の何倍もある大きな赤紫の光が包む。
「アリナっ」
「アハハハハハハ!残念だったわね。今度こそ終わりよ」
彼女は勝ち誇った笑みを見せた。彼らはアリナの敗北に驚き、そしてアリナの無事を確かめようとした。
「今よ!」
◇◇◇
「仮に人と戦うことになった場合、魔物とは違う点がある。魔物はよほど知能を持つ者以外は常に全力で戦う。戦闘中は常に神経を研ぎ澄ませているので、終盤になっても油断してはいけないんだ」
「しかし人は相手に対し、力の調節をする。相手によっては術を変えたり、魔力の量を調整できる。これは戦いが長引いた場合も想定し、余力を残すということになる。人間だからできることだ。そして人間は、勝ちを確信した時、集中が途切れる。一筋縄ではいかないとき、相手に油断をさせる手段として有効だよ」
ニール様の授業。それはゲームでは得られなかった知識である。とわきらは基本的に平和な世界であり、戦闘を行うのは魔物、それから過去の怨念である。しかし彼はそれとは別の人と戦う心得を教えてくれた。
◇◇◇
「なっ…」
彼女の懐に、アリナが飛び込む。
肘鉄を食らわせ、物理的に彼女の動きを封じた。と同時に私たちを囲っていた檻がなくなる。
「アリナっ」
ディンが聖女のもとへ、ユーミールは魔法を使いレイア嬢を拘束する。
お祭りのためにおめかししたドレスの端は破れ、セットした髪もぐちゃぐちゃになっている。でも私は今の彼女がとてもかっこよく、素敵な女性だと思った。
「アリナ…ありがとう」
「あはは…私、役に立てましたかね」
「何を言ってんだよ。守れなくてごめんな」
「ディン様、気にしないでくださいよ。私、少しは返せたから満足してるんですから」
へらっと笑う彼女にはそれまでもっていた気品や誰もを虜にする愛嬌などはなかったが、私はそれが本来の彼女だろうと安心した。
駆けつけた騎士団によって、彼女レイア・コンスタンは移送された。
魔法を封じる拘束具を使い、術を封じられた彼女は譫言のように「私が女王」「計画は成功した」などと言っていて、瞳はうつろだった。彼女の幻想は解けるのだろうか。
アリナ嬢は魔力を著しく消費しているため、ヘイムの医院へ搬送されることになった。
傍にはディンがいる。私も着いていこうとしたが、リュカに止められた。こんなに大勢で行ってもアリナ嬢の気が休まらないか。また日を改めて行くとしよう。
大きな問題が一つ解決に向かう、安堵した私たちは迎えに来ている馬車へと向かった。
「…ママ、デハ…イゾ…」
「…陛下?」
遠くから声が聞こえた気がした。しかし、気配も何も感じない。
気のせいだったのだろうか。
「何でもないわ、行きましょう」
私は帰路についた。
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