第34話 黒幕との接触をしました(新ヒロインが)。


☆とわきら キャラ紹介☆

ユーミール・ラシーヌ

地の魔術師。橙の瞳で長い白髪をひとくくりしている。女性と見まごうほどの美貌の持ち主。だが間違えられるのを嫌う。性格は温厚。いろいろなことに気を使いすぎて本来の自分を発揮できないのが悩み。常に胃薬を持ち歩いている。彼が治めるクロノ地方は広大な農地。彼も自身の魔法で植物が育ちやすい環境を作っている。



クロノ村。そこで一番大きな邸に二つの影があった。長身の影は少し屈んで、腹部を押さえている。


「ううっ…」

「大丈夫?ユーミールお兄ちゃん」

「ええ。大丈夫ですよ。ヘイムからもらった薬を飲めばすぐに良くなりますからね」

そう言って彼は戸棚にある薬瓶を取り出し水と一緒に服用する。

心配そうに見つめるユーミールの妹マリーは薬を飲んだ後でもユーミールから離れず、その様子にクスっと頬を緩ませた。

「今日ぐらい、私から離れて良いのですよ。大丈夫ですから」

「星奏祭はお兄様と見たいの。だからいいの!」

「そうですか」


ユーミールの地方は高い建物や電飾が少ない。なので星が良く、煌いて見える。星奏祭ではより一層それが輝くのだ。

少々中の良すぎる兄妹だが、両親のいない二人にとってたった一人の肉親なのだ。

(余談だが、とらきらのユーミールルートだとマリーがライバルになったり、ユーミールとマリーが同時攻略もできる)


ラシーヌ家のバルコニーからそれを眺めていた二人。

とても静かで穏やかな時を過ごしていた。





そう、あの時までは。


ひゅう、と風が舞った。二人は顔を見合わせる。そして邸にも暴風が吹き荒れた。

「えっ、何」

「マリー、危ない!」

矢のように吹いた風で窓枠が崩れる。破片がマリーに当たりそうなところをユーミールは抱きしめ、身を挺して守った。

「おにいちゃん」

「一体何が起きているのですか…」




◇◇◇







「…っ」

目が覚めるとズキンと手足が痛む。

「何、これ…」

手と足は麻ひもで縛られていた。周りを見ると入口がひとつしかない石造りのシンプルな部屋というのが分かる。

私は確かディン様と星奏祭に行っていて。そこで待ち構えていたはずだった。

(だけど目の前がいきなり真っ暗になって、それで…意識を失ったってことか)


思い出すと頭も痛くなった。

(そうだ、ディン様)

私は一緒にいた彼を探した。しかしそこには私しかいない。手足は壁に括り付けられてあるから、近くに行くことはできないが、目を凝らしてみても、他に気配も感じない。

(どこに行ったの…)


すると

ガチャ、と扉が開いた。

「…目が覚めていたのね」

扉の先には影がひとつ。目が慣れてくるとそれは仮面をつけた人物ということがわかる。

穏やかな口調で、彼女はゆっくりとこちらへ歩みを進めてきた。


「あなたが、私をこんなところに連れてきたの」

「…アンタとお話する時間なんてないわ。もったいないじゃないそういうことに費やすのって」

星々の明かりは先ほどより彼女を鮮明に映す。薄紫の髪色に、軍服または乗馬服のようなこの世界の女性には珍しいパンツスタイル。赤紫のジャケットを羽織った彼女は心底めんどくさそうに吐き捨てた。


「ディン様は?どこにやったの!?」

「だから…まあいいわ。彼は無事よ。そんなことをするのに労力を使いたくないの。早ければ今日中には見つかるでしょう」

「…私をさらってどうするつもり」

「何度も言うけどそういうことで時間を費やしたくない。貴方は大人しく聖魔力を私に寄越せば良いのよ」

「何を言っているの?そんなことできるはずないじゃない」

「…はあ。これだから初心者は」

彼女の腕にはある腕輪がはめてあった。見ていると気分が悪くなるような、まがまがしさを感じる。

「このアイテムで、聖女アリナはオシマイ。力を失ったアンタは用なしってワケ」

力が抜けてくる。腕や足がだらんと人形のような自分の意識がなくなるというか、うまく力が入らない。


「いいわね。これ今度でも使おうかしら」

「私から、魔力を奪ってどうするの、よ」

「アンタになんか教えてやらない。主役のアンタにはね」


「これがもう少し早く手に入ってれば…」

「…」

「あ、もう話せなくなっちゃったか。それじゃあ行きましょう?」


目で見えるもの、聞こえる音ははっきりとわかっているのにそれを伝える手立てを奪われたみたいだ。だらんとした体に彼女は魔法をかけて、糸人形のように操る。


「ああおかしい!でもこれじゃあ不自然ね。やっぱり電気による刺激で動かそうかしら」

(どうしよう、何もできない。誰か来て…)

心の中で叫ぶも誰の耳にも届かない。


(ああもうきっとダメなんだ。今までやってきたことが返ってきたんだ)

悲鳴にも似た助けを求める言葉とはうらはらにあきらめの言葉も浮かんでくる。


この女のいいように使われてしまうのか。








「アリナ!」




私を呼ぶ声がこれほど力強く聞こえたのは、初めてだった。







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