第33話 「彼女」の行方


「なぜこんなことに」

「ディンが一緒にいたはずだろう?」

「そもそもあの風は陽動だったのか」

通信機は異常事態に対応しきれない者たちの声しか聞こえず、パニックに陥っている。言い争ってる暇などないのに、私が声をかけても彼らは変わらず先の見えない不安にみんなが混乱していた。


だから

「落ち着きなさい!」

あんまり大きな声では言いたくないんだけど。仕方ない。

とわきらは平和な世界で人為的な災厄は起きないから仕方ないのかもしれない。

(今優先するべきのはアリナ嬢とディンの命、だとしたら彼女たちをいち早く見つけなくては。ただでさえ異常事態を引き起こしている。こちらで調べがついていることを彼女が把握していたら…

自暴自棄になり命を狙う可能性だってある。



「スルトはディンがつけた位置情報の確認、ノルズは魔力の気配がないか調べて。もし反応があったら報告してから追跡。ロキは影にコンスタン家に見張りをつけて出入りを把握すること。私もアリナ嬢の聖魔力の行方を調査します」

それぞれに指示を伝える。影にはもし私たちが見つけられなかった時のために邸にいてもらう。彼らの確認を取った。私は私の調査を行う。

地へ両手を付けてから、魔力を網目状に張り巡らせた。聖魔力の反応を調べるためだ。反応があれば淡く光る。これなら多くない魔力でも広範囲調べることができる。私はさらわれた?現場一帯に網目を広げていくが聖魔力が地を伝ったような跡は見当たらない。


「陛下、こんなこと言いたくないんだが、アリナ嬢が裏切った可能性もあるんじゃないか?」

「可能性としては…ありうる話ね」

「コンスタン嬢と共謀してディンを攫い、人質にとる」

「…アリナ嬢にメリットを感じないわ」

「コンスタン嬢の洗脳が解けていなかったら?」

「リュカ、たとえそうだとしても、私は女王としてディンやアリナ嬢を助けに行きます」


リュカの言葉が耳に入って痛い。ただでさえ今は作戦が乱され、わからない状況のまま私も起きたことの整理や調査を行っている。

今はそういった発言はやめてほしい。たとえ彼が私の身を案じていたとしても。



「…!」

ある個所が薄くだが輝く。どうやら町のはずれから森の奥へと続く道へつながっているようだ。その時端末が鳴った。

『陛下、陛下!』

「何か動きはあった?」

『森にある騎士団の休憩所にて位置情報の反応がありました。しかしそれも途切れてしまって…』

騎士団の休憩所は訓練や遠征の時にしか使わない。身を隠すには良い場所だろう。


「そう…そこへ向かってちょうだい。スルトはノルズと一緒に行動して。相手は魔法の使い手だから」

『わかりました!』

反応が途切れてしまったということは、そこで持ち物をチェックされたか、あるいは壊れたか。どちらにせよ、そこにいる可能性は低いだろう。いたとしても十分危険なのでそれは十分に伝えた。



「ねえリュカ、ちなみにこの先って」

「ユーミール殿が治めるクロノ村です」

「…私たちはそちらへ向かいましょう。スルトとノルズのところで見つかれば私もそちらへ行くわ、一応ね。今日は村でも人は出ているはずだから、聞き込みをしても良いし」



「急ごう。陛下」

ぐい、と彼が私を抱えた。リュカの足元が金色に光り、その光は道のように伸びていく。

「リュカ?何してるの」

「しっかりつかまって。かなりの速度だから」


「なに

言い終わる前に私たちは進んでいた。

高速で、息をつく暇もないほど。景色なんて見えない、星の輝きは変わらずに光っているのだろう。それも確認することもできないままである、

振り落とされないように息もできない中しがみついて、私はただ早くついてくることを願った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る