第32話 星奏祭~デートして見張りして


星奏祭。

その日は一年で一番星が輝く夜で、電気の類は付けずランタンなどの淡い光の中で星の輝きを楽しむものである。

まさに星が歌を奏でるようなほど美しく、息をのむほどの光景が広がるその祭りでは露店があったり、星々の輝きを楽しむ人々であふれかえるのだ。



「うっへっへ」

「聞いたことない笑い方」

「どう?この笑い方とこの見た目女王には見えないでしょう?」

以前ディンに教えてもらった髪や瞳を変える魔法。どうやら聖魔法以外はそこまで使うのが難しくはないみたいで、この間の修練で無事使えるようになった。


以前は髪の長さはそのままだったけど、今回は見え方も少し工夫してボブヘアにしてみた!

そして服装は白のタイつきブラウスに黒のシアーカーディガンを羽織り、ウエスト高めのミモレ丈のスカート。さらに眼鏡もかけてみた。


「楽しんでるな、お着替え」

二人きりのお出かけ+仕事モードとは違う口調のリュカ=最高!


「そりゃあ、お祭りだからね。それに緊張感をもってたらお祭りで浮いちゃうし」

「俺もそれに付き合わされるわけですか」

リュカは私とおそろいの丸眼鏡にグレーのジャケット。中は白いTシャツに黒のパンツ。

(ひそかに温めてきたリュカに似合いそうなコーデがここで活かされるとは。考えておいてよかった~)

ゲームでは見ることができない前世っぽい現代コーデ。素晴らしい、似合うリュカも考えた私も!


「嫌なの?」

「そんなこと言ってない」

今回の私たちは平民の恋人同士、というテーマ。リュカにはハンチングもかぶってもらってその変装はばっちりだと思う。


「これでアリナ嬢の後をつけるのか?」

「うん。私たち以外にもスルトとノルズもついていくみたい」

「で、アリナ嬢にはディンが?」

「そう。アリナ嬢のそばに自分を付けないと通信無線を貸さない、って言うくらいだからね」

「重いですね」

「まあアリナ嬢に味方がいるのは良いことよ。さあ見守りつつも楽しみましょう」

私は彼の手を取って、アリナ嬢と同じく群衆に紛れていった。


彼女とディンは二人並んで露店を見ている。お祭り価格のフルーツの飴を食べたり、ゲームを楽しんだり、アクセサリーを見たり。


最初は警戒していたアリナ嬢も祭りの雰囲気がそうさせるのか、徐々に笑顔が見られるようになった。ディンもそんなアリナ嬢を見られて嬉しそうにしている。


「よかったねえ」

「…いつからそんなに彼女のこと気にしてるんだ」

「彼女の背景を知ってから、かな」

「ふーん」

「妬いてる?」

「少し」

(ごちそうさまです…)

平静を装うのも楽じゃない。急にそうやってドキッとさせること言うんだから。


「大丈夫よ。私はリュカしかいないわ」

(そりゃあとわきらが好きだから攻略キャラに多少のときめきはあるけどね。それは一時的なものに過ぎないのよ)

いつも傍にいたい、触れたいって思うのはリュカだけ。

彼の買ってくれた砕けた氷の入ったフルーツジュースを口にして、リュカに寄りかかってみた。


「当たり前」

リュカは私の手からコップを取り、自分ののどに通していく。

「お前には俺だけ、だから本当は俺のことだけ考えていてほしい」


眼鏡越しにリュカの瞳が私をとらえる。何度も見たはずのそれは私の心臓を驚かしていく。

「…何もなく、二人で出かけられたら良かったのになあ」

「この件が終わったら、ロキが休暇をくれるらしい。アリナ嬢も聖女として機能していれば休みやすいだろ」





~♪


『二人とも、アリナ嬢が街のはずれの夜景スポットに向かっている。私たちもそちらに向かいます』

「…了解しました。向かうわ」

いつの間にか離れていたらしい。スルトから連絡が来た。

街のはずれ、星が見えるスポットは露店があった中心部よりも賑わいは少ないが、人がまばらにいる。おそらくそこで、彼女はそこで仕掛けてくるだろう。


びゅう、と

一陣の激しい風が通信機越しに聞こえた。

「!スルト!?」

『なんだこれは…うわあああ』

彼の声が遠くなる。彼女が仕掛けてきた。

(でもなんでスルトに…?)


抵抗を少なくして彼女を襲いやすくするため?

真意はわからないが、次に彼女が狙うのはアリナ嬢だ。私たちは急いでアリナ嬢のところへ向かった。

街のはずれの夜景スポット。彼らがいるのはもう少し先だ。

(急いで私)


アリナ嬢が襲われる前に!たどり着いて!









私はそこにたどり着いた。

しかし、そこに彼女の姿はなく。

傍にいたディンも消えていた。


彼女たちが祭りでとったおもちゃが、そこに残されていた。






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