第27話 間章~とわきら2バッドエンド


それは私室にいた。

そして、先日の自身の蛮行をひどく悔やんでいた。

(何が補佐官だ。確かにあの娘は愚かだ。しかしあのように自分を律することができない自分のほうがよっぽど…)


「ロキ様、そのように悔やんでいても起きてしまったことは変わりませぬぞ」

「…フィリップ。しかし」

「自分の主が辱められたり、冤罪に問われてしまったら、ロキ様のようになるのは仕方ありますまい。それに、ご自身が思うほど皆は気にしていないもんですぞ」

「……」

長年仕えてきた老執事はこうアドバイスすれば良い、とロキの性格もわかっている。

ロキはしばし考えて、大きなため息をついた。


「なあ、フィリップ」

「はい」

「仮に我々の身に先ほどのようなことが起きたとしよう。私がある人物から冤罪や、辱めに遭う。そしてお前はその人物をを確実に仕留める武器を持っている」

「はあ」

「お前だったら、それを使うか?」


ロキはこういうたとえ話が好きではないのを老執事は知っている。


「ロキ様。それを話すには私たちの付き合いは長すぎますなあ」

「……」

「はっはっはっロキ様、今のお顔こそ臣下に見せるべきですぞ。普段との対比がありすぎる」

老執事は愉快愉快と手をたたいて笑った。おおよそ執事には見られない。それどころが主と従者にも見えないだろう。祖父と孫に見えてしまう。それほどまでに二人の付き合いは長く、老執事はロキのことを熟知しているのだろう。


「王を、守るために」

「補佐官になった暁に伝授されたものがある」


よほど切羽詰まっているのだろうか。聞いてもいないことをロキは老執事に話し出した。

「ロキ様ほどの鍛錬されたお方ではそういったことは必要ないのでは?」

「これは例外、王が危険な目に遭うもしくは王の身に異常が起きた場合に発動できる」

「ずいぶんと、都合の良いものですな」

「そう言うな。この世界で王になるということは世界の意思と運命を共にするということだ。世界とのなんだ」

「…」



普通に過ごす普通の人はそれを聞いたところで、理解しがたいものだろう。ただ彼は見てきた。この世のものとは思えない光に包まれたある者を。


そんなことを思い出してから老執事は少し考え、

「それを発動しようとしたのですか」

「…ああ。陛下は魔力が戻っていない状態だったからな。使えると思った」

「どういったものですかな?」



「人を供物とし、ある神を召喚する。そして王を回復させる」


「…それはそれは。物騒なものですなあ」

「フィリップ、お前やっぱり知っているだろ」

執事よりも好々爺というのが合いそうなフィリップは遠い目をして。


「そうですね。とある話をひとつ」

「ある時代の王の時代、不慮の事故により体が思うように動かなくなりました。執務を行うには支障もなく、王は不便を感じましたが、そこまで気にしてはいませんでした。しかし補佐官が不憫に思い、前から気に食わない属性の長を供物として王を回復させました」

「…」


「他にも呪いによって眠りについた王を目覚めさせるため、真面目に取り組まなかった王候補を供物とした話、供物となったものはその姿が粒上になって消えていくので、まさに天に召される聖なるものと神格化される話などありますぞ」

「……後味が悪いものばかりだな」

「それに、なっていたかもしれませんなあ。わが主は」

「ああ」

ロキの手は震えていた。補佐官は女王の盾となり、剣となる。それは十分に理解していて、今までもそれを発揮してきた。しかし自分が歴史のページに載るような悪となってしまっていたかもしれない。それが恐ろしくなった。




☆とわきら2のバッドエンド☆

「美しき犠牲」

修練度が足りない、流布をバランスよく行わないなどの育成の不備それがゲーム内イベント中間報告会までが著しく低い場合、補佐官ロキによって、聖女アリナは女王復活のための贄となる。そして聖女は民から称えられ、復活した女王が、再び世界を治めていくというものだ。

特殊なスチルなどは一切なく、文章のみというイベントといっていいものなのか疑問なものだ。

イベントコンプリートのために育成を放棄しなければ見ることができないのである。

しかしあっさりと残酷なことを行うので、とわきらでは異質なモノとなっている。




正史のロキは今のロキよりも陛下至上主義であり、陛下のためなら物騒なことも考える、とわきら2のルートによってはアクドイことを企ているのだ。アリナや攻略対象たちが対峙し解決していくのだが…それはまた別の話。


ロキがそうはならずに、こうして自身の行いを顧みるようになったのは転生した女王のおかげだろう。


「そろそろ、陛下がいらっしゃいますな」

「ああ。薬湯の準備をしてくれ」

「かしこまりました」




ロキは「影」が調べ上げた大量の資料を取り出した。

女王陛下が見つけ出した内通者という可能性、そして自分が見つけた確証。それらはある人物へとつながっていた。

(さあ黒幕を引きずり出してやろう)


「私はやはり、そうやって不敵に笑うロキ様が良いですなあ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る