第26話 黒幕に迫る前にちょっとだけ
「光の衣を纏いし乙女、悪しきものを避けよ―破邪の籠!」
「ほお…お見事」
久しぶりの魔法。聖魔法で一番最初に覚えるもの。
なんとか形にはなった。なったのだ、が…
「ハ、ア…ハア、ハア…」
「消耗が激しいね。大丈夫かい。陛下」
「なんとか…だいじょぶ、です」
「ポーション、はあまり効果がないんだっけか。少しそこに腰掛けてくれ」
「ありがとう、ございます」
王城の中庭。今日は私がどれくらい回復したのを確かめたくて、ニール様に見てもらいながら魔法の練習をしている。
そして結果はこの通り。体が覚えてはいるものの、レベルの低いものでこの程度だ。
パラソルとテーブル、いすを用意してもらった私はクロエに薬湯を用意してもらい、
「うん。魔法自体は女王のそれだね。精度も速さも問題ない。だけどそれは深刻だね」
「ゼロからようやく、ここまで使えるほどにはなったんですけどね~」
薬湯を飲むようなって10日。ゲームの正史(都合上こう呼ぶことにした)では眠りにつくことになっている私の解決策は手探り状態で。あれから再生の乙女に関する情報は現実的ではない状態である。
そこで始めた薬湯療法。ほんの少しずつ、効果が発揮されているのは嬉しい。
嬉しいが、ここまで進度が遅いと不安になってくる。
(本当にうまくいくのかな…)
そう思っているところに、彼女が来た。
「やあ、逢瀬は済んだかい?」
「取り調べ、です。もう話すことはないのに、あの人…」
「先日までの態度とはえらい違いだね。それが君の本来の姿なのかもしれないけど」
「…なぜ女王陛下が此方に」
「ニール様に私の状況を見てもらっているの。あと」
「貴方の魔法の修練をぜひこの目で見たくって」
明るく天真爛漫だったアリナ嬢はあれ以降、人とは距離を置く少し冷めた少女へ変貌を遂げていた。
誰にでも同じように接するアリナ嬢は社交界の華だった。今の様子は前とは違うもののその冷めた様子が凛とした美しさを感じるようで、あの件があるから表立っては言えないが、ひそかに社交界の月と噂されているとか(ルドル談)。
「…わかりました」
あからさまにため息をついた少女。女王にそんな態度をして!とロキあたりなら怒るかもしれないが、今はそれを咎めるものがいない。ニール様はそんな彼女の本来の姿が見えるのがおかしいらしくアリナ嬢の態度は気にしていない。
「それじゃあ、今日は防護魔法の応用だ。これが出来ると魔力消費が少なく攻撃ができる。
守りというのは、ある一点に魔力を集中して使うことで、攻撃魔法となりうる。破邪の籠と同じ魔力消費で破邪の矢というものが使えるんだ」
それじゃあやってみて。と言われた彼女はすっと集中している、
ややあって
す、っと
光が抜けていく。
「どうだろう、陛下」
「今のは無詠唱ですか」
「ああ。彼女は最近、詠唱せずに魔法が使えるようになった」
本来、魔法とは想像力が大切らしく、術としてそれを昇華させる同じ様なイメージをもたなくてはならない。そのための言葉を唱え、自身のイメージを築き上げるのだが。
(正史では詠唱していたけど…想像力は優秀なのね)
設定や役割などは正史と同じだが、想像力に関しては本人の素質だと考える。手紙の主に心をとらえられなかったら、きっと優しい子でもっともっと愛されたのだろう。
「甘くなりましたね。ニール様」
その話はおいといて。
「無詠唱で魔法を唱えるのなんて、私には王試験開始してすぐにやらせてたのに!」
あの、地獄の特訓。思い出すだけでも頭や胃が痛くなる。
「魔法の成り立ちから呪文の一覧、由来の暗記。呪文のイメージを近づけるための魔法の身体表現!属性を把握するために現地に赴き、触れたり、感じることで学ぶ授業は!?」
「やろうと思ったよ。でも彼女、ああだったじゃない」
確かに、逃げ出したくなる気持ちはわかる。まして彼女は唯我独尊状態だったのだ。そんなことがあると知ったら何としてでもさぼっていただろう。
一方のアリナ嬢はそんなことがあったなど知らなかったようで、私とニール様を交互に見て若干引いていた。
そんな様子を見て、私はひらめいてしまった。
「ですが、今のアリナ嬢でしたら、聞き入れると思いますよ?」
「!!」
「何せ短期間で無詠唱魔法を習得するくらいですもの。才能が開花している最中なのではないのですか?」
「ちょっと、女王陛下」
「うーん、そうだね。しっかり魔法の修練を行い、その姿を民に見せることで、今世間をにぎわせている『聖女の悪評』は和らぐだろう。魔法の技術も向上し、君の評判も良くなる、一石二鳥だね~」
ニール様のノリの良さは知っている。そして先を読む力が説得力を持っていることも。
まあ流布は変わらず行ってもらっているから王試験の時よりはだいぶ緩和したものだろうけど。
「わかりましたよ!やります、やればいいんでしょ」
「そうよその意気よアリナ嬢」
「言ったからにはカンペキに近くなるようにしないとね」
まあ、こういうことがなくとも、評価に関しては本来の彼女が自力で挽回していきそうなものだが。
彼女に対する意趣返しはこんなものだろう。
(さあ、目星さんの情報をもらいに行きましょうか)
彼らと別れた私は補佐官の部屋へ足を運んだ。
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