第22話 猟奇的なことはしないのでご安心ください
刑を即執行しようとするロキを止めたディンとヨルドはこういった。
「陛下。彼女の処遇は貴方が決めてください。我々は貴方の判断に従います」
私の判断が彼女の今後を決める。それに体が震えた。
「貴方の見たこと、聞いたこと、感じたことを考えて、彼女の今後を考えてくださいね」
それに気づいたヨルドが優しく微笑む。
アリナ嬢へ向き直り、初めて間近で彼女を見た。
愛らしい見た目はゲームの通り。先ほどまでの意気揚々としていた彼女はもういない。
しゅんとうつむいている姿は絵になることだろう。
「正式に話すのは初めてよね。アリナ・ルル―」
彼女とは目が合わなかった。状況を理解しているのか、自分の置かれている立場を考え出したのか。下を向いたまま、顔を上げることはない。
私の感じたことをそのまま彼女に伝えることにした。
「聖女としての使命、聖魔力の流布を順調に行ってくださり、ありがとう。
本来力を注がなくてはならない私がこういう状況になってしまってから、ここまで世界の環境が変わらずにいたのは、あなたの尽力のおかげです」
まずは率直に感じたこと。とわきらの世界を守ること、これが女王である
これから彼女に事実を伝える前に、それだけは彼女に伝えようと思った。
そして、ここからは私の見たことや聞いたことをありのままに伝える。
「貴方が聖女として就任してから様子を見させてもらいました。またあなたに関わる人たちの声も聴いています。
決められた時刻に間に合わない。過剰な贈り物をする。また本来護衛で着けるはずの騎士団を荷物持ちにする。そばにいる方から貴方の後始末に追われる声を聴いています。そして自身の私的な目的のために属性の長の仕事を他者へ押し付ける、招待されていない茶会に無理やり参加しようとする等自己中心的なふるまい。おおよそ聖女としてふさわしいものとは思えません」
彼女はうつむいたままだった。表情はわからないが、彼女の心へ届いてほしいと思う。
「ですが、あなたがそのようになったのは、環境も関係していると思われます」
「ルル―家は最近貴族姓を授かりました。ルル―といえば大商家です。アリナ嬢、あなたはとてもご家族から大切に育てられてきているのではないでしょうか…いつでも自分らしく、誰にも止められることがなく、ふるまえるほどに」
ゲームのアリナ嬢は大切に育てられたのベクトルが違い超箱入り娘だったんだけどね。
「その環境のもと今まで来てしまったとしたら。誰にも指摘されることなく、聖女になったのだとしたら」
私の話していることは可能性だ。事実かどうかはわからないところが多い。
「どうでしょう。彼女だけが悪いということになりますか?」
「…ですが、行ってしまったことは別です」
私は過去の怨念のほかにずっと気になっていることがあった。
彼女が転生者なのは間違いないだろう。
ただその知識は浅く、キャラクターのことについてよくわかっていない。
しかしだ。攻略メモに書かれていた好みのものは一致している。キャラのことをよくわかっていないのに、だ。
「私は自身の行為を振り返り、正す機会が必要と感じます」
「彼女を牢へということですか」
「いいえ」
「振り返るのは、彼女だけではありません」
「ルル―家ですか?それはさすがに」
もちろん環境を作り出しただけで罪を問うなんてことはしない。ルル―の家の方々は彼女を作り上げた要因の一つだが。
ここで私はアリナ嬢から、長達へ目を向けた。
「長達に告げます。彼女の内通者を探りなさい」
「…っ!」
「内通者!?」
「アリナ嬢は単独でこのような不敬を働いたわけではない。共謀、もしくは誘導されて、こうなってしまったと考えます」
それまでうつむいていたアリナ嬢が私の言葉で顔を上げた。事実を指摘されたことに驚いたのか。なんにせよ彼女の反応で私の賭けは間違いではなさそうだ。
「アリナ嬢、調書をとることになりますのでご協力お願いしますね」
「陛下、彼女の処遇は」
「…そうねえ」
リュカを取られたくない一心で彼女を見てきた。何をされるか怖かったから。彼女の振る舞いはありえないことだらけだったしお粗末な計画にもあきれている。
だが、彼女を一生牢に閉じ込めるとか、極刑に処すとかそういうことはしたくない。
アリナ嬢はアリナちゃんだし、アリナちゃんであるから聖魔力の素質はある。彼女は私の命を脅かそうとかそういうことはない。
そして彼女は転生者だ。この世界で数少ない仲間のように感じてしまったのだ。
とわきらの世界を守るために、かつ彼女にお灸をすえる程度のことを、と思った。
そして、ひらめいた。ロキからもらっていた彼女の状況が書いてある資料を見る。
「みたところ、アリナ嬢は魔法の修練が足りていないようね」
「!!」
「上げていけば、魔法の流布の役に立つわ。流布に行かなくてもしばらくだいぶもつみたいだし」
「あ、あの…」
やっとアリナ嬢が口を開いたけど、もう止まってやるものか。
「そうそう、処遇をロキに任せても良いのだけれど…
ニール様のスパルタ缶づめ訓練モードか、ロキによるバッドエンド、どちらがよろしいかしら」
悪役令嬢がいたらこういう笑顔をするのかな。自分の中で最高に悪い笑みを浮かべて言った。
「あ…あ…」
私にはこの程度の制裁を与えるので十分だと、彼女の涙目を見ながら思った。
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