第23話 間章~アリナ・ルル―


アリナ・ルル―


ルル―家の一人娘として宝物を扱うようにそれはそれは大切に育てられた。

長い間子どもに恵まれなかったルル―家は、特に父親がアリナに好かれたい一心でたくさんのものを与えられていたという。それも愛情というのかもしれないが、遠巻きに見ていた者たちからすれば「まるで貢物のようだ」と蔑んだ笑みをもたらすものであった。


彼女が望めば惜しみなく、宝石も、ドレスも、人も。何もかも与えたといってもいいだろう。


そういう背景で与えられた彼女は望めば手に入る、と思うようになった。



彼女は生まれながら前世の記憶があったわけではない。

5歳の時に連れて行ってもらったロワンのプラネタリウム、それとはまた違った色とりどりの光の景色を彼女は知っていた。そういう初めて見たはずのものを「見たことがある」と認識してから、じわりじわりと前世のことを思い出していった。


彼女の前世は女子高校生になったばかりの少女だった。両親は彼女に無関心で、特に愛情を受けたと感じることがなかった。しかし、彼女は友達や周りの人たちには恵まれていて、それが救いだった。その時の友達が楽しんでいたのが「永久の煌き」シリーズである。

「見て!ヘイムたんのこの表情!マジ作画神がかってるよ。あああ~ヘイムたんかわいいよお~」

友が何を言っているのかほとんど理解できなかったが、楽しそうに話す友が大好きだった。

「○○○もとわきらにハマってくれないかな~絶対生活が潤うよ~」


そんな風に話していたのを鮮明に覚えている。


しかし、不運にも彼女は事故に巻き込まれ、その生を終えることになった。



そうしてすべて思い出した時には、彼女は戸惑った。

今の自分の生活は悪くはない。とても過ごしやすく良い環境だといえるだろう。

しかし、記憶を思い出してしまったことで、友と楽しく過ごした日々を思い出して悲しくなる夜があった。友の好きな菓子を食べて涙をこぼしたこともあった。

言葉も、前世の略語やここにはない機械、装置などの名称をいうようになり、彼女のそばにいるものを困らせた。ひどい者は精神を病んでしまったのではないかとひそかに言うものもいた。


それまで恵まれていた彼女は誰にも会わずに過ごす日が続いた。誰にも会いたくない。前世との違いを感じるのが嫌だから。家族、従者皆が彼女を心配した。その気持ちすら、彼女には不快だった。


そんなときに、彼女のもとに手紙が届いた。彼女の部屋の窓際にそっとそれは置かれていた。彼女に届く手紙といったら、ルル―家の恩恵にあずかりたいと思っているので必ず送り主がわかるはず。しかしそれには差出人が書いていなかった。逆に興味がわき、彼女は封を切った。



お決まりの時効の文章から見て、差出人は貴族なのだろうかと想像できる。

「以前お話を遠くから聞いたときに、スマホ、パソコンという言葉を耳にしました。

間違いかもしれませんが、あなたには過去、別の世界で生きていたという記憶があるのではないでしょうか」

彼女はとても驚いた。と同時に一人ではないという感情がわいてきた。

その一文で救われた彼女は、差出人不明の文通を始めるようになった。といってもそれを知っているのは彼女と差出人だけ。手紙は窓辺に置くことでどういうわけが届いているようだ。


そうして交流を続けていると、相手が自分と同じ前世の記憶があることがわかった。

それにより、文通はますます彼女の心のよりどころとなっていった。

友がいない悲しみは消えることはない。しかし彼女には新たな心の支えができた。それにより、こもっていた部屋から出るようになり、ルル―家の令嬢として、社交に参加するようになる。


その時ちょうど、ルル―家が貴族姓をもらうことになる。

そして彼女が聖女に任命される少し前に届いた手紙にこう書いてあった。


「信じられない、もしくはご存じかもしれませんが、この世界は恋愛ゲームの世界なのです」

「貴方はそのゲームの主人公になります。そして世界を救う存在となるのです」



「この世界は女王によって支配されている」

「しかし女王はまもなく、眠りにつくでしょう」

「聖女に選ばれたあなたは各地に赴き、世界を救うことになります」

「あなたは主人公なので、攻略対象のみんながあなたに優しくしてくれますよ」

いくら心酔している相手とはいえこれは少し疑った。

しかし彼女が腹痛で医院にかかった際に、それを確信することになる。


「ようこそ、今日はどうされましたか」

にこやかにする少年に見覚えがあった。名を聞くと少年はヘイムダルと答えた。


(ヘイムダル…ヘイム)

友が好きだったあのキャラである。ニコニコかわいらしい笑顔は友の言っていたものと重なり。

彼女は手紙を信じてしまったのである。





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