第21話 断罪イベントはないはずですが。


「陛下、今日の薬湯です!」

「ううう、ありがとう。クロエ」


お茶会の時にヘイムから聞いた、魔力を増強するハーブを煮詰めた薬湯があると聞き、試している。

それを飲んだ後にヘイムに診てもらうと、ほんの少し、効果がでているらしい。

なので毎朝こうして飲むようにしていた。(苦味しかなくて嫌だけど)


「間もなく、聖女の中間報告会ですね。陛下も参加されるのですか?」

「ええ。私がお願いしたわ。ぜひ参加させてくれって」


そうなのだ。ゲームでもある中間イベント、報告会。

流布の状況、魔法の修練度で今後が決まる、

長達へ流布の状況を確認したところ、そちらは問題なく行えている(たぶんその先のデートが目的なのだろう)。

問題は魔法の修練だ。

ゲームでは今後女王わたしを眠らせている怨念と戦うことになる。戦うといっても修練度が高ければほぼオートの戦闘シーンが発生するのだ。


彼女はどうやら修練度が足りていない。

修練の講師はニール様だ。あれでお説教を受けてから、アリナ嬢はすっかりニール様を避けている。

(逆ハーエンドにはニール様も攻略しなきゃいけないはずなのに)

そのため、修練度はほとんど初期のままでここまできているのである。



だとしたら、バッドエンドになることだろう。

ロキや研究所の方々は最近更に忙しい。もしかしたら次の聖女の選抜準備にかかっているのかもしれない。まあ流布だけは真面目に行っていたが、こうなるのは当然の結果だろう。


できれば次の聖女が選ばれる必要がないように回復ができたらと思う。けど、それは難しいだろう。

せめて負担にならないよう、少しでも回復しておかなければ。






私はずっと疑問に思っていることがあった。

過去の怨念というとわきら2に必須の敵が出てこないのだ。

もちろん、出てこないほうがいい。意識不明なうちにあれやこれや進められているよりはマシだ。

だが、私が自由に動けているのはゲームの進行的にどうなんだろう。

(アリナ嬢がゲームのアリナちゃんだったら、私は水を差すようなことはしなかったけどさ)



この後、どうなるんだろう。

流布だけして私が回復して終わるんだろうか…




そう、思っていた。








「私の聖魔力を搾取するために、倒れたと嘘をつき、臣下をいいように使っていましたね!

そんなあなたを、私は訴えます!」


ここは謁見の間。そして中間報告会の日だ。ここには先日のお茶会に参加したメンバーがいる。彼女は魔力測定のため、玉座に来た途端に、私にそう言い放ったのだ。

補佐官をはじめ属性の長達がその場で再び凍り付く。ロキなんて護身に持っている短剣の鞘を半分抜きかかっている。まずいって。


「…落ち着きましょう。まずは貴方の意見を聞かせてちょうだい。なぜ、あなたはそう思ったの

玉座から立つのもばかばかしい。

だが、そういわれるのを待っていたかのように彼女の目が輝く。別に彼女のペースにしたいわけじゃないけど、話も聞かないという彼女と同じことはしたくないから、とりあえず彼女の推理を聞くことにした。


「あなたは今、魔力がほとんどない。女王は聖魔力がなくなったら、退位しなくてはならない。そこで倒れたと嘘をつき、聖女…私の魔力でつなぎとめようとした!」



うーん。予想としては悪くはないと思う。

(自分の行動を顧みていなかったら)

私が止めているからあきれながらも話を聞いているけど、本来であれば(度重なる不敬により)即行で牢屋行き後、懲役や貴族性のはく奪や賠償問題になる。


「さらに!私に目覚めたことを気づかれたくないと思ったあなたは、本来呼ぶはずだったお茶会に私を呼ばなかった!」

どや顔。論破した、というのが表情に出ている。だがそのあと小さな声で


「…司書と勘違いしたことは謝ります。申し訳ありませんでした」



この子、いったいどこまで本当なのだろう。

天真爛漫が行き過ぎるとこういう感じになるのかな(傍若無人に近いものがあるけど)



「さあさあ、おとなしく認めてください。王さまといえど裁判にかければ、その地位も危うくなるかもしれませんよ!」

楽しそうにも見える彼女、うーんどこから反論しようかな。というかそもそも私の意見を聞くのかな、と思っていると。


「私の言ったことを、理解できていなかったようだな。小娘」


では聞こえてはいけない声がする。

彼女の後ろに立つ者、麗人であることには変わりないが、声が先ほどよりも低く、彼女アリナの呼び名も変わっている。

もう剣に手はかけていなかった。それは一安心だけど、怒りで?男性になったロキは続けて言った。


「スルト、捕らえよ」

「あぅっ、スルトさま、離してください」

スルトは彼女の手を後ろで組ませて素早く縛り付ける。アリナ嬢はひたすらスルトに助けを求めたが、スルトも思うところがあったのか聞き入れることはない。


「まってロキ!」

「陛下、我々は二度もあなたを侮辱されました。貴方はそれで良いのかもしれませんが、あなたに仕える身としてはこれ以上、辱めを受けるわけには参りません」


ロキのいうことはもっともだ。主を馬鹿にされて、謂れのない罪で訴えられるなど、臣下にとっては耐え難い屈辱だろう。

だがそれでも、このまま処刑までするのは気が引ける。ロキは今にも刑の執行をさせてしまうだろう。



「申し訳ない、補佐官殿。少々お時間をいいかい?」

「ほんの数分、われらや陛下の話を聞く、それだけでいいんですよ~あとは煮るなり焼くなり」





逆転断罪イベントが始まりそうです…





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