第20話 招かれざるお客様







今日のアリナ嬢の予定は地の魔導師ユーミールのところへ流布に向かう。その後、ユーミールと食事や視察(いう名の時間稼ぎ)。夕方頃戻る予定と聞いていた。


それなのに、彼女は興奮気味でこの中庭に来て、ロキの前に立っている。

「…なぜ彼女が来た?」

「わかりません。ユーミールとの予定が早まったか、あるいは」

「お茶会の情報をどこからか聞きつけたか」


ざわ、と困惑が広がる。先ほどまでとても楽しい雰囲気だったのに。皆は手をとめ、ひそひそと彼女を見ながら話したり、明らかに怪訝な視線を彼女によこしている。あまりよくない空気が会場を包んでいった。



「こんな楽しいことをやってたんですね!遅くなりましたが、わたくしも参加します!」

(自己顕示欲が高すぎで、「私が参加して当然でしょ」とみじんも疑っていない!)

「リュカ、私のそばにいてね」

攻略メモを思い出して、私はリュカへつぶやいた。リュカは優しいほほえみを見せてくれる。


「聖女よ。今日はユーミールの治める地にて流布を行うと聞きました。なぜ、こちらに?」

色々と言いたいこともあるだろうロキが、言った。要するに

『なんでこんな早くに帰ってきた?』である。


聖女はロキの発した言葉の意味をくみ取ったのか

「お茶会をやっているのを聞きまして。流布は終わったので早く帰ってきたのです」

とやるべきことは終わったと主張してきた。


「ユーミールじゃ彼女は止められなかったか…」

「申し訳ないことをしちゃいましたね…」

ディンとヨルドがひそひそ話している。

(確かにユーミールには暴走する彼女を引き留められないのかも…)

ここにいない彼の気苦労を思い、なんだか私も申し訳ない気分になった。


「それよりも、これがお茶会イベントでしょう?えっと、飲み物と、お菓子の組み合わせだっけ?」

「侍女に言えばいいですか?私も頼みたいんですけど…」

悪気がなく、といえば聞こえは良いのかもしれないが、場の冷ややかな空気を読み取れず、自分の好きにふるまう彼女はいっそのこと、尊敬する。


(うわあ)

みんなが引いている。許可もしていないのに座席に座り、お茶をいただこうとしている。

「聖女よ。今日はあなたを呼んではいません。帰りなさい」

ロキがぴしゃっと言い放つ。するとようやく自分が参加できないと知り、涙目になる。両手で目元を押さえようとするのが、年齢よりも幼さを感じさせる。


(いやあこれがアリナちゃんだったら、状況が違ったら放っとけないと思うんだけど)


「ひ、ひどいです…私が、主役なのに…イベントに、参加できないなんてえ」

「……主役は招待した来賓たちです。あなたは招待していません」

「なんでそんな意地悪するんですかあ」


ただ泣きわめく彼女にますます冷えていく。さすがに収拾がつかなくなりそうだったので声をかけようとしたが、止められた。


「なぜそうなるんだろうね。補佐官殿がしたことを意地悪と思うの?だったら理由は?多忙な補佐官殿は理由なくこんな意地悪ことに時間は使わないと思うんだけど」


ニール様は彼女に考えさせる時間を与えた。それは彼女を泣き止ませるためであるので、話も早々に切り上げるつもりだった。

少し考えて、彼女は私を見た。私の見立てでは彼女は転生者なので、私の姿を見たら(病に臥せっているはずの私がここにいることに)驚くのかもしれない。


「もしかして…」




「この司書の方が言ったのですか?アリナに招待状を出すな、と」





「アリナ嬢…」

「だっておかしいじゃない!こんなところに司書がいるなんて」

「きっと私に嫌がらせしたんだわ、私に仕事を押し付けられたって恨んでいたのね」



重い空気が凍った。

招待客の誰もが、彼女に対して軽蔑の視線をやる。

さすがにそれには気づいたのか、アリナ嬢は少し戸惑った。


「………ディン、ヨルド、彼女をさげろ」

冷ややかな声で、ロキは告げた。その場にいた皆は戸惑いながらも、ロキに従う。


「茶会という手前、退場処分ということだけにしてやる。お前のその発言は不敬の罪になるということを、ゆめゆめ忘れるな」

「さあアリナ嬢行こうか」

「え、不敬ってどういうこと」

「それは、帰りながらお話ししましょうね~」


色々とツッコミどころがあるが、嵐は去った。

よどんだ空気が少しずつ晴れていく。



ロキはまだ怒りの表情が残っている。このまま発言しても空気が解消されることはないだろう。

よし、ここは私の出番だ。

「皆、今日は集まってくれて本当にありがとう。

そして…このようなことになって、ごめんなさいね。早く魔力を取り戻して回復しなくちゃ!

みんなに、助けてもらうことになりそう。もう少しの間助けてください。よろしくお願いします」


ぱらぱらと拍手が広がり、温かい空気になった(と思う)

なんとか温かく終えることができて、今日はもうお開きとなった。






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