第18話 私がいない間にしごできな人たちが追及してくれています
「本日より、聖女関連のことは君に任せる」
「ふあっ!?」
「…大変申し訳ない。その分聖女関連以外では自由出勤にするし、君の功績を査定でも十分評価しよう」
聖女関連の仕事、は主にお詫びだ。各所へ説明して回るのが主になる。
リュカが頼んだ彼は、有能だ。仕事が早いし、視界が広いので予測されるトラブルやその対応も柔軟にできる。
今までの自分が後始末に駆け回っていたので、その役割を実質押し付けてしまっているのが心苦しいのだが…
「…わかりました。リュカさんのようにできるかわかんないですけど、頑張りますよ」
へらっと優しく笑って彼は了承してくれた。
「それに、そんな長くならないんだろうし…」
ぼそっと彼がつぶやいた言葉に、リュカは答えなかった。
聖魔力はこの世界でも特殊な性質でいまだ解明しきれていないことが多い。
(たしか、レポートがここにあったはず…)
研究所にある資料室。リュカはここで聖魔力に関するファイルの山を作っていた。
かなりの速さで読み進めていき、読み終わったもののほうが大きくなっていく。
そしてそれを見つける。
「…これだ…」
ファイルの題名は「日用品と聖魔力の関係」
ページをめくりとあるページに行きついた。
とある香料で使われる植物だ。
柑橘系の良い香りが特徴。低コストで生産できるため流通している。
そして、今流行している紅茶や香水の成分として含まれているものだ。。
リュカが目を留めたのはこれが聖魔力と合わせると異常をきたすというレジュメ。
とある実験で、これに聖魔法を施すとどうなるかというものがあった。
結果回復や補助を促す聖魔法が、本来の力を発揮できず、その植物を腐敗させた。
他にも葉が大量に増えたり、身が赤黒くなるなどの報告が記してあった。
さらに、補助魔法を受けた魔物に試したところ、香りや花粉などでも遅効性だが異常な効力(意識の喪失、身体能力の鈍化)を発していることがわかった。
(これは最近の研究会で発表されたものだ…だが陛下に承認されていない)
世界に周知させるためには陛下の了承が必要になるのだ。そうしないと王の信頼がないものとなり、公表しても世間から認められることがない。
ここで女王の言葉を思い出す。最近書類が増えて処理に時間がかかっている、と。
そしてその書類は急を要さないものばかりが優先させられると。
(もしかしたら)
ある仮説が浮かぶ。
書類は増えたのではなく、
めまいとは違う気絶にも似た急激な意識の喪失。最初に起きた時は紅茶でこの香料を摂取したことによる異常。彼女の聖魔力が回復しないのもそれによる副作用と考えられる。
ロワンの群衆の中にあの香水を使ったものがいたら。わずかにある女王の聖魔力と反応してまた意識障害が起きたのではないか。
(誰かが女王を狙っている…?)
(一体)
誰が、と思い立ったが、すぐに彼女だろうと思い直した。
(女王が退位されれば、自分が女王になれると思っているのだろうか)
考えが浅そうな彼女のことだ、
聖魔力量が多いというそれだけの理由で聖女になった。そんな聖女だから、女王の前では気品も人を思い遣る心も遠く及ばない。
(大まかなことはわかった。この件は他の人間に任せよう)
ファイルの山を片付けてから。彼は探し物に取り掛かった。
ロキは悩んでいた。女王が悩んでいた書類はあらかた片付けた。女王まで至らなくても良いものは地方の属性の長たちへ流すようにし、神にしなくても良いものは電子化を進めていくようにした。
それは良い。
今問題なのは聖女についてだ。
地方への流布という最低限の使命は行えるが、あちらこちらで何かしら良くないものを残していく。
貴族になったばかりだから、周囲も最初は温かく見守る気持ちがあった。
だが彼女は学ばなかった。いつでも自分の思うことを最優先に行う。
その後始末で本来の仕事に取り組むことができない者が続出しているのだ。
うまく回っていたことが回らなくなる。
「ロキ様、もう彼女は良いのではないでしょうか」
そう言ったのは影の青。
「…私も8割はそう思っている。だが」
「陛下のことですね。別の代役を立てては」
「いや。それはしない。また同じようなことになっては困る」
そうは言っても、これ以上の混乱は避けたい。
「これを使うことになるかもしれないが…やむをえないな」
彼が出したのは王の近くで仕えるものに与えられる書物。
「ところでロキ様、あの調査の件ですが」
「裏は取れたか?」
「はい。各地方から不自然に増えた書類は共通点がありました…関係者に話を聞き、証拠もあるので…そこで間違いはないかと」
「一体どなたかな?われらの女王陛下を追い込んだのは」
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