第16話 せっかく会えたのに。


「リュカ、様ですか…」

「なぜ様をつけているんですか」

「今の私は、司書なので…」

「なんですかそれ」


振り返ると銀色が輝いた。一週間くらいだけど、もうだいぶ会っていない気がする。

何故だかわからないけど、涙が出そう。


「護衛はどうしたんですか」

「お詫びをしたいという方に連れていかれました」

「…業務を放って何をしているんですか、騎士団の方々は」

「私が止めなかったので。それに、こうしたからあなたと二人っきりになれました」


グッジョブアリナ嬢。

彼らを連れて行ったことは水に流すよ(それだけね)。


「貴方はなぜそうやって可愛いことを普通に言うんですか」

「え…今かわいいって言いました?」

「…言いましたよ」


(ツンデレキターー!)

観念したかのようにリュカは両手で顔を覆った。ゲームでは見られませんよこの絶景!

すごい!かわいい!国の宝です。ありがとうございます。


「ところで、何を調べていたんですか」

「……魔力を回復させる方法を…」


リュカにおとぎ話を信じて調べてますって言ったらなんて顔されるんだろう、と思ったらざっくりとした言葉しか出てこなかった。


「何か、わかりましたか?」

「まあ、それなりに」

ううう。なんだか塩対応だ。あいまいにしようとすると冷たく聞こえちゃう…

そんなつもりはないのに。


「リュカは、お仕事忙しいんですよね」

「…ええ、まあ。主に後始末ばかりで、通常の業務も進まなくなってきました」

「ああ……」


また会話が止まってしまった。

こんなこと、今まであったかな。

王試験の時はゲームの知識があるから会話が進んでいた。

女王になってからは、お互いの近況を話して笑っていたのに。


「ごめんなさい。せっかく会えたから楽しいお話しようと思ったのにできないね」

「…私の、ほうこそ」


ああまた間違えちゃった。

リュカが悲しい顔をしている。そんな風にしたいわけじゃないのに。


「帰りましょう」

その場から逃げたくて私は言った。もうリュカの顔は見られなかった。



「レア」

「今までは、こんなことなかったな」

「お前の助けになりたいのに、何もできていない自分が嫌になる」

「お前はいつも、俺を助けてくれるのに」

言えない私の代わりにリュカは言葉にしてくれる。


「リュカ…」

向き合えない私にリュカの腕が伸びてくる。

ぎゅっと、心地いい感触。

私の好きな、温度。


「レア。お前の魔力を取り戻す手伝いをしたい。知っていることがあったら教えてくれ」

「お前の力になりたいんだ」


そう話しているリュカの声は震えている。

素直に言えばよかった、と後悔したけど私はリュカに知りえた情報を伝えることにした。












◇◇◇








(今日は、スルト様とノルズ様とお出かけしちゃったし~昨日のルドル様にプレゼントしたからだいぶ上がってると思うんだよね~)


少女はとても期限が良かった。

自分の思うように進んでいることに浮かれていた。


「ステイタス―っと」

彼女が開いたのは数値場面。


「えええ~」

確認すると今日出かけた二人、それにルドルの好感度の数値が

「ちょっとこれは上がりすぎじゃない?ルドル様なんて言葉ではあんな態度だったのに実は私のこと気になって仕方ないってこと?」


考えられない数値の上昇に彼女は動揺している。しかし疑うことはなく。


「絶好調じゃない、みんな私のこと、好きになるようになってるんだね」

ベッドで横になりながら、うっとりとした笑みを浮かべた。


「さてさて、今日の報告と…明日の確認。明日はディン様…あまり話したことないけど大丈夫だよね」

「こーんな美少女を放っておくなんてしないだろうし~」




すっかり上機嫌な彼女は横向きになり

「まだまだ利用できそうだよね~聖女って」

口角だけを上げて、つぶやいた。







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