第10話 ちょっと血管が切れそうなのですが

☆とわきら キャラ紹介☆

ヨルド・ジスカール

薄緑の長髪を下のほうでくくっていてつばの広い帽子、リュートのような楽器をもっている。瞳は暗い緑。風の魔導師。吟遊詩人で風流好きな貴族のため、よく王都へ顔を出して伝承歌や偉人の歌を歌っている(最近は女王レアの誕生を歌にしているらしい)。歌を歌っているとき以外はのんびりマイペースな性格。





王都ロワン。王城から近いここは光の魔術師ルドルが治めている地。王都というだけあって、ここは上流貴族が多くいる。気候も安定していて、緊急を要していない場所であるが、聖女の技術を見るのには適した場所であるだろう。


「…で、何故私と一緒にいるのですか~陛下~」

「陛下じゃなくて、私はアイ。あなたと一緒だと一般人みたいで都合がいいの」


私のそばにいるのはヨルド。風の魔術師で族長だけど吟遊詩人でよく王都に来ている。

「はぁ、そういうものなのですか~」

「…まだ、来ないのね」

「聞いた話よりも遅いですね~」


そうなのだ。ロキに聞いていた時間を過ぎている。聞き間違いではないと思うが、あるいはあちらの聞いた時間が間違っているのか。

ここはロワンにある王立研究所。聖女の噂は広がっていたため、一目聖女を見ようと見物客で賑わっている。

その見物客に紛れて私も潜入できたのだけど。


「ロワンの皆。今日訪れる予定の聖女だが、予定の時刻よりも遅くなるようだ。皆の貴重な時間がこうして過ぎてしまったことに私は心が痛い」


こういうことを迅速に行えるルドルはすごいと思う。その場にいる人たちがざわめくもすぐにルドルは言葉を続けた。


「そこでだ、希望するものをロワン王立研究所のプラネタリウムに招待する」

今度は歓喜のざわめきが起きる。ロワンのプラネタリウムと言えば、王立施設でありながらなかなか予約のとれない催しだ。月に4回しか行われないそれは、プラチナチケット化しているくらい。

王立の設備でありながら、確かルドルの家も協賛出資しているから豪華で見ごたえがあったってルドルのデートで「レア」が言っていたのを覚えている。


「これはルドルの宣伝ですかねぇ」

「迅速すぎるからそう見えるだろうけど、たぶんアリナ嬢が遅れているんでしょう」


ほとんどの群衆がプラネタリウムに流れていく。流れ的に私もそっちに行ったほうが良いのだろうけど、そういうわけにもいかない。


「ところで、へ…アイさまはどうしてそんなに彼女が気になるのですか?」

「彼女が聖女として、しっかりと仕事をしているのを見たいのです」

「しかし噂では女王は療養していると聞いています。そこまで無理をなさる理由にしては弱いですねえ」

ニコニコしながら追い詰めてくるなこの人は。


「彼女次第で私が早く回復できるか決まるのです。それに体力は戻っていますから無理ではありません」

嘘は言っていない。ゲームでもアリナちゃんの育成次第で女王レアが早く目覚めてボーナスをくれるんだから。


「まあいいでしょう。アイ様、ご覧ください。転移門が開きます」

ヨルドが示した先には大きな扉がある。王立騎士団魔導部によって作られたそれは転移されるときにのみ姿を現す。


そこに青白い光で縁取られた門。そこから今アリナ嬢が出てきた。

(!?)




「遅くなりまして、申し訳ありませんルドル様。ルル―家のアリナと申します」

出てきて早々にカーテシーをして見せるアリナ嬢。しかし私たちの目線は彼女の後ろにあった。


「なんでしょうかね、あの大荷物は」

彼女の護衛として駆り出されている騎士団数名が大きな箱を積み上げている。

ただの荷物運びと化し、護衛の意味をなしていない。




「挨拶は結構。早速流布にうつってもらう」

「いえっそういうわけにはまいりません!遅くなったお詫びとしてこちらをお受け取りください!」

そういって彼女は大きな箱をルドルに差し出した。


「不要だ」

「でもっこれはルドル様の好きな外国の書物と高級羽ペンなんですよ?」


「ねえ、ヨルド。お詫びの品であんな大荷物、うれしい?」

「私は有名菓子店のお菓子がいいですねぇ。彼女は贈り物をしたことがないんでしょうかね~」

しかも本とペン。確かにこれらはルドルの好きなプレゼントだ。しかし状況が違うし、量も多すぎる。


(何を考えているの?この子…)


「君は予定の時刻よりも遅れているのだ。詫びの品は…まあ持ってこようとする気持ちは良い。だがこのように大量に、荷物になるものをよこされてはこちらの労力も使うことになる。よってさらに本来課せられた仕事が遅くなるのだ。そういったことも考えて、私にこれを持ってきたということなのか?」

「運ぶときは騎士団の方々をお使いください。そうすれば労力を使うことにはなりませんわ」

「…とにかく、これは結構だ。これより流布を執り行う。こちらへ来てくれ」


ルドルの早口お説教を前にして、この対応。さらに騎士団を自分に仕えているものだと勘違いしているような行動。まるで響いていない。


「陛下…大丈夫ですか」

「大丈夫じゃないわよ、あの子」

ヨルドの陛下呼びにも注意できなくなった私は、彼女の態度に血の気が引く思いだ。


「大丈夫か心配なのは陛下です。顔が真っ青ですよ」

「ああ、これはあの子の態度にめまいがして…」

「へぃ…アイ様!?」


あれ、なんだかヨルドの声が遠い…


どうやらそこで、私の意識が途切れたらしい。




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