第9話 間章〜光と闇のお茶会、そして活動報告
「魔力を貯めることができなくなっています。袋に穴が空いた状態でいくら回復魔法を使っても効果は少ないでしょう」
「普通、それはありえないな」
「ええ。誰かが意図的にこんな状態にした」
闇魔導師で医師ヘイム、光魔導師で貴族のルドル、そして補佐官ロキ。
密談の内容は女王の危機について。
当たって欲しくない予想が当たってしまった。
女王はただの過労ではなく、療養を強制させられている。
「書類の増加はそれそれの地方で同じだけの量が増えています。一箇所に集中すると疑いをかけられると思ったのでしょう」
「なるほど。そちらについて疑いはかけにくくなったか」
「もう少し洗ってみれば、何か見つかるでしょうから、今しばらくお待ちください」
医師と貴族は補佐官の言葉をそれ以上追求しなかった。
防音魔法のかかった王城の客間では重苦しい雰囲気でいっぱいになっている。
「それで治療法はあるのでしょうか」
「あるにはあります…ですが」
「…ある方の力が必要になるかと」
重苦しい雰囲気がますますひどくなる。
「アリナ嬢の力が必要になるかと」
ヘイムの告げる言葉にため息が出た。
確かにアリナ嬢は聖属性の魔力(だけ)は十分にある。昨日今日見ただけだが、世界を救うことや魔力を高めようという意志は感じられない。
「少し、よろしいでしょうか」
「許可する」
ロキの後ろにいた影が頭を下げたまま告げる。
「アリナ・ルル―は、属性の長に会いたがっています」
「…それは、わざわざ言うことか?」
「誰も伝えていませんでしたが、長の皆様の名前をすべて覚えています」
「…」
「侍女へリュカ様の好みを聞いていました」
「……」
「情報収集にはとても熱心なようで」
「えっと、つまり…どういうこと?」
彼女の意図がわからないヘイムは二人に尋ねる。ヘイムの鈍感さになのか、アリナ嬢の目的に辟易したのかルドルとロキからため息がこぼれた。
「我々と交流を深めたい。あわよくば近しい存在になりたい、というところか」
「…ちなみに、ロキ様への執務室へ向かおうとしていましたので、ニール様に止めてもらいましたが」
(ロキも狙われてる…!)
「そんなことして、いったい何になるんですか」
「成り上がりの考えそうなことだ」
ルドルは侮蔑の言葉を吐いた。世襲制ではないものの、代々続く光の長であり貴族の彼は取り入ろうとする人間を何人も見てきた。
属性の長という安定した地位と財力。
しかも(乙女ゲームの対象キャラなので)顔が良い。
未婚の貴族女性が身を固めるには好条件というだろう。
アリナもよくいる貴族女性にたがわず、というか自身の与えられた使命よりも地位の確立に熱心な令嬢ということになる。
「私から、話しておかなければならないな」
「…心労がかかるな」
「ルドル、そう思うなら彼女への対応を頼む」
「明日からの出向、か」
「ニール様に言われて懲りててくれればいいですけどね」
◇◇◇
「あ~あ」
私室に帰った少女はため息をついた。憂いに満ちた表情はそれを見た男性ならきっと息をのむに違いない。
「怒られちゃった。でも、ロキ様…怒ったときの表情もきれいだったあ」
室内着に着替えながら、何を怒られたっけ?と少女は思い出そうとしたが、「聖女としての自覚を~」だったか「学ぶ姿勢が~」だったかな。とさして頭に残っていないようだ。
「まあそんなのどうでもいいよ」
そう言って。何かを唱えた彼女は目の前に半透明の板を呼び寄せた。
「うーん、あんまり上がってないな~ま、明日から各地に行けるようになるから、それでグッとお近づきになれるか…」
そこに現れたのはとわきらの攻略対象の名前と数値。主人公に対する好意を示すものであり、どれもあまり高いものではない。
「そうそう、お父様にいって物品の発注しておかなくちゃ。明日はルドル様のところだから…
ルドル様の好きなものは外国の書物、高級羽ペンね」
目の前にあった板を消して、手紙を見返しながら、彼女は電子端末を起動した。
「よし。あと今日の報告、っと」
こうして発注を完了した彼女は今日の出来事を端末に入力し、その記録を送信した。
「わざわざ紙に書かなくていいから良いよね。そういうところ、
ベッドに横になった彼女は端末の電力を補充すると眠りに落ちた。
☆とわきら キャラ紹介☆
ヘイムダル
闇の魔術師。藍色の長髪。紫色の瞳。医師であり薬師。若くして医師、属性の長になったので嫉妬ややっかみを受けがちだが、人の思惑に鈍感。ただし素直なので言われたことには律儀に従う。
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