第8話 私室を抜け出してみました。調査開始します。





「本当にこれでばれない…?」

「俺を信じてくださいよ」

「いや確かにすごい技術なんだけどね」


私室には私の音声を組み込んだ電子人形が置くことにした。

ぱっと見ただけでは人形だとばれないと思う。私室を訪ねるのは侍女だけど、気づかないだろう。

問題はロキが訪ねてきた時だ。観察眼が鋭いロキは偽物と気づく可能性が高い。


「補佐官様はここ一週間、陛下の公務を代行するため、超過密なスケジュールなんですよ。何かされるんだったら今がチャンスです」

「え」

「電子端末の通信は陛下の携帯端末に転送されるようになっていますし、いざとなったら奥の手を用意していますから」


…どこまで予想して用意してくれたんだろう。それも気になったけど、今はアリナ嬢の動向を見たい。

ロキも気になるし、リュカの仕事も多忙なんじゃないか。


「ディン…ありがとう」

「いえいえ。あとこれを」


ディンは私にペンダントをくれた。親指ほどの大きさのトパーズを簡素な金具でつないだもの。RPGでよくある装備品のように女性が身に着けるのには少し大胆だ。


「護身用のペンダントです。いざというときに発動しますので」

「本当にありがとう」

「いいんですか?一緒に行かなくて」

「王都に出てみるだけだから。もし王都から出るようなら、連絡するわ」


ディンの優しさに甘えすぎてはいけない。



まずはアリナ嬢の動向を見て、少しでも魔力を回復させていきたい。

できれば早くゲームを終わらせるように聖魔力を取り戻していく。


これが目標だ。


「わかりました。俺以外にもノルズ、ユーミール、ヨルドには話を通してありますので困ったら連絡してください」


補佐官の連絡がいきそうな王立の施設や貴族以外へ連絡済みみたい。


「それでは、最後に…」


ディンが魔法を唱えると、私の目の前が光でいっぱいになった。

鏡で見せてもらうと私の髪、瞳も前世の色に近い黒へと変わる。

「髪と瞳を変えておきました…どうか、気を付けて」



いたずらっぽく微笑んだ彼は手の甲に唇を落とす。

「ディ、ン…」

「いつもリュカが美味しいところもっていきますから」


(ちょ、ちょっ…ナニコレ女王オイシイ立場じゃないですかやだ)

どこまで本気かわからない。けどこれはディン推しの人の気持ちが分かるわ…


ニコニコ笑顔で私に手を振るディンにまだ熱い頬を押さえながら応えた。










◇◇◇



私はある部屋へ忍び込んだ。

ここは王城の講義室。王城には隠し扉がいくつもあるのを女王は知っているのだ。

そこはアリナ嬢と魔導講師のニール先生がいた。



「土地へ魔力を流すには、あなたの持つ聖魔力と属性の長たちの魔力を同時に発生させていくんだ」

「…」

「各地で属性の長と向かうから、赴く際には研究所または騎士団まで連絡してね」

「…」

「ねえアンナ様、聞いていますか?」


「ニール様、早く属性の長様に会いたいのですが」

「…何度も言ってるけど、しっかりと説明を聞かないと属性の長と会い、力を流布させることができないんだよ」

「私が行かないと、世界は困るんじゃないですか~?」

「…あいにくだけど女王陛下が流布している分があるんだ。それが二週間で底をつくと予想されるから、まだ猶予はあるんだよね。少なくともあと三日は訓練を行うんだよ」


「えええ!?そんなにですかあ?私、魔力が多いんですから、やりながら覚えていけばいいと思うんですよ~。魔法学校でもけっこういい成績だし」


「だったら今から行ったら?ただし研究所と騎士団の協力は得られないよ。つまり転移魔法は使えない。自身の足で赴くことになるだろうね」

「ええっ」

「研究所も騎士団も手が空くのが早くて三日後。王立の施設も不測の事態に陥っているんだよ。思い通りになると思わないでね。自分の立場を理解しろ」


「………はぃ」


…辛辣う。

相変わらずニール様すごい。

(美しい顔でこんな風におっしゃるんだよ。ニール様のルートだとそれから態度が柔らかくなっていって…エンディングは……ああいけないいけない)


フランクな言葉だから勘違いしてしまいそうになるけど、アリナ嬢の態度があんまりだからね。

ゲームだとこの場面はチュートリアルだからスキップできるんだけど、現実にいたら面倒と感じることもあるかもしれない…




(「属性の長に会いたい」…早く魔力を流布したい、じゃなくて?)


彼女の言葉が気になる。なんだかゲームで見たアリナちゃんとは違う印象である。

ゲームのアリナちゃんは使命に一生懸命、どちらかというと異性に耐性はなく、苦手な印象だった。それが良いからとわきら2を楽しめたのに。

アリナ嬢、少し違和感があるなあ。


「君は女王でもなんでもない。勘違いされたら困るから、その辺についても講義してあげようかな?」

「…スミマセンデシタ。聖魔力ダケデ、オ願イシマス」


ニール様の言葉があまりにもショックだったからか、素直に従うところを見るとそこまでではないのかもしれない。





☆とわきら キャラ紹介☆

ニール・カルメル

藍色のボブヘアに藍色の瞳。1,2ともに魔導講師として主人公に魔導の基礎や使い方を教える。まるで美術品のような顔立ちで砕けた言葉遣いだが、思ったことを率直に(時に毒を含んで)話す。ニールルートを選択しない限り、後半は出番があまりない。

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