45.白の雪女vs漆黒の騎士

 二回目のダンジョン配信で訪れた緑の星二。

 雑魚モンスターに無双し順調に攻略をしていた久須男達の前に、このダンジョンのボスであるデュラハーンが立ちはだかる。

 漆黒の馬に乗り同じく黒い鎧に身を包んだ上級魔物。大きな剣を持ち、脇には自身の頭(兜)を抱えている。



『雪女風情がおこがましい。この上級悪魔である私が直々に消してあげよう』


 漆黒の圧を放出させるデュラハーン。対するトーコも強い冷気を帯びた魔力を出しそれに対抗。


『相手の実力も分からないお馬鹿さん。生涯消えない氷の中で反省するといい』



『黙れっ!! 下級魔物が!!!!』


 デュラハーンが剣を振り上げ一気にトーコに迫る。



(速い!!)


 大きな図体、機動力はないと思っていたトーコが驚く。



『氷魔法、氷壁!!』


 同時に発せられる氷の分厚い壁。デュラハーンがその壁に向かって馬ごと体当たりする。



 ドオオオオン!!!!


 バキ、バキバキ……、バリン!!!!


 強い衝撃に耐えかねて氷壁が破壊される。デュラハーンが剣を振り上げ大声で叫ぶ。



『一刀両断にしてくれる!!!! ……なっ!?』


 剣を振り上げたデュラハーンがその場で固まる。



『こ、これは!?』


 そして乗っていた馬の足を見ると見事四本とも氷漬けにされている。トーコが更に魔法を放つ。



『すべてを凍りつかせよ。氷魔法、フリーズ!!!!』


 同時にデュラハーンの周りに渦を巻きながら発生する白い氷。それはすぐに勢いを増して増幅し、デュラハーンの体を凍らせていく。



『くそっ……』


 デュラハーンはあっという間に剣を持ったまま馬ごと氷漬けにされてしまった。

 ふたりの戦いを見ていた久須男がイリアが持つカメラに向かって話始める。



『えーっと、今回は攻略動画なので少し解説をしますね』


 久須男がデュラハーンを指差して言う。


『あのデュラハーンってのは実は物理攻撃がほとんど効かないんです。だから脳筋パテで遭遇した場合は素直に諦めて逃げましょう。魔法が使えるなら倒せます』


 久須男が魔法を繰り出すトーコを見て頷きながら説明する。



『はい、魔法は効いていますね。よい戦い方です。トーコの魔力がもっと高ければ確実にデュラハーンの動きを封じていたでしょう。でもこれだけやれれば及第点ですね』



 久須男の解説を聞きながらどんどん視聴者からのコメントが増えて行く。



【とーたん、マジかわ】

【調教されたい】

【デュラハーンってヤバい奴?】

【普通にヤバい】

【っていうか会ったことあるやつおんの?】

【おらんだろ】

【もう無理ゲー】

【そうだな。これからは『イリアたんととーたんを愛でる会』にしよう】

【巨乳はよ】

【イリアたん、声だけの出演は悲しい】

【あ、氷の壁】

【秒で破壊、さすが】

【って言うか、あいつキモいわ】

【マジそれな】

【あ、とーたんピンチ!!】

【また氷】

【藤堂さんの解説、キターーーー!!】

【物理効かないとか草】

【魔法使えるやつってどんだけいるの?】

【ちょっとだけ】

【とーたんの魔力でも足らないってよwww】

【って言うか藤堂さんって普通に魔法も物理もやるよな】

【ほんとそれな】

【強ければ美女も付く。いいか、お前ら。これが現実だ】




 氷漬けにされたデュラハーン。

 一瞬勝利を確信したトーコに、久須男が小声で言う。



『トーコ』


『はい、ご主人様!!』


 お褒めの言葉を貰えると思ったトーコが笑顔で振り向く。久須男が真面目な顔で言う。



『まだ終わってないぞ』


『??』


 その意味がすぐに分からなかったトーコ。だが背後から響く氷を砕く音を聞いてその意味を理解した。



 バリ、バリバリ、バリン!!!!!



(う、うそ……!?)


 トーコが渾身の魔力を使って凍らせたデュラハーンだったが、いとも簡単にその氷は砕かれてしまった。剣を持った腕をグルグル回しながらデュラハーンが言う。



『この程度の氷で魔界最強の騎士が凍らせると思ったのか? 今度はこちらから行くぞ!!』


 デュラハーンはそうトーコに言うと剣を持って再び突進する。トーコが魔法を唱える。



『氷魔法、アイスランス!!!』


 唱えた彼女の周りに現れる無数の氷の槍。それが彼女の合図で一斉にデュラハーンに向かって放たれる。



 シュンシュンシュン!!!!



『この程度っ!!!!』


 ガンガンガン、ガンガン!!!!


 デュラハーンはそれを手にした剣で次々と落として行く。トーコの目の前に迫る漆黒の剣。間を置かず魔法を発動。



『氷魔法、氷壁!! 氷壁っ!!!』


 一瞬で両者の間に張られる氷の壁。デュラハーンはそれをまるで削られるかき氷の氷のようにザクザクと削り取って行く。



『こんな物で剣が防げると思ったのか!!!』


 ザクザクザク!!!!


『ひょ、氷壁……』



 トーコが削られた氷の壁に新たな氷を張る。ただ強力な魔力を発しながら剣を振るデュラハーンの前にそれは長く持たないと皆が思った。

 デュラハーンが薄くなった氷を前に剣を思いきり振り上げる。



『これで消してやるぞ、下級魔物め!!!!』


 トーコは一瞬体が動かなくなった。

 実力差があったのは自分の方。主を貶され怒りに任せて行動した結果であった。冷静な雪女なのにとんだ失態。ただ後悔はない。あの場を黙って見過ごせるほど冷めてはいない。




『氷壁』



 脱力したトーコの耳に、その大切な人の声が響いた。



 ガーーーン!!!!


『ぐっ!?』


 振り下ろされたデュラハーンの剣。それがトーコの前に現れた氷の壁に当たり鈍い音を立てて弾き返した。



『よし、こんなところかな』


 トーコがその声の方を見ると、久須男が笑顔で歩いて来る。剣を弾かれたデュラハーンが大きな声で叫び、再び剣を振る。



『何だこれは!! このようなもの私が再び……』



 ガンガンガンガン!!!


 トーコの氷壁同様、剣で破壊しようとしたデュラハーンの剣がすべて弾き返される。



(硬い!! 我が剣が通らぬだと!?)


 漆黒の剣を持ち固まるデュラハーンをよそに、久須男がトーコに言う。



『おーい、トーコ。ここで交代な。攻略動画なんでちゃんとあいつを倒す説明とかしなきゃいかんから』


『でも、ご主人様……』


 自分の力で倒したい、そう思ったトーコだが主の命は絶対。頭を下げ、大人しく後ろへと下がって行く。久須男がイリアのカメラに向かって言う。



『ではみなさん、ここからデュラハーンの討伐方法をご説明します』


 緊迫した場面になぜか笑顔でいる久須男を見て、視聴者のコメント欄が再び騒がしくなる。



【とーたん、つよ!!】

【デュラハーン、氷漬けとかワロタ】

【あ】

【やば】

【氷割って出て来たwww】

【怒ってる】

【とーたん頑張れ】

【氷の槍、すご】

【デュラハーン強えェな】

【マジそれ】

【氷の壁】

【剣で削ってるw】

【とーたん大丈夫??】

【ヤバくない??】

【ヤバいよヤバいよ】

【あ】

【おっ】

【藤堂さん、キターーー!!】

【選手交代?】

【とーたん、乙~】

【愛してる】

【デュラハーン倒すの楽しみ】



 久須男が改めてイリアの持つカメラに向かって話始める。



『えー、ではここからはデュラハーンの討伐について説明します』


 久須男が氷の壁の向こうで動けなくなっているデュラハーンを指差して言う。



『基本的には魔法で攻撃しましょう。威力がなくても続けて攻撃すればいずれ倒せます。まあ今回はそれではつまらないので、あえてで倒してみようと思います』


 そう言うと久須男はゆっくりとデュラハーンの方へと歩き出す。



『デュラハーンは物理攻撃はあまり効きません。ただ効かないのであって、無効ではないのです。例えば彼の場合は……、えっと物理耐性96%ですね。ちょっと効きます』


 久須男は氷壁を解除し、その後ろで何もできずにこちらを見ていたデュラハーンに歩み寄る。



『来たか、下等な侵入者よ。我の剣で一瞬に楽にしてやるぞ!!』


 デュラハーンは全く動こうとしない久須男に向かってその漆黒の剣を振り下ろす。



 ガン!!!!



『え?』


 誰もが目を疑った。

 デュラハーンが振り下ろした漆黒の剣が、久須男の素手によって止められたのだ。デュラハーンが驚いて言う。



『ば、馬鹿な!? こんなことが……』


 スキル『神力』。常人ではない力を発動するスキル。久須男は戦闘中常にこの神を冠したレアスキルを発動している。久須男がカメラに向かって言う。



『えっと、つまりですね。無効じゃない以上、それ以上の強い力でぶん殴れば攻撃は通じます。脳筋万歳ですね!!』


 そう言うと軽く跳躍し、剣を掴まれて動けなくなっているデュラハーンを力強く殴りつけた。



 ドオオオン!!!!



『ぎゃああ!!!!』


 殴られたデュラハーンが悲鳴を上げ、回転しながらダンジョンの壁に叩きつけられる。自慢の鎧にはひびが生え、体を痙攣させたまま倒れている。久須男がカメラに向かって言う。



『はい、こんな感じですね』




【キターー!! 藤堂さんヨロ!!】

【解説始まった】

【え?】

【は!?】

【物理で倒すの?】

【www】

【脳筋のワイ、これ待ってた】

【物理耐性96%って草】

【デュラハーン激おこ】

【あの剣ヤバいだろ】

【うわっ、来た!!】

【ヤバいヤバい!!!】

【え?】

【ん??】

【なにやってんの?】

【素手で止めてて草】

【おかしいでしょ】

【さすが藤堂さん、全く参考にならん】

【これが常識】

【デュラハーン焦ってる】

【それ以上の力で殴るとか意味不明】

【あ、殴った】

【飛んだ】

【デュラハーン乙】

【動かないけど】

【まだ息はあるぞ】

【こんな感じってどんな感じ?】

【マジ、ハンパねぇ……】




 デュラハーンは一体何が起こっているのか理解できなかった。

 近付いて来たひとりの男。強い衝撃。気が付けば自分の体が壁際まで吹き飛ばされ、自身の頭は地面に転がりそれを見つめている。


(ヒビが生えている、体が震えているだと……)


 たった一撃。

 たった一撃で強者と弱者の立場がはっきりとした。久須男が腰に手を当て歩きながら言う。



『おいおい、一撃で沈むなよ。まだ解説しなきゃならんからもう少し頑張ってくれ』


 そう言って転がったデュラハーンの頭の傍に腰を下ろす。久須男がそれを見ながら言う。



『そもそもなんでお前首と胴体が離れてんだ? キモいだろ。よし、ちょっと待ってろ』


 そう言って久須男は床に落ちたデュラハーンの頭を拾い歩き出す。



『な、何をする!! 殺すなら殺せ!! この様な屈辱は……、え!?』


 久須男はデュラハーンの頭を持ち上げると、壁にもたれるように倒れている胴体に歩み寄り首を乗せた。驚くデュラハーンと一同。



『え、え、えっ!? 繋がった……!?』


 胴体に乗せられた首は、不思議とそのままくっついてしまった。驚くデュラハーンが両手で頭を撫でながら言う。



『こんなこと、こんなことが起きるなんて、まさか、お前……、いやあなたは……』


 震えるデュラハーンが目の前にいる久須男を見つめる。そして久須男の頭の中で文字が浮かび上がった。




【デュラハーン(変異種)のテイムに成功しました】



『は? はああああああああ!!??』


 ひとり落ち着いていた久須男が初めて驚きの声を上げた。

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