34.イリアvs仲村由美子
「藤堂イリアでーす!! 久須男様のお嫁さんなの。みんなよろしくね!!」
新しくやって来たと言う転校生。
それは栗色のミディアムヘアーで、ロリなくせに見事なたわわを持つ美少女イリアであった。いつ買ったのか知らないが、きちんと高校のセーラー服を着ている。担任が言う。
「藤堂、お前の横の席空いてるだろ? そこに座るから面倒を頼む」
それにイリアが答える。
「はーい、先生。ありがとね!」
そう言いながらイリアがクラスの皆にウィンクしながら歩き出す。クラス、特に男子による小さな歓声が至る所から上がる。
「めっちゃ可愛いな!」
「ロリ巨乳じゃん」
「藤堂のヨメってなんだ?」
「マジエロい」
一方の
(どうしてこうなった。どうしてこうなった……)
久須男のクラスメートの仲村由美子の横を通り過ぎるイリア。なぜか勝ち誇った顔で小声で挨拶する。
「あらー、こんにちは。仲村さん。久須男がいつもお世話になってます。おほほほっ!!」
口に手を当てて笑いながら過ぎるイリア。冷静で背筋を伸ばしたまま座る由美子は一見何も動じないように見えたが、シャープを握った指が小刻みに震えている。
「久須男様、不束者でございますがよろしくお願いします」
久須男の隣に来たイリアがそう慎ましく頭を下げる。久須男が隣の席に座るイリアを横目で見ながら言う。
「……真田さんに頼んだのか?」
「はい、ご名答!!」
イリアがそれに笑顔で答える。
「だってイリアも『魔力付与』とかずっと大変な仕事をしていますし、それで真田さんに交換条件で学校への編入をお願いしたんです!」
「なるほどね……」
久須男がため息をついて答える。
「この服はお母様に一緒に買いに行って貰いましたの。似合ってますか?」
「うっ……」
元々美少女でロリロリのイリア。学校の制服を着ることでそれに清楚さが加わり、より可愛くなっている。久須男が首を振って尋ねる。
「いやいやそれより、どうしてお前が『藤堂イリア』なんだ? お嫁さんって何だよ!」
「えー、だって一緒に暮らしておりますし、それに間もなく私達はひとつに……、ふがふがふがっ!?」
教室であることないこと話し始めるイリアの口を久須男が塞ぐ。
「分かった、分かったからもう黙っててくれ!」
「ふぁい(はい)!」
こうしてイリアは無事に久須男とと同じ高校への編入を果たした。
「久須男、お前イリアちゃんと籍入れたんか?」
一限目の授業が終わるとすぐに、友人の中澤が久須男の所に来て尋ねた。久須男が答える。
「そんなじゃないよ。便宜上名前だけそうしたんだよ。イリア・マーゼルとかどこの国の人だってなるからな」
「まあ、そうだな。それにしてもイリアちゃん、良く似合ってるな。制服」
中澤が隣に座るイリアを見て言う。
「そうですか? イリアも嬉しいです! でもちょっとお胸の辺りが窮屈で……」
そう言ってイリアが自慢のたわわに手を当てる。その立派な品に久須男と中島が見惚れながら小声で言う。
「な、なあ、久須男。向こうの人ってみんなあんなに立派なのか?」
久須男は『まな板』のチェルを思い浮かべて首を振り答える。
「いや、そんなことはないぞ。そうじゃないのもいる」
「そ、そうか。じゃあ、やっぱりあれが特別で……」
「何をコソコソ話してるの?」
「ひっ!?」
そうふたりで話していたところに、背後から凛とした女の声が響く。
「な、仲村さん……」
そこには眼鏡をかけ黒い長髪をかき上げながらこちらを見つめる仲村由美子の姿があった。すぐにイリアが声を掛ける。
「こんにちは、仲村さん」
「こんにちは、イリアさん」
「……」
「………」
挨拶をしたまま笑みを浮かべ不気味に相手を見つめるイリアと由美子。中澤が小声で言う。
「おい、久須男。なんかこれ、ヤバくね?」
「な、なんだろうね。そんな気がする……」
戸惑う男ふたりを横に由美子がイリアに尋ねる。
「転校して来たんですね。驚いたわ」
「私は久須男様と共にある者。当然ですわ」
沈黙。そして由美子が尋ねる。
「藤堂イリアって、どういう意味?」
「簡単ですよ、身も心も書類も一緒ってことです」
それを聞いた由美子がむっとした顔で久須男に尋ねる。
「藤堂君、それは本当なの? この子と籍を入れたの!?」
久須男が慌てて答える。
「入れてない入れてないって!! 真田さんって覚えてるだろ? イリアが真田さんに頼んで無理やりこうしたんだよ!」
「……なるほどねえ」
内閣府ダンジョン攻略室、室長真田。上級国家公務員である彼にとって、イリアひとりを高校に編入されることなど他愛もないこと。由美子がイリアに手を差し出して言う。
「どちらにせよこれからは同じクラスメート。よろしくね」
イリアが差し出された手を握り答える。
「こちらこそ……」
握られた手。握った瞬間に、両者力を込めて相手の手を握り返す。
「……」
「…………」
不気味な沈黙。不敵な笑みを浮かべながら黙って両者が手を握る。中澤が尋ねる。
「久須男、お前なんかやっちまったんか……?」
「し、知らないよ……」
この日より毎日、久須男に中澤に由美子、そこにイリアが加わって昼食をとることになる。
その日の午後、学校の授業を終えた久須男とイリアは電車に揺られながらある場所へ向かっていた。イリアが学校にやって来たことで心身ともに疲れ果てた久須男に、そのイリアが尋ねる。
「久須男様」
「なに……?」
イリアがちょっと不機嫌そうな声で尋ねる。
「どうして久須男様の周りにあのような綺麗な女性ばかり集まって来るのですか?」
「は?」
久須男は疲れていて頭が良く回らない。イリアが言う言葉の意味がすぐに理解できなかった。
「仲村さんに、ミヨちゃんさん。こずえさんに、それから今日会う予定のチェルに綾さん。みんな美女ばかりですよね?」
こずえは関係ないだろうと思いつつ久須男が答える。
「た、多分真田さんの趣味じゃ……」
「真田さんは関係ないと思います!!」
きりっとした顔で久須男を見つめて言うイリア。
「久須男様には次から次へと新しい女性が現れて来て、イリアはとても不安なんです。イリアを、イリアだけを愛してください」
そう言って上目遣いで久須男を見つめるイリア。いつもと違い学校の制服姿で迫られるとまた別の高揚感を覚える。
「イリア……」
イリアは久須男の膝の上に手を置いて小さな声で言う。
「イリアを、ぎゅっとしてください……」
観念した久須男が隣に座るイリアに恐る恐る腕を回し体を寄せる。
「久須男様……」
頬を赤くしてイリアが言う。
「イリアは幸せです……」
そんな彼女の顔を見て久須男は、色々と現れる女性の中でも彼女が間違いなく一番なんだろうなと心のどこかで思った。
「綾、今日私達は教えられる身。ちゃんといい子にしてなきゃダメですよ」
久須男とイリアが約束した相手、それは同じF組のチェル・綾ペアである。久須男の配信に感銘を受けたチェルが深雪達同様に剣術指南を申し入れていたのだ。
綾がガムを噛みながらぶっきらぼうに言う。
「あいつ、マジうざいんだけど……」
見た目はうだつの上がらない高校生。多少腕は立つようだが正直そんな男にグダグダ言われたくない。チェルが少し怒った顔で言う。
「綾、そんなこと言わないの。こちらからお願いしたんだからね。あ、来た!」
交差点の歩道橋の上にいたチェルがやって来た久須男達を見つけて手を振る。
「久須男さーん!!」
チェルに気付いた久須男達が歩道橋を駆け上げる。
「チェルちゃん、こんにちは」
「あ、はい、久須男さん……」
「何それ……??」
綾とチェルは学生服とセーラー服に身を包み、あたかも恋人のように腕を組んでやって来た久須男とイリアを見てやや引く。イリアが言う。
「こんにちは、綾さん」
反マーゼル同盟の一員であるチェル。その敵と言う立場にあるイリアはチェルには目を合わせない。チェルが前に出て言う。
「イリア姫」
「なにかしら……?」
先程の久須男とふたりきりで居た時の甘い雰囲気から一変、マーゼル王国の姫としてチェルと向き合う。チェルが言う。
「わ、私達が相容れない者ってことは承知しています。でも、こっちではマーゼルの揉め事は禁止。だ、だから私は久須男さんにも協力を求めたし、できれば姫とも一緒にやれればと思っています。姫個人には何の恨みもないし……」
最後は小声になって話すチェル。マーゼルの暴政は国王の所業。イリアには直接の責任はない。綾がガムを噛みながら無関心に言う。
「どうでもいいし~」
久須男がイリアを見つめて言う。
「イリア」
そっぽを向いていたイリアがだが、久須男の声に頷きチェルに言う。
「分かったわ。こちらの世界じゃ無論争うのはダメだし、それに久須男様もそれを望んでいない。久須男様の世界の為、一旦忘れることにするわ」
そう言うイリアにチェルが嬉しそうに答える。
「ありがとうございます。イリア姫」
「別に。あなたの為じゃないわ」
珍しいイリアの態度に久須男が苦笑する。綾が言う。
「どうでもいいけどさあ、早く行こうよ」
ガムを噛みながらそう言う綾にチェルが答える。
「そうね、じゃあ行きましょう。こっちです、久須男さん」
そう言って歩道橋を降りて行くふたり。そして階段の途中で立ち止まり久須男に言う。
「この階段の部分が入り口です。ここからジャンプして入ります」
一見普通の歩道橋の階段。チェルが言う。
「普通に歩いていればまずは行っちゃうことはないですけど、ダンジョンを意識すれば多分入ることができます」
「ランクは?」
久須男の問いにチェルが答える。
「青の星三です」
「分かった」
普通に返事をする久須男を見て綾とチェルが思う。
(やっぱりこの程度じゃ驚きもしないんだ……)
青の星三と言えば、先日一般班の
「じゃあ行きますね!」
「ああ」
そして次々と入って行く一行。
四人とも入ったところで、その男達が陰から姿を現した。
「さあ、行くぞ。お前ら」
長男である権崎太郎がふたりの弟に言う。次郎が答える。
「本当に行くんですか、兄さん?」
同じく不安そうな顔の三郎が続けて言う。
「や、やっぱり止めようよ。兄ちゃん……」
「馬鹿言うな!! あの野郎、あのインチキ野郎の化けの皮を必ずはがしてやる!! さあ、来い!!!」
そう言ってふたりの手を無理やりつかんで歩き出す。
「わ、分かったよ、兄ちゃん!! 行くから行くから放して!!!」
こうして権崎三兄弟は先に入った久須男達の後を追ってダンジョンへと侵入した。
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