31.レッドドラゴン討伐!!
初のダンジョン配信を行っていた
攻略が最下級である紫ダンジョンだったので終始和やかな雰囲気で行われていた配信だったが、ボスを討伐直後突然現れたレッドドラゴンに状況は一変する。
「イリア、下がれ!!!」
「はい!!」
久須男は急遽呼び寄せたケロンと共にその道の魔物に対峙する。配信を見ていた視聴者からのコメントが急増する。
【なに、あれ……?】
【ここって紫だろ?】
【怖すぎ!!】
【あれ、なんか出した】
【イッヌ……!?】
【いやあれ犬じゃないぞ。確か……】
【ケルベロスじゃね?】
【そう魔物。小さいけどめっちゃ強そう……】
【藤堂さんの相棒】
【勝てるの、あんなのに?】
【ダンジョン、まじヤベェ……】
同じく食事をしながら久須男の配信を見ていた譲二が驚きながらレスターに尋ねる。
「お、おい、レスター。こんな魔物いるのか?」
レスターは先程からずっとモニターに釘付けになっている。
「何が起こったのか分かりません。全く初めて目にする光景。それにあの魔物、ドラゴン種ならばまさにお伽話の中の生き物……」
じっとモニターを見つめるレスターは瞬きすらせずにそれを見つめる。譲二が言う。
「CGじゃねえのかよ」
「いいえ、あの架空の生物を誰が描けるのですか? ケルベロスだって見たこともない人がこれほど完璧に造り出せるはずがありません」
レスターは久須男が従える上級魔物のケロンを見つめる。
「ちっ……」
譲二は不満そうに再びモニターに目をやった。
(手に汗が出る……)
久須男は初めてダンジョンに入った頃を思い出していた。スライムに驚き、そして恐怖したあの頃。重圧は全く違うが今それに近い感覚である。右手を前に久須男が魔法を放つ。
「炎魔法、ヴァーンクラッシュ!!!!」
レッドドラゴンの四方に現れる巨大な業火の塊。それが一斉に中心へ潰すように移動して行く。
ゴゴゴゴゴゴォ……
「ガギャオオオオ!!!!」
業火に飲まれて叫び声をあげるレッドドラゴン。しかしその魔物の歩みは止まることなく、逆に業火を全身に纏いながら近付いて来る。久須男が続けて魔法を唱える。
「氷魔法、アイスロック!!!」
バリン、バリバリバリバリ……
こちらに向かっていた炎を纏うレッドドラゴンを、今度は巨大な氷塊が包み込む。まるで氷漬けにされた恐竜のように動けなくなるレッドドラゴン。久須男が言う。
「ケロン、構えろ!」
ピキ、ピキピキ……、バリン!!!!!
「ガギャオオオオ!!!!」
レッドドラゴンはまるで何もなかったかのように氷を砕くと大声で叫んだ。久須男とケロンが同時に突入する。
【キタキタキタキタ、魔物キターーー!!】
【マジでヤバいって、あれ】
【藤堂さん目が真剣】
【え? なにあの魔法??】
【エン魔法? 誰か説明おねしゃす】
【炎のエンじゃね?】
【初めて見た。何だよあれ!!】
【はい、レッドドラゴン討伐完了】
【え、いや待て待て。まだ歩いてる!!!】
【マジか!! 燃えながら歩いてて草】
【あれ? 藤堂さんまた魔法を……】
【え?】
【は?】
【氷? って二属性使い!?】
【マジ、パネェ……】
【ドラゴン氷漬け】
【あ、砕いた】
【スゲェ戦い……、藤堂さんマジスゲェよ!!!】
もはや一般隊員の中では想像すらつかない久須男の戦闘。未知の映像に接続者数、コメント数も爆発的に増えていく。
(『神眼』っ!! ……急所は、目か!!!)
ケロンと一緒にレッドドラゴンに突撃した久須男がすぐに急所を探知。先に行くケロンが鋭い爪を振り上げレッドドラゴンに飛び掛かる。
「ガウガウガウッ!!!!」
ザン!!!!
ケロンの鋭い爪がレッドドラゴンの筋肉質で太い足をえぐる。大きな叫び声を上げるレッドドラゴンに、今度は久須男が突撃する。
(『神速』っ!!)
剣を持ったまま久須男の姿が消える。
ザンザンザンザン、バキン!!!!
(なっ!?)
分厚く硬いレッドドラゴンの皮膚。スライム用に持っていた剣が耐えられずに折れる。一旦後退した久須男がアイテムボックスから新緑色の剣を取り出し言う。
「ドラゴンスレイヤー。これで仕留める!!」
再び久須男の姿か消える。
【ケロべロス、めっちゃ強ぇ~】
【普通にドラゴンと戦ってるwww】
【お、藤堂さん行くか!!】
【え?】
【なに?】
【消えた】
【まさか戦ってる??】
【速過ぎて見えん】
【マジかよ……】
【藤堂さん、スゲェ……】
【あ、折れた】
【またなんか出したぞ!】
【ドラゴンスレイヤー??】
【なにそれ、おいしいの?】
【また消えた】
【もう草しか生えん】
久須男の攻撃に合わせてケロンが再びレッドドラゴンに攻撃を加える。
「ガウガウガウッ!!!!」
再度足を攻撃されよろめくレッドドラゴンの目に、新緑の剣を持った久須男の姿が映る。
「くたばれえええ!!!!!」
ズン!!!!
空中に舞う様に跳躍した久須男が、急所である赤い目にドラゴンスレイヤーを突き立てる。
「ガゴオウウオオオオオオ!!!!!!」
レッドドラゴンは悲痛な叫びと共にドンと大きな音を立てて倒れ、そして煙となって消えて行った。
「久須男様ぁ!!!!」
後方で久須男達の戦いを見守っていたイリアが戦いに勝利した久須男の元へ駆けつけ抱き着く。
「わ、わ、イリア!?」
「イリアは心配しておりました。良かったです、ご無事で……」
涙声のイリア。しかし久須男は周りを見て真剣な顔で言う。
「ここはちょっとまずい。物凄い魔物の圧を感じる」
黒かった壁が先程の振動を境に赤く染まりつつある。久須男はまさかを考えながらも、一刻も早くここを出る手段を探す。
「クウ~ン……」
そんな久須男にケロンがいつも通りボス討伐でドロップした石板を咥えて持ってくる。久須男がそれを受け取り言う。
「よくやった、ケロン!! これで帰られる!!!」
久須男は受け取った石板を勢い良くふたつに割って捨てる。真っ白な光が久須男達を包み込んだ。
【藤堂さん、行けえええ!!!】
【うわ、また消えた!!】
【え! 顔、顔っ】
【速っ】
【あれがドラゴンの急所?】
【あ、倒れたぞ!】
【GJ】
【ドラゴン消えた】
【藤堂さん、乙~】
【マジスゲェわ、F組最強】
【ほんとそれな】
【神】
【誰も勝てん】
【あっ】
【え?】
【うそ!?】
【石板割ってて草】
【乙~】
レスターは不貞腐れてひとり黙々と食事をする譲二を前に、配信の終わったタブレットを眺めつつ思った。
(想像以上の逸材。もはや我がマーゼル王国ですら彼に敵う者はいるかどうか。とんでもない人物が姫の味方に付いたものですね……)
レスターはマーゼル王国の力関係が崩れるほどの強さを持った久須男を警戒しつつも、仮に彼が全面協力してくれるのならば解明されていないダンジョンの謎にも大いに役立つと考える。
(いずれにせよ、彼が色々な意味で重要な人物になって行くことは間違いないようです……)
レスターはタブレットの電源を切ると、冷めてしまった昼食を再び口にした。
一方、ダンジョン攻略室で久須男の配信を見ていた深雪とマリアは、その動画の視聴を終え汗だくになっていた。深雪が言う。
「凄かったね、マリア……」
「ああ、凄かった」
スライム討伐まではお菓子を食べ色々会話しながら観ていたふたり。
だがダンジョンに異変が起き、レッドドラゴンが登場するとふたりの顔色が変わる。下級とは言え幾つかのダンジョンを経験して来た者だからこそ分かる。あの洞窟、そして魔物の強さが。深雪が言う。
「久須男さん、すっごく真剣だったね。あんな顔初めて見た」
「ああ、とてもカッコ良かった」
(え? 真顔でそれ言う??)
深雪は表情ひとつ変えずにそう話すマリアの顔を見る。赤髪のマーゼルの剣士。何事にも真面目で一直線な彼女は、久須男を敬う気持ちも真っすぐだ。深雪が尋ねる。
「マリアは久須男さんのことが好きなの?」
そう言われて初めて動揺するマリアが答える。
「ば、馬鹿を申すな。かの方はあの英雄クス王様の生まれ変わり。私などがその様な感情を抱いていい訳なかろう。た、ただ、無礼を承知で申し上げるのならば、その、お慕いはしている……」
赤い髪同様に真っ赤になるマリア。深雪がくすっと笑いながら言う。
「でもイリアちゃんは強敵だよ」
「ああ、分かっている」
マリアが真剣な顔で言う。
「今のマーゼルにはあの姫の味方になる者はいない。私は一刻も早く久須男様を頂点とした新たな体制作りを希望する。それが本望。その為にも早く帰還の道を探さねばならない」
「いや、そっちじゃないんだけど……」
深雪は熱くマーゼルについて語るマリアを見て再び笑った。
「イリア、お疲れ」
「はい、久須男様!」
思わぬアクシデントもあったが無事にダンジョンを攻略、配信も終えた久須男とイリアは自宅に帰って来た。久須男の部屋で甘えるケロンを撫でながら言う。
「イリア、ちょっと話があるんだけど……」
「婚儀の日取りですか?」
「いや違う。今日のダンジョンのことだけど、どう思った?」
イリアはちょっと考えてから答える。
「あんなのは初めてです。ただ、マーゼルにも昔からある仮説を考えれば、その説明がつきます」
「仮説?」
真剣になる久須男。イリアが言う。
「はい。ダンジョンについては謎が多く分からないことだらけですので、我が国でも色々な人が仮説を立てて発表しています。ただ上級ダンジョンの攻略がほとんどできないので証明できなかったのですが……」
「なるほど」
久須男が頷く。そして言う。
「俺もあることを思いついたのだが、良かったらその仮説ってのを教えてくれないか?」
久須男は今日のダンジョンでアクシデントに遭遇した際、不意にある可能性を思った。イリアが頷きながら机の引き出しにあった紙を手にして答える。
「お話しても構いませんが、先にここへ署名頂けませんか?」
「署名? マーゼルの重要機密とかなのか??」
久須男はペンを持ち、差し出された紙を見つめる。
「え? 婚姻届け……??」
その書類を見て固まる久須男。イリアが恥ずかしそうに言う。
「久須男様のお母様にお聞きしましたの。こちらの世界ではこの紙にふたりの名前を書けばひとつになれるって」
「はあ……」
久須男は目の前で顔を赤く染めるイリアにどう対応してやろうかとしばらく考えた。
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