30.ダンジョン動画配信(久須男Ver.初級編)
『え? もう始まってるの!?』
不安そうな顔でモニターに映る
『あー、あの、タブレットを見て貰えばわかると思いますぅが、がっ、うわっ、噛んだ!?』
『久須男様、大丈夫ですかー!?』
ダンジョン攻略室、攻略組F組の藤堂久須男の初めての配信、それもライブで行うと告知があってはや数日。この日を待ちわびた攻略班や事務方の人達がモニターを凝視する。
今や譲二や権崎三兄弟を始めとした多くの攻略者が配信を行う中、ダントツの成績を収めるF組のエースの配信に皆の関心が集まっていた。
【おっ、キターーーーー!!!!】
【F組最強の藤堂さん、登場!!】
【意外と子供?】
【カワイイ顔してんじゃん。ゴリラみたいな人だと思ってたわ】
【ゴリラは譲二な】
【女の子だれ? 顔はよ】
待ち望んだ久須男の配信に接続者数がどんどんと上昇していく。久須男がタブレットを持ち指差しながら早速説明を始める。
『えっと、ダンジョンは紫が一番弱いので慣れない人はそこから入りましょう。ダブレットに表示されています。星の多さで魔物のレベルも変わりますで最初は星一や星二がお勧めです』
久須男はそう言うと清掃道具入れの上を指差して言う。
『見えますかー? ここに星があるでしょ? 入る時はしっかりこれを確認して入りましょう。じゃあ入ります』
【え? ダンジョンの入り口の星って見えるの!?】
【誰か見えたやつおる?】
【やっぱスキルが必要なんじゃね?】
【自動でアップされるのだと思ってたわー】
【最初から話し合わなくて草】
久須男が薄暗く険悪な空気が漂うダンジョンを紹介する。
『えー、ここがダンジョンです。暗い場所ですが良く見れば先も見えます』
そしてすぐにアイテムボックスを開き、中から一振りの剣を取り出す。
『ダンジョンに入ったらすぐに魔物が襲ってくるかもしれないので、武器などの準備をしましょう』
【え? 見えるの!? この薄暗いダンジョンで先が見えるの!?】
【よく見ても見えん】
【アイテムボックスって何?】
【空中から普通に武器出てきてワロタ】
ダンジョンを歩き出した久須男が急に立ち止まり、そしてカメラに向かって言う。
『あ、魔物が出ました。ええっと、ブラックスライムですね。スライムの中でもちょっと強い奴です』
久須男は暗いダンジョンの奥を剣で差しながら説明する。ブラックスライムは移動速度こそ遅いが大人の人間を遥かに凌駕する怪力の持ち主である。
久須男がゆっくり歩きながらブラックスライムを素手で掴む。
『えー、スライム系は全てなんですけど、急に飛び跳ねて顔にくっつき窒息させるので早めに退治しましょう』
そして久須男に掴まれてもぞもぞ動くブラックスライムを軽く叩いて大人しくさせる。
『それから魔物退治に特に重要なのがこれ! すべての魔物には必ず急所がありますので、しっかりと見定めて急所を攻撃してください。急所は赤いバツ印が出るので分かります。はい!』
そう言うと久須男はブラックスライムの急所を人差し指で強く突き、消滅させる。
『ここ重要でしたよー、いいですか? じゃあ、次行きましょう』
そう言ってカメラに向かって頷くと久須男は暗いダンジョンの奥へと歩いて行く。
【魔物、来たの見えた?】
【叩かれて大人しくなったwww】
【ブラックスライムってクソ強いだろ!?】
【え!?】
【は?】
【スライム素手で掴んだぞ……】
【あの魔物ってめっちゃ力強いんだろ!?】
【指で討伐してて草】
【剣は? なんで出したのに使わないの??】
【急所って聞いたことあるけど赤いバツ印ってなに??】
それまで久須男の配信を黙って見ていた譲二が怒りの書き込みをする。
【こんなのすべて合成だ! 嘘ばかりだ!!】
否定的な意見が出たのを見て同じく権崎三兄弟の長男太郎も書き込む。
【CGじゃね? こんなのあり得んだろ!!】
とりあえず分かりやすく魔物を倒した久須男は、少し落ち着いてダンジョンの先へと進む。
「イリア、こんなんで大丈夫かな?」
それでも歩きながら不安を感じた久須男がカメラを持つイリアに尋ねる。
「最高です! 久須男様っ!!」
イリアは親指を立てて笑顔でそれに応える。
【イリアってだれ?】
【藤堂さんのペアの人】
【可愛いの?】
【ロリ美少女って噂】
【マジか!? やっぱ強者には美女がつくんだな……】
そんな視聴者からの書き込みがある中、久須男は早くもボスの部屋の前へと辿り着く。久須男は一旦立ち止まり、イリアに向かって言う。
「なあ、イリア。そのカメラだけど、背面にフックが付いてるだろ? それってもしかして服に付けておけるんじゃないか?」
「え、これってその為なんですか?」
イリアは小型カメラの背面に付けられたフックを触りながら答える。
「付けてみれば? 撮影しっぱなしで手が疲れただろ??」
「あ、はい! いつも久須男様はお優しくてイリアは幸せです!!」
そう言って小型カメラを胸元に付ける。
【お、画面がグルグル回って……】
【今、イリアちゃんの顔映った!?】
【カワイイいいいいいいいい!!!】
【ワイのヨメ】
【ロリドレスいいね】
【おいおい、ちっと待て!! これってまさか……】
【キターーーーー!!! イリアちゃんの胸元アップ!!!!】
【超サービスショット、あざますっ!!】
【マジか!? ロリロリなのに巨乳だと!?】
【今日はこれでいい】
イリアはカメラを取り付ける際にカメラをぐるぐる回し、自分の胸元がアップになって配信されたことに気付かない。しっかりカメラを付けたイリアが久須男に言う。
「久須男様、これで良いでしょうか?」
「ああ、とっても良いぞ。イリア」
「ありがとうございます!! ……愛してます」
「ん? 何か言った?」
「いいえ、何でもないです!!!」
コメント欄への書き込みがざわつき始める。
【イリアちゃん可愛すぎ】
【藤堂裏山】
【あ、ワイのヨメ浮気】
【告白とかしてて草】
【藤堂色々許さん】
次第にダンジョン中継より、イリアの久須男愛が画面から溢れ始める。
久須男は改めてボス部屋の前に立つと、コホンと咳をしてからカメラに向かって言う。
『えーっと、皆さん。少し早めですけど、ボスの部屋に辿り着きました。ボスはキングスライムですね』
久須男がボスの部屋の前でそう説明してからゆっくりと中に入る。中には真っ赤で大きなスライムが鎮座している。久須男は再び剣を握り締めキングスライムに近付く。
「キィシュググウウウ……」
侵入者の接近に警戒するキングスライム。久須男はその目の前まで行きカメラに向かって言う。
『ええっと、こういう大きいスライムの急所は大概身を守るために体の中心にあります。こいつもそうですね。そういう場合は……』
久須男が初めて剣を振るう。
シュンシュンシュン……
目に見えぬ速さで振られる剣。同時にキングスライムの体が外側から削られ少しずつ薄くなっていく。
「ギュガアアア!!!!」
敵意を表すキングスライム。
『少し黙ってろ!』
ドン!!!
「ギャッ!?」
久須男に蹴られたキングスライムが一瞬で静かになる。体を少し削り終えた久須男が再びカメラに向かって言う。
『はい。じゃあ急所に剣が届くようになったので、これから討伐しますね』
そう言って剣を振り上げ急所に突き刺す。
【キターーーーー!!! ボスボス!!!】
【え? 向こうの部屋にボスいるの? 見えんのだが】
【感じるんだ】
【キングスライム!!!???】
【ヤバいやつじゃん!!!】
【あれソロで倒すの!?】
【藤堂さん笑ってる】
【えっ!! 近っ!!!】
【お、剣使うみたいだぞ】
【キングスライム剣でおろしてるwww】
【蹴られて大人しくなるとか草】
キングスライムの急所を剣で刺し、久須男が笑顔でカメラに向かって言う。
『はい、これでボス攻略完了です。あとは大いなる試練って言うのを受けて……』
そこまで話した久須男が、初めてそのダンジョンの異変に気付く。
『イリア……、これはなんだ……??』
久須男がダンジョン内の壁を見回す。真っ黒だった壁がいつしか薄い赤色に変化している。薄暗かった通路もそのせいかぼんやり明るく見える。イリアが答える。
『わ、分かりません! でもこれは明らかにおかし……、きゃあ!!』
そう話すと同時に突如左右上下に揺れ出す洞窟。配信していた映像もそれに合わせて激しく揺れる。
【ボス討伐完了。さすがF組最強、まじパネェ……】
【あんな簡単に倒せるとかマジで草】
【大いなる試練って初めて見るわ!!】
【あれ? なんか洞窟光ってね?】
【藤堂さん動揺してるぞ】
【え、なに!? 揺れた??】
【アクシデント発生??】
【画面揺れすぎwww】
【え、なに起こった!?】
左右上下に揺れる洞窟。暗かった壁も赤みが増し辺り一帯が見渡せる程になって来ている。
「イリア!!」
「久須男様っ!!!」
これまでに経験のない状況に久須男がイリアの傍へ行き周りを警戒する。そしてそれが起こった。
ドン!! ゴゴゴゴゴォ、ドオオオン!!!
「な、なんだと!?」
激しく揺れた洞窟。その壁の一部が突如崩壊し、その中から真っ赤で巨大なドラゴンが現れた。
【レッドドラゴン(強化版)】
久須男の『神眼』がその正体を告げる。真っ赤な硬い皮膚。見上げるような巨躯。鋭い爪や大きな牙がその破壊力を物語る。見たこともない、もちろん剣を交えたこともない相手。久須男がイリアに言う。
「レッドドラゴン、ドラゴン種なのか……?」
「ド、ドラゴン種ですって!? それって古代文献でも架空の生き物としてしか記載されていない魔物です!!!」
久須男の後ろに隠れ震えるイリア。
「ゴガオオオオオオオ!!!!!」
レッドドラゴンは突然大きな声を上げると、久須男に急所を刺され今にも消えそうになっていたキングスライムに突然噛みついた。
「な、何やってるんだ!?」
突然噛みつかれたキングスライムはあえなく消滅。そしてじろりと久須男の方を睨みつける。コメントも突然のアクシデントに書き込み数が一気に上がる。
【壁崩れた!!】
【え?】
【は!?】
【なに、あれ……!?】
【ドラゴン?? ドラゴンなんてマジいるの!?】
【藤堂さんめっちゃ動揺してる】
【ヤバくね、これ】
【ここって紫だろ】
【誰か説明頼む】
【え? スライム食ったぞ】
【まさかの共食い?】
【良く分からんけどスゲェ!!!】
【あんなの勝てる?】
【藤堂さん顔めっちゃ真剣】
【ガンバレ、藤堂!!】
イリアの前に立つ久須男が小声で言う。
「イリア下がってろ。あいつちょっとヤバい」
「あ、はい。お気をつけて。久須男様」
「ああ」
久須男は前を向いたままそう答える。同時にアイテムボックスからケロンを取り出して言う。
「ケロン、あいつを叩くぞ。行けるか?」
「ワン!!」
ケロンが尻尾を振ってそれに答える。
未知の魔物レッドドラゴンと久須男達の戦いが始まる。
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