27.橙色のダンジョン
『こ、こうやって魔物の弱点をつけば簡単に倒せるぞ!! 参考になったかな?? じゃあ、またな!!!』
翌日、ダンジョン攻略室を訪れた
持っている端末で、同じF組の譲二が以前上げたダンジョン攻略動画を見てため息をついた。イリアが引きつった顔で真田に言う。
「何これ……、コント!? こんなんで役に立つんですか……?」
同じく困った顔をする真田がそれに答える。
「ああ、まあ、あの当時はこれでも十分反響があった。初めての攻略動画でダンジョン理解に大いに役に立った」
しかしその後の譲二から上げられた動画は散々たるものであった。
とにかくフュージョン能力と魔法をフルに使ったダンジョン攻略。一般の攻略班で魔法を使える者はいなかったし、何より逃げてばかりの譲二に少しずつ非難の声が上がり始めていた。久須男が尋ねる。
「目的は各攻略班の能力の底上げ、できるだけフュージョン能力を使わずにダンジョン攻略をするってことですね?」
そう尋ねる久須男に真田が答える。
「まあ、基本はね。ただ最近一般の攻略班の中にも、ダンジョンで得たスキルで魔法を使うことができる者も現れてね。驚きなのだが、彼らの参考のためにも魔法なども多少は使って貰いたい」
「それは凄い」
言ってみれば一般人が魔法を使えるようになった訳だ。ダンジョン対策に本腰を入れる国にとってこれは大きな進歩である。ダンジョンの脅威を少しでもなくす。その趣旨に賛同する久須男が真田に言う。
「分かりました。では時間のある時にダンジョン動画を撮ります」
「あ、それなんだが実はダンジョンでもこのタブレットの通信が繋がることが分かってね、できればライブで配信して貰いたい」
「え? ダンジョンでもネットが繋がるんですか?」
「うーん、ネットというよりはこのタブレットの特殊通信だけなんだけどね。一応この世界に現れた場所なんで繋がるのかな?」
試したことはなかったが意外な事実である。真田が言う。
「日時は今週日曜日の正午から。ダンジョンランクは最下級の紫。是非頼むよ、久須男君」
「あ、はい……」
真田はそう言って政府が特別に用意した小型カメラを手渡す。撮影は基本イリアとなるので、久須男がそのカメラを彼女に手渡す。しばらくカメラと格闘していたイリアが真田に言う。
「あの、真田さん。聞き忘れていましたけど、マーゼルの人の中で『魔力付与』できる人っていますか?」
「『魔力付与』? ああ、ええっとそれは確か……」
昔聞いた言葉を思い出そうとする真田を見てイリアが説明を始める。
「はい、『魔力付与』とは普通の人でもダンジョンである程度戦えるようにするために、一般の武器に魔力を付与させる事なんです。これがあればF組以外の攻略班でも今よりもっと成果が上がるはずです!」
「ああ、そうだった。確かそのような話を聞いた記憶がある。まさかイリアさんはそんなことができるのかい?」
興奮を抑えるように真田がイリアに尋ねる。
「え、ええ。時間は掛かりますが一応できます」
マーゼル王国の姫であるイリアは、幼い頃から英才教育を受け幾つかのスキルを習得している。判別スキル『慧眼』を始めとして、この『魔力付与』もそのひとつである。
「本当か!? それは素晴らしい!!! 時間はどのくらいかかるのかい?」
「ひとつの武器におおよそ三時間ほど。一日にふたつほどしかできませんが」
『魔力付与』は強力なスキル上、時間と体力消耗が激しい。真田が言う。
「それで十分だ。マシンガンに魔力付与を行って貰えば……」
イリアが小声でマシンガンが何かを久須男に尋ねる。それを聞いたイリアが真田に言う。
「真田さん、そのマシンガンってのは難しいと思います」
「どうして?」
「ええ、その武器だと発射する弾一発一発に魔力付与を行わなければならないからです」
「あ……」
真田がその意味に気付く。マシンガンの銃弾、数百発にすべて魔力付与を行うことなど不可能。意味がない。
「だからできれば剣とか槍とか、防具でもいいんです。繰り返し使えるものが理想です」
「……分かった。イリアさんにはぜひそちらでも協力してもらおう。非常に有り難い」
イリアは久須男が頷くのを確認してからそれに頷いて応える。そして笑顔で言う。
「その代わり、私にもお願いがあります」
「お願い? 可能な限り聞こう」
真田が頷いて言う。
「それはまた後で連絡しますね」
「後で? まあ、構わないが」
イリアは久須男と真田が不思議な顔をするのを見てクスッと笑った。
「イリア、良かったのか? 新しい負担になるようなことを」
ダンジョン攻略室からの帰り、久須男が歩きながら隣のイリアに尋ねる。
真っ白なロリータドレス、栗色のミディアムヘアーを風に靡かせながらイリアが答える。
「はい、大丈夫です! スキルを発動しておけば身に着けているだけで終わりますから。久須男様とダンジョンに潜っている時でもできるんですよ」
そう健気に話すイリアだが、自身の体の魔力を使って強化する訳だから全く負担がないはずがない。
「ありがとう、イリア」
「いえいえ、久須男様の世界の為ですし、ダンジョン攻略が私の帰還への道に繋がると思っていますので」
イリアが少し寂しそうな顔でそう答える。
「いつか、必ず帰してやるから」
「え?」
イリアが久須男を見つめる。
「それって私と一緒に向こうの世界に行ってくれるということですか?」
「あ、ああ、まあ、多分そんなところだ……」
照れながらそう答える久須男の腕に、イリアが抱き着いて喜びを現わす。
「嬉しいです!! 久須男様っ!!!」
「お、おい、イリア。みんな見てるぞ……」
元々目立つ格好のイリア。そんな彼女が大胆に腕に絡みつけば皆の注目を集めるのは当然。イリアが嬉しそうに言う。
「いいじゃないですか、見せてあげましょうね、ね!!」
「おい、イリア……」
グイグイと久須男の腕に押し付けられるイリアのたわわ。異常状態無効の久須男だが、この攻撃には体が固まる。イリアが尋ねる。
「ちなみに久須男様は、七色に光るダンジョンは見えますか?」
「七色? いや、それは見たことないけど。そんなダンジョンがあるの?」
イリアが久須男の腕に頭をもたれ掛けて言う。
「はい。七色のダンジョンこそが異世界への連絡ダンジョン。いずれそれが見えるようになったら、是非、一緒に行きましょうね」
「あ、ああ……」
久須男は押しが強いイリアに戸惑う。
「なあ、イリア」
「はい。結婚の申し込みでしょうか?」
「いや違う。七色は見えないけど、橙と赤はずっと前から見えている」
「はい……」
イリアは結婚の申し込みじゃないことに落胆しつつも、その色が示すダンジョンの意味を考え真剣な表情となる。
「それはマーゼル王国でもまだ未知の領域とされるダンジョンです。入った者はごく少数いますが、ひとりの生還者もいません。『帰り玉』ですら効力の及ばぬとされる危険なダンジョンです」
「うん、分かってる」
その話は以前イリアから聞いたことがある。マーゼル王国ですら手を出せない禁忌である橙と赤。しかし久須男の目にはしっかりと最初からそのダンジョンが映っており、いずれ攻略しなければならないと考えていた。
「イリアもお供します」
「うん、でもいつもの様に守れるかどうかは分からないぞ」
それを聞いたイリアが組んでいた腕をぎゅっと強く抱きしめて答える。
「はい、覚悟はできております。でも、きっと久須男様は守ってくれるんですよね」
「頑張るよ、うん」
「それが聞けただけで十分です。いつでもいいですよ!!」
イリアは嬉しそうに久須男に向かって言った。
「イリア、ケロン。準備は良いか?」
「はい! 昨夜しっかり久須男様の腕で眠りましたし、今日も学校サボって気力十分です!!」
「……イリア。学校はいいとして、その前の言葉は何か違うような気がするんだけど」
イリアが首を振って答える。
「いいえ。イリアはいつもで久須男様と共にあります。それが例え未知の橙ダンジョンだったとしても」
久須男達が目の前にある橙色の星がついたダンジョンの入り口を見つめる。都会の路地裏。人があまり来ないような場所にひっそり佇む橙色のダンジョン。橙の星一。以前から久須男が目にしていた場所である。
トゥルルルル……
そんな久須男のスマホが鳴る。掛け主は真田。
「はい」
「久須男君、これからかい?」
「ええ。頑張って行ってきます。動画は……」
「ああ、いい。初めての橙だ。攻略に全集中して欲しい」
「分かりました」
やはり動画撮影となると少しばかり調子が狂う。純粋にダンジョンと向き合うには不要なものだ。
「久須男君」
「はい」
「無事生還を祈る」
「了解です」
久須男はスマホを切るとゆっくりとそのオレンジ色に光る星のドアを開けた。
「こ、これは……」
初めての橙ダンジョン。
久須男達は入って直ぐにその異変に気付いた。
「壁がオレンジに光ってる……」
いつもは暗いダンジョン。しかしここの壁はうっすらとオレンジ色に発色している。明るい程ではないが、ダンジョンを歩くには十分の光量。ただ暗いダンジョンに慣れていた久須男には違和感しか覚えない。
【メタルアルミラージ】
そんな久須男の『神眼』が魔物の出現を告げる。
「メタルアルミラージ!? 何だそりゃ??」
イリアも全く聞いたことが無い新種。通路の奥の方から現れるメタル色のアルミラージ。大型でイノシシぐらいのサイズはある。
(催眠攻撃があるのか……?)
久須男がアイテムボックスからゆっくりと白銀の剣を取り出す。
「グルルルルル……」
ケロンも毛を逆立てて威嚇のポーズを取る。その時だった。
ドワアアアアン!!!!
「え!?」
突如発生する何かの超音波。同時に横にいたケロン、そして後ろにいたイリアが崩れるように倒れる。
(これは、睡眠……!?)
【睡眠攻撃:効果100%】
恐るべき攻撃。
対処をしていないと間違いなく眠らされる。睡眠を始め、異常状態無効のスキルがあった久須男だけがその攻撃を免れた。
「異常耐性があるケロンも一撃か……」
久須男は迫り来るメタル色のアルミラージに剣を向けた。
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