4.天然ロリお姫様
「初めまして、お母様。私は久須男さんと合体したイリアと申します!」
ダンジョンから無事に帰って来て安心する間もなく、異世界の姫イリアが
「おい! イリア!! 変な誤解されるようなこと言うなよ!!」
「えー、どうしてですか……?」
自分の言動のおかしさが理解できないイリア。
「ね、ねえ、久須男。彼女はお友達なの? それともお付き合いしてるとか?」
母親が顔を引きつらせて久須男に尋ねる。
「い、いや、友達と言うか、その何と言うか家庭が複雑な奴で、その悩みの相談を今日しようかと……」
苦し紛れに言葉を並べる久須男にイリアが言う。
「久須男様。私は久須男様とずっと共にある者でございます。友達などではございません。これより寝食を共にして……」
「あーあー!! 分かった、分かったから!! 母さん、こいつは家庭の事情で家に帰られなくなってしばらくうちに泊めなきゃならないんだ? いいかな?」
「え? で、でも、親御さんが……、それに女の子でしょ……?」
イリアが母親に向かって言う。
「私は久須男様とフュージョンした時から身も心も全て捧げるつもりでございます。お母様も何卒ご心配な……、もぐもごっ!?」
久須男はひとり悠然と話すイリアの口を後ろから塞ぐ。そして彼女の手を引きながら母親に言う。
「か、母さん、そう言うことで今日からしばらく泊めるから! 悪い!!」
唖然とする母親をよそに久須男とイリアは自宅二階にある彼の自室へと向かう。
久須男は自室のイスに座り、イリアは彼のベッドの上に腰を下ろす。部屋の中をきょろきょろ見たイリアが言う。
「き、緊張します……」
「まあ、寛いでくれればいいから」
「はい。い、意外とその、なんと言うか清貧なお部屋と言うか……」
「一般庶民の部屋だよ。お前みたいにお姫様とは違うからな」
「いえ、そんなつもりでは……」
マーゼル王国の姫であるイリアにとって久須男の部屋はやはり狭いものであった。ただこれからここで彼と暮らすと思うと嬉しさが顔に溢れる。
「で、色々と話を聞きたいんだけど……」
「わ、私との婚儀についてでしょうか……!!」
「違う。俺はまだ高校生。そう言うのは無理だから」
「久須男様はお幾つなのでしょうか?」
「俺? 17歳だけど……」
「まあ、私よりひとつ上で。それなら十分成人男性として認められます。婚儀に問題なし!!」
「はあ……」
あくまでマイペースなイリアを見て久須男が苦笑いする。ふうと息を吐いてから改めて尋ねる。
「それでイリアはどこからやって来たんだ?」
「どこ? マーゼル王国でございます」
「そのマーゼル王国はどこにあるの?」
「どこってこことは違う世界でしょうか……」
「そこへはどうやって行くの?」
イリアが少し考えてから答える。
「そうですね、異世界連絡用のダンジョンを通過するわけですが、今の私では見つけられません」
「どうして?」
「ダンジョンを見分ける力がないのです。ここに来る時はそれができるスキルを持った者と一緒でしたが途中、はぐれてしまいまして……」
「そもそもどうしてイリアはここに来たの?」
その質問を聞いた時、優しかったイリアの顔が一瞬険しくなる。
「私の国、マーゼル王国でクーデターが起きました」
「クーデター?」
「はい、クーデターで国王であった父は追われ、姫である私も側近数名と命からがら城を抜け出しました。しかし追手は執拗に私達を探し、追い詰められた私達は異世界へつながるダンジョンへと逃げ込みました」
「そこから出たら、この世界だったって訳か」
「はい、最初はこの世界の人達が私と目を合わせないのでてっきり私の姿が見えないのかと思い……」
(いや、それはイリアがヤバい女の子に見えて接触を避けようとしていただけじゃないのか??)
「そんな中、私を見つけてくれたのが久須男様なんです!! そして、その、フュージョンの相性も抜群で、しかも英雄クス王の生まれ変わりと知り、イリアは興奮が収まりません!!」
「いや、だから俺、その王様のとは何の関係もないって……」
久須男が苦笑いして言う。イリアが首を振って言う。
「いいえ、決してそんなことはありません! 久須男様が持っているスキル『神眼』それに『神速』。スキル名に神を冠する超レアスキルです。普通は持っていたとしても下位互換の『心眼』や『俊足』なんですよ。それがいきなりそんなスキルを手にしてしまうなんて」
イリアが尊敬の眼差しで久須男を見つめる。
「さらに『大いなる試練』すら一瞬で解読される聡明さ。もう、これ以上のお方は居ないと思っております!!」
(いや、あれは小学生でもできるだろう……、マジで言ってるのか?? まあ、それより……)
「それで、イリア。お前の目的は何なんだ?」
そう言われたイリアの表情が真剣になる。
「はい、無理を承知で申し上げます」
「うん」
「いずれ、いずれで構いません。私と共にマーゼル王国へ行き、王国奪還をお願いしたいと思っています」
話を聞くうちに、何となくそんなような気がしていた。
本当かどうかはまだ分からないものの、彼女は一国の姫。国を追われた身ならばどうしてそれを取り戻さないでいられようか。
「話が大き過ぎて分からないけど、俺にそんな力なんてない」
イリアが頷いて答える。
「はい、仰る通り、今現在の久須男様にはまだそこまでの力はございません。だからこの世界のダンジョンで力をつけ、いずれで結構でございます。私と共に帰還の道を見つけ出し、国を取り戻して欲しいのです!!」
「本気で言ってるのか……」
「はい、もちろんです!! だからこそ、わ、私の大切なフュージョンを久須男様にあげましたし、これからずっと生涯を共にする覚悟もあります」
「いやいや、生涯を共にって、俺、そんな大そうな人間じゃないし、そもそも俺なんかで……」
「どうしてそのように自分を卑下されるのですか!!」
「え?」
イリアが久須男の近くに来て手を握って言う。
「久須男様はとても立派なお方です。初めてのダンジョンなのに私をしっかり守ってくれましたし、こうやって寝室へと招き入れてくれました。私は、私は、もうそれだけで胸が一杯なんです!!」
(寝室? なんかすごい勘違いしてるような、この子……、って言うかちょっと天然入ってるし……)
「もうひとつ教えて欲しい」
「はい、子供の数ですか?」
「違うわい!! その、この世界にダンジョンが出現するようになったようなんだけど、何か影響はあるのか……?」
久須男の質問に少し笑っていたイリアの顔が再び真剣になる。
「はい、あると思います」
「どんな影響?」
「考えられるのは、一般の方がダンジョンに入って出られなくなることでしょう」
「出られなくなる、ダンジョンの養分になるってやつか?」
「はい。ダンジョンは意志のある存在。常に養分を求めてゆっくりですが成長しています」
神妙な顔つきになった久須男が尋ねる。
「ダンジョンの発生を抑えることはできるのか?」
「いいえ、自然現象ですので不可能かと。元々我々はダンジョンと共生してきましたから」
「なるほど。じゃあ一般の人がダンジョン入っちゃったらどうすればいい?」
「はい、フュージョンをしていない人はまともに魔物と戦うことはできませんので、代わりに特別な武器を用いて戦います」
「特別な武器?」
「ええ、『魔力付与』のスキルを持つ者が、魔物と戦えるように武器に魔力を付与します。それがあれば一般の方でもある程度は戦えるようになります」
「そうなんだ」
「久須男様」
「なに?」
イリアが部屋の窓を開け外を指差して言う。
「この世界にもたくさんのダンジョンが出現しています。『神眼』を使ってみてください」
「あ、ああ……」
久須男は立ち上がって窓からの景色を見ながら集中する。
「あ!」
すると外の街の景色の中に、いくつものドアらしきものが浮かび上がって来る。ドアの上には様々な色の星がついている。
「見えましたか?」
「ああ、見えた。これが全部ダンジョンなのか……?」
「はい、そうです。現れたダンジョンは通常ボスを倒すまで消えることはありません。一般の人が紛れ込む危険な場所でもあります」
久須男が無言で話を聞く。
「久須男様は、とにかくダンジョン攻略をしましょう。どんどん力をつけもっともっと強くなって欲しいのです。久須男様のその力、いずれ皆が求めるものになるはずです!」
「どんどん、ダンジョンを攻略……」
空の雲を掴むような実感のない話だが、実際にダンジョンを経験してきた今ならそれを笑って済ますこともできない。
「う〜ん、まあ分かった。取りあえずそんな大きな話、俺に何とかなるとは思えないが、実際にダンジョンがある以上やれることはやってみよう」
「あ、ありがとうございます!! 久須男様!!」
「イリア、お前を信じることにする」
イリアは顔を真っ赤にして喜ぶ。
「ありがとうございます!! 私も覚悟を決めてここに来ました!!」
「覚悟? あ、ああ、そうだな……」
久須男はそれを『国を救う覚悟』だと思った。イリアが言う。
「い、いきなり寝室に案内されて最初はちょっと戸惑いましたが、これは私の気持ちを確かめる方法なんですね? 分かっています、今夜、イリアは久須男様と床を共に致します!!」
「え? ええええええっ!!!!」
久須男はやはりこのロリお姫様とはどこか噛み合わない部分があるのだと内心思った。
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