モテる
領主邸庭園の一角にある自分の畑を念入りに世話したところで午前中早々やることがなくなった僕は市井に繰り出していた。
明日には国中から重鎮という重鎮がこのディアノベルクの街にやってくる。前乗りで今日中には到着するところもあるだろう。
どことなく緊張感もありながら、街はいつも以上の活気に溢れている。
「アルダー様、いよいよ明日ですね!」
「今日もお美しいです! 明日はもっとお美しいのかと思うと……」
「アルダー様のためにもご来賓の方々はしっかりもてなしますよ~!」
よく顔を出す園芸用品店の看板娘も、書店の女店主も、小料理屋の女将も、すれ違う誰もが掛け値なしに慕ってくれている。
慕われる貴族であるべく振舞っているし、領政も頑張ってきた。その分慕われるのはまぁ分かる。
注:以下、急激かつ深刻に偏差値が低下します。
「アルダー様~! お散歩ついでにうちの娘を一発孕ませてっておくれよ~!」
「ちょっとお母さんっ! あっ ……私はその……アルダー様の子種欲しいです……///」
「ずるいぞハンナ! アルダー様、私にもアルダー様の子を産ませてください!」
女三人寄れば
一人言い出すとまた一人、また一人と止まらない。
あぁ今日も変わらず飢えているなぁ、なんてどこか他人事のように思いながら僕は情けなくも苦笑で返した。
「お前たち、不敬もほどほどにしろ! 王家までもが欲するアルダー様の高貴なる子種が我々下々にまで行き届くようなことはない!」
と、たかだか市井の散歩くらいで付けられた護衛の女騎士が盛り上がる市民を一喝する。
「我々だって欲しいのだ! もう、欲しくて欲しくてたまらないのだ! こうしてお傍を歩いているだけで股が濡れて濡れて仕方がないのを必死で堪えて職務に当たっている!」
「そうだ! そして無事職務を終えて帰ってからはアルダー様の凛々しいお姿とほのかに漂う雄々しい香りを思い出してオナニー三昧だ!」
何を口走っているんだこの欲求不満女騎士どもは。
百歩譲ってひっそりオカズにするならともかく、オカズにしている張本人を前にして何を誇らしげに口走っているのか。
「見よ、我らが主君を。 凛々しさの中に純朴な優しさを秘めたその瞳を! 泣いて
「だが近くにいるのに触れてはいけない、手が届かない、そんなもどかしさも却って
いつの間にか集まっていた民衆が「おぉおお!!!」と湧く。
いや何湧いてんのよ。
「おぉおお!!!」じゃないのよ。
「あぁ、アルダー様、何故私たちに抱かせてくれないのですか……!」
終いには揃いも揃ってその場で泣き崩れた。 騎士の二人はせめて仕事しろ。
しかし、何故抱かせてくれない、か。
いや本当に、こんなにモテるのに何故僕は未だに童貞なのか。 一番聞きたいのは僕だよね本当に。
明日には成人するというのに先が思いやられて仕方がない。
その後、行く先々で同じような騒動が起こり、げっそりくたびれて帰った僕は久々に日課の
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次回更新は翌0時予定です。
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