4 女王陛下がおかしい②

 ママ友が母親を前にして後生大事に育ててきた息子とワンチャン狙っていると明言する大胆不敵。

 実に傑物それである。


 悪くはない。

 美人でダイナマイトボディだし、ほどよく熟れつつあるし。


 だが……



 「私如きでは陛下のお供は務まりません」


 「謙遜けんそんするでない。 お主の活躍は遠く王都へも轟轟ごうごうとどろいておるとも」


 「まだまだ不肖の身にございます。 成人を機に今後より力を入れて領地運営に携わっていく所存ですので、私はこの領を出るわけにはいきません」



 「よう言うた!」とでも思ったのか、母上の殺気がいくらか和らいだ。


 今言ったことは紛れもない事実だ。

 軟禁したがる母上を説き伏せて熱心に領地運営に携わるようになるとこれが存外楽しく、今や僕は立ち上げ或いは携わっている業務において不可欠の要員となっている。

 とてもじゃないが毎晩愛人をとっかえひっかえする大性豪と名高いクリスタの夜のお供の一人として召し上げられている暇などない。


 ……というのがまぁ順当な建前である。

 本音を言うと、自分は将来恐らく大勢を囲う立場になるのに、自分が大勢の一人になるのは何となく嫌だというささやかなワガママである。


 四十五年間も望まず童貞を守ってきたからにはこちらも意地がある。

 十五年前――転生する直前にはヤケクソで風俗で捨てかけたが、今やこじらせきってしまい相手を妥協できない気難しい童貞になってしまったのだ。



 「はは、梨のつぶてとは寂しいものだ。 とは言え、先の神託でも告げられている通り、お主の高尚なる血はいずれ王家に取り込まなければならないことになっている。 成人した今、娘たちもいよいよ放っておかぬぞ」



 クリスタの言葉に母上が舌打ちする。本来ならば即刻打ち首ものだが……さておき。

 

 僕がエインズワート王家との間で子を成すようにという全くもって頭のおかしい神託が下されたのは事実だ。

 内容は突拍子もないが、そんな突拍子もないことを言い出しそうな神にもので神託自体の真偽を疑ってはいない。

 まぁ頭は疑っている。 多分いくらかネジが飛んでいる。

 

 クリスタは国王に就任して二年目以降毎年一人、国内外から優秀な血を持つ男を召し上げては子作りに励み、今年に至るまでほぼ腹に空きなし状態で子を成してきた。

 毎年交通事故並の苦難を国王の激務と並行し、かつしっかりと成果を残しながらである。どんなタフネスしているんだか。


 そんな彼女もそろそろ子作りは仕舞いと考えているだとか、最後の一人に丁度成人するアルダーを狙っているだとかいう噂は僕の耳にまで届いている。

 過去何度か謁見し面識もある間柄の心証から察するに、噂は恐らく事実であって、このお方の色目はガチである。

 本当に母上とその息子である僕を尊重して過去してきたような強行手段に出ていないというだけで、ワンチャン狙われているのは間違いないだろう。


 重ねていうが、彼女は女性としては悪くないどころか上玉も上玉である。

 が、僕には――今の僕には荷が重い。先の断り文句も本心なのだ。


 正直言うと、三十五の熟れ盛りなどドエロいも過ぎるし、経産婦までなら余裕で守備範囲内だ。

 だとして、百歩譲って前世の価値観を度外視するとしても、陛下は普通になのである。


 無論、当然王族として世継ぎを遺す責務だとか、優秀な血を取り込もうというのも彼女の本心であろうことは間違いない。 彼女の人間性がそれを裏打ちしている。

 だがそれを現実に可能にする尋常ならざるタフネスと、それにより怪物的なまでに補強された凄まじい性欲は、前世の印象を遥かにくつがえす旺盛な性欲を持つ今世の女性たちすら恐れるほど。


 対しこちとら歴四十五年、生粋の童貞である。

 女を知らぬ井の中の蛙が百戦錬磨の獅子に対峙するには無謀も過ぎる。


 ワンチャンね……いやこの超絶美人の経産婦が熟れ盛りでダイナマイトボディなんて本来アリすぎるアリなんですけどね……せめてもう少し経験を積んで相応に自信もついた頃に対戦お願いしたい所存でございます。


 その折にはどうかお手柔らかに。 はい。

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