5 王女殿下もおかしい

 「陛下、アルダーの独り占めはその辺にしてくださいませ」


 と、割って入るはクリスタ陛下の長女……つまり現状では王位継承に最も近い第一王女 カタリナ殿下。

 彼女は陛下の若い頃はこんな感じだったのだろうかと思いを馳せてしまうほどに色濃く面影を受け継いでいる。

 齢は十七、彼女は武もたしなんでいると聞くが、特に政治において陛下のセンスを紛うことなく受け継いでおり、既に現場でその手腕を発揮している、専ら政治畑の人間だ。

 つまり陛下からほどよく筋肉を削ぎ落として若返らせたようなハイスペ正統派美人である。


 童貞極めたる僕は、男女比がおかしく謎に美人の割合が高いこの世界でもやはり女性と対峙すれば緊張してしまう。

 だが彼女はもはや美人として完成しすぎているが故に一周回って緊張しない数少ない女性だ。

 生成AIで出力した「The 美人像」とか、何かそういうアバターと喋っているような気持ちになる。



 「姉上の言う通りよ母上。 こうして一同に会す機会も今やそう多くない。 若い者同士語らう時間も必要だ」



 機に乗じて横槍を入れたこちらは第二王女 ロゼリア殿下。

 名に薔薇を冠する彼女は陛下やカタリナと違い燃えるような深紅の髪と野生的な雰囲気を持つワイルド美人だ。

 カタリナより長身で、陛下似の筋肉質。こちらは見てくれの通りゴリゴリの武闘派で、齢十六にして騎士団の将軍職に就いている。

 言葉遣いは強めだが当然王女としての教養もあり、要職を担うだけあって頭もキレる。


 彼女は人柄としてはおおらかで非常に人が好いが、その勇猛な佇まいも相まって、たっぷり三十年分の弱者男性歴を持つ自分にとっては思わず身体が強張る存在である。

 


 「アルダー様、この度は御成人お目出度うございます」



 陛下に付き添ってやってきた三人娘の最後、今日で同い年になる第三王女 アリシア殿下。

 カタリナのようなカリスマチックな雰囲気とも、ロゼリアのように武勇に裏打ちされた迫力とも似つかず小柄でおっとりとした雰囲気の彼女は、王国が誇る大商会の一族から召し上げられた男を父に持ち、商業に精通している中々のやり手である。


 実に人畜無害そうな顔をしているが、三人の中では断トツに腹黒である。

 幼少期にはたまに会うたびにいじられていたものだが――本人はそれに触れると悶え苦しみ茹蛸のようになるので若気の至りということで水に流して久しい。

 今や事業の相談にと定期的な文通や会合を重ね当たり障りない仲となったが、こう改まってしとやかな接し方をされるとなまじ腹黒な一面を知っているので反応に困る。

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