2 男女比がおかしい②

 「はぁ~~有難い。有難いお尻様……じゃなくてアルダー様」



 アンナはパンツ越しの尻に頬擦りしながら、全く有難がっている風には見えない挙動でそんなことを言う。 図太いな本当に。



 「ともあれ、今日は全ての領民がアルダー様を心から祝うお目出度い日ですから、お召し物はきちっと身に着けていただかなければなりません」


 「大袈裟だなぁ……億劫だ……」


 「はぁ~~~いいお尻だった……さ、あとは委細このアンナめにお任せください」



 たっぷり頬擦りし揉みしだいてホクホク顔になったアンナは、最初からそうやってくれと文句を言いたくなるほどに手際よく、よく分からない装飾の施されたよく分からない構造の何だか格式高そうな衣装でささっと僕を着飾らせた。

 今日一日、ほんの半日ちょっと着るだけの衣装にどれだけの大金をつぎ込んだのやら……そんな金があるなら公共事業にもっと回せと文句を言ってみたが、後世まで延々受け継がれる誉高き装束として相応であると母上には堂々跳ねのけられた。


 アンナにこっそり調べてもらったがこの一式、装飾だけでなく不朽他様々な効能を織り込むための魔法的加工も含め、領全体の年間税収に相当する額がつぎ込まれているらしい。


 着る年間税収である。重いわ。実際物理的にも重いし。


 しかもこれの制作を含む大仰な祝い事にあたり領主導で設立された曰く「アルダー成人記念基金」には、エインズワート王家と懇意の貴族や商人たち、さらには稼ぐ年代のほぼ全てのディアノベルク領民がカンパとして莫大な金員を納めたらしい。

 王族も貴族も領民も、どいつもこいつもひょっとすると頭が悪いなこれは。



 ともかく、今この身は我が領の年間税収相当額をまとっている。

 いささか疑問ではあるが、領主の長男として同志たる王国民、愛すべき領民の重すぎる愛を纏いて下手な振る舞いはできない。



 「お、貴族の顔になりましたね~~」



 アンナがからかうように言う。

 その顔はついさっきまでその貴族の尻に頬擦りしていたとは思えないほどに誇らしげで、



 「はぁ……一仕事やりますか」


 「それでこそアルダー様ですお慕い申しております抱いてください」


 「何て?」


 「やば口が滑った」



 早口すぎてよく聞こえなかったが本人が口が滑ったというので受け流すことにしよう。

 まぁアンナの口がたまにバグったように滑り散らかすのもいつものことだ。




 儀礼が執り行われる教会に向かうべく愛馬エボニーに跨り、いささか過剰な騎士SPに囲われながら領主邸の正門を出る。


 教会に向かう道の脇には人、人、人……見知った顔ばかり。

 愛する領民たちが静かに、祈りを捧げるかのように手を組んで出立を見守ってくれている。中には涙する者もちらほらいる。


 そこまでおめでたい話なのだろうか。

 貴族の長男として、祝われる身として威厳ある表情を作り領民たちを見遣みやる内心、やはり疑問ではある。


 が、気になる自分の評価とは裏腹に、この世界の構造的にまぁそうなるのかと腑に落ちてはいるのだ。



 見渡す限りの人、そのほぼ全てが女性。



 ディアノベルク領民約30万、その内約29万8000人が女性である。







 この世界は男女比がおかしい。

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