15 ディアノベルク家の姉妹事情

 「アル、改めておめでとう。 その衣装よく似合ってるな」



 晩餐会を目前に控え、ディアノベルク家の面々が一堂に会する。



 「重いです」


 「おいおい、せっかく鍛えているのに衣装で音を上げていたら締まらないだろ」



 長姉のアッシュ姉さまが「がはは」と豪快に笑いながら肩をばんばん叩いてくる。 やめてこれ年間税収相当額だから。 まぁ叩いても斬っても煮ても焼いてもびくともしない魔法的加工も含めてそのお値段なんだけど。



 「こんなコテコテ衣装を着こなすために鍛えているわけじゃ……」



 いやまぁ、そうは言っても年間税収相当額を贈られている今日の主役である。

 本意じゃないのはどうしてもひっくり返らないが、純粋に祝おうと贈ってくれた皆のためにもしっかり着こなすのは領主家の男の責務か。



 「でもシックな作りでアルによく似合ってるわ」



 そうにんまりと微笑むのは次姉のマホガニー姉さまだ。 ロゼリア殿下と馬が合う快活なアッシュ姉さまとは対照的に、マホガニー姉さまは温和を人の形に成形したような包容力満点のおっとりお姉様だ。 ディアノベルク家では珍しく柔めのシルエットに加え、独特のほわほわした雰囲気に中てられるとどうしても甘えたくなってしまう魔性の姉である。



 「ば……んんっ。ありがとう。そう言ってもらえると(馬鹿みたいに大金つぎ込んだこの衣装も)報われるよ」



 思わず「ばぶぅ」が口をいて出そうになる。

 この姉が血のつながった実姉でなければ恥も外聞もなく甘え倒してそのまま押し倒しに行くところなのに……



 「しかし本当に素敵だ。キスしていいか?」


 「ダメです」


 「え〰〰、私もしたかったのに」


 「マホ姉さまは是非」


 「おいおいおいおいそれは良くないぞ」



 こっちの姉さま方は元より家族であるため結婚だなんだと面倒くさいしがらみはないが、かと言って苦難がないわけではない。 スキンシップのノリが愛犬とのそれなのだ。


 基本的にこんな退廃的な世界でも近親間の過ぎた関係はご法度とされている。

 聞けばそんな許されぬ恋を扱うジャンルの読み物が一部界隈では流行っているらしいが、常識は常識であり、特に貴族家においてその実行と露呈は没落必至の大罪とまで云われている。

 姉さま方もそれは当然弁えている。 弟――というか本当に愛犬くらいのノリでなかなか激しめのスキンシップこそあるものの、キスと言っても「ほっぺにちゅー」程度で、本当にただのスキンシップの域を出ないハッピーな絡みで終始する。

 故に無邪気で際限がなく、片や僕は前述の母の件と同様に美人姉妹に意識しまくりで否が応でも股間が反応してしまうのを隠すのに必死である。


 お風呂なぞ修羅場の極みだ。

 やはり認識が小さく幼い弟のままとか愛犬くらいのノリで考えているだろう姉さま方はやたらと僕と一緒にお風呂に入りたがる。

 正直眼福だが見れば勃起、直視せずともシチュエーションで勃起不可避なのでなるだけ避けるようにしているが、何だかんだで後から乗り込んでくることが多々ある。 姉さま方がお風呂を上がった後で入っても二度風呂してくるくらいには熱心だ。


 で、僕の身体を洗いたがる。

 一人で入れるからいいといくら言っても、貴族の子息はそれが常識であると言われて渋々だが普段はメイドが(もちろん着衣で)洗ってくれる。 姉さま方はそこに素っ裸で乱入してきてはメイドを湯船に沈めてでも洗いたがる。悶着の内にさっさと自分で洗い終えて不発に終わるのがせめてもの救いである。


 いや、救いも何もないな。おかげで落ち着いて風呂にも入れないから。



 なお、近親間のご法度は実際は身内に男がいてイチャイチャし放題な境遇を妬む者たちによるプロパガンダであり、大抵の女性――特に身内に男兄弟を持つ者たちは聞き流して割と好き放題ヤっていたりする。

 アルダーは前世の価値観も相まって話を真に受けて控えており、結果的に惜しい思いをしているのだった。


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