7 でも選べない

 「お姉様方、アルダー様が萎縮していますわよ。 お二人ともアルダー様のお気持ちも無視してがっついてはしたない……ねぇ?アルダー様」



 と、助け船を出すようなポーズをとりつつさりげなく腕を取ってくるアリシアに鋭い視線が集まる。



 「アリシア、婚前の男女が公然とそのように身を寄せ合うものではないわ」


 「あらカタリナお姉様、アルダー様と私はですの。公然と言っても両家の、私たちの間柄ですし……ねぇ、アルダー様?」



 完全無欠なお淑やか仮面も、淑女ぶった口調も、それでもやはり節々にトゲが見え隠れする言葉使いも何もかもツッコミどころだらけだが……




 ぎゅむ




 それより何より、腕を挟み込むような勢いでこれ見よがしに押し付けられる豊満なたわわの感触が思考の八割方を持っていってしまう。





 (いやノーブラじゃん)





 ノーブラじゃん。




 いや、まぁこの世界では当たり前のことではある。

 前世的な精巧な作りのブラジャーなる下着は存在せず、申し訳程度に乳房をかたどった肌着かサラシを必要に応じて着けるくらいで、ノーブラは別に普通らしい。ただでさえ露出の多いドレスだから尚更である。


 

 「いや……その……はは……」



 童貞歴四十五年にとってはそんな前時代的な衣類文化も、人類平和の全てが詰まっているであろうおっぱいの柔らかさも「普通」で片付けられることではなかった。


 情けないほどに赤面してしまっているのが分かる。

 あぁ、今日年間税収着ておいて良かった、とふと思う。装飾がでかくて勃起してもバレなさそうだ。

 いや、もう本当に情けないしはしたない話だが勃起くらいは大目にみてほしい。ノーブラおっぱいよ? えぇ? するでしょうよ勃起。




 ところが何とも不思議なことにこの世界の男どもは勃起しないらしい。ノーブラおっぱい押し付けられて。 するだろうが? しろよバカがよ。


 女性比率が圧倒的に高いこの世界では性欲のまととなるのは専ら男性であり、セクハラと言えば女から男なのだという。

 今この状況は完全にセクハラの一種であり、世の男どもはこのような状況でどうするか。 信じられないことだが、一般的には嫌悪感を示し、大半は腕を振り払って逃げ出すらしい。



 おいおい……余るほど女性で溢れたこの世界で……男ども、情けないな――――なんて思っていた時期もあった。

 が、実際に生々しい性欲に猛烈に晒され続けると嫌悪感までとはいかないものの、さすがの僕もたっぷり怖い思いをしたし、呆れもした。

 シチュエーションを反転すれば腑に落ちる。仮におっぱいを性的特徴として、対比はチ〇コとしよう。現代日本で男が女にチ〇コを擦り付ければ立派な犯罪であるし、仮に法が罪としなくとも喜ぶ女性は皆無だろう。

 まぁだから万歩ほど譲って、この世界の一般的な男のリアクションには理解は示そう。



 それとノーブラおっぱいの無垢で暴力的な柔らかさとは別の話である。


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