第3-9話
エリナは一晩中の戦いで力尽き、彼女の修道服は汗と泥で汚れ、傷だらけになっていた。彼女の金髪は泥にまみれていてぐちゃぐちゃ。
疲れた青い瞳が一層深い影を作り出していた。ノアは師匠のように慎重にエリナを見守り、一切手を貸すことなく、ただ黙って彼女の様子をうかがっていた。エリナは立ち上がることができるかどうかも怪しいほどの疲労感に襲われ、湿地に静かな息づかいだけが響いていました。
倒れたデスクローラーたちを一匹ずつノアの洞穴へと運び込む。
エリナは洞穴の奥深くで慎重にデスクローラーたちを丁寧に解体していき、素材を分けていく。
デスクローラーの毒牙は瓶に、鱗や皮は乾燥させる為に乾燥棚へ。
ノアの指導を受けながら、エリナは黙々と手を動かしていった。
彼女の手は確かで、デスクローラーの鱗や毒牙を処理する際も慎重な手つきである。
疲労困憊であるが、集中力を切らさない。
肉も使える部位を切り分け、燻製肉用に下処理を進めて行く。
泥だらけの服を洗濯し、風呂の準備を整える。
桶に水を入れ、窯で石を熱する。
熱した石を風呂桶に入れると、ぶくぶくと泡立ちながら水が温まって行く。
エリナは服を脱ぎ、ゆっくりと風呂桶に体を浸した。
「はあ……」
エリナは湿地の戦いの疲れを癒すため、ゆったりとした湯船に身を沈めた。湯船の中で、その引き締まった体に残る傷や筋肉の緊張がゆるみ、水面に浮かぶ薬草の香りが彼女を包み込んでいく。
金髪のショートヘアは湿ったままで、水滴がしずくとなって頬を伝う。金髪の毛先が首筋にそっと触れ、湯船の中で軽やかに揺れる。肌は湯船の温かさでほどよく赤みを帯び、その健康的な輝きが湯船の中で一層際立っていた。
エリナの身体はしっかりと鍛えられ、引き締まったラインが美しい曲線を描いている。大きすぎず、小さすぎない乳房の膨らみが湯船に浮かぶ。
湯の中で筋肉の緊張がほぐれ、疲れが癒されていく。
彼女の体中には修行や冒険による傷痕が点在しているが、それらは彼女の成長を物語るものだ。
「ここに来て七日が経つけど、あっという間だね」
「自分でもそう思えます……。あれ、今日は少し爽やかな香りがしますね」
「今日の薬草湯に柑橘系の皮を入れてみたんだ。結構いい香りがするよね」
「そうですねえ……。ノアさん、私……強くなったでしょうか?」
「まだまだ全然弱い」
「ガク……で、ですよねー」
「でも、七日前のエリナと比べたら今のエリナの方が断然強い。できる事が増えてる」
「そうですか……それは……よか……た……です」
「おい寝るな」
「にゃっ!!」
ぺチン!
風呂桶で気持ちよさそうに寝落ちしそうになっていた所をデコピンして起こす。
「さっさとお風呂から出て、傷の治療をして、ご飯の用意をしないとだめだぞー」
「そうでしたね」
エリナは湯から出ると、体にできた傷の治療や虫刺されを治療していく。
軟膏を塗り、苦くてまずい薬を飲み、包帯を巻く。
それが終わると休む間もなく飯の支度を進める。
ノアは静かに彼女の手つきを見守りながら、一言も口を挟まずにいた。
エリナは慣れた手つきで焚火を起こし、鍋に水を入れる。
水を沸騰させている間にエリナは下処理したデスクローラーの肉を贅沢にぶつ切りにし、グロームスワンプで採取した野草やキノコを刻んでいく。
根菜、香草、スパイス、ぶつ切りにしたデスクローラーの肉を鍋に入れて煮込んでいく。
鍋に蓋をしようとした時に、ノアに手を掴まれて止められる。
「これ、入れてみる?」
「これはなんでしょうか?」
「お酒。料理にお酒を入れると美味しくなるって聞いた事があってさ、今まで試した事が無いんだけど入れてみる?」
「おお! それは嬉しいです! お酒を入れると臭みが抜けて料理に深みやコクが生まれるんですよ!」
「へぇ~。じゃあたっぷり使っちゃえ」
「いえまだです! もう少し煮て、あくを丁寧に取ってから加えます。料理は先ず食材に火を通してから味付けをした方が美味しいんです」
「そうなんだ。なにか欲しい物があればそこの棚を見てみて」
「わかりました」
エリナは舌なめずりしながら料理を進めて行く。
丁寧に灰汁を掬い取る。
食材が煮えてきて、水が半分程までに減ってきたタイミングでお酒を一まわし入れ、塩、コショウで味を整える。
「最後にコレを入れてっと……」
乾燥させた海藻の粉末!
これが味に深みと旨味を追加するのです。
私の生まれ故郷では燻した魚の削り節や乾燥させた海藻を粉末にしたものを使っていました!
だからきっと魔物の肉とも相性抜群なはずです!
セントリアの街でこれを手に入れるのには苦労しました……。
七日間がんばった自分へのご褒美として……ここは贅沢に! コショウも使ってるし!!
涙を堪えながら味付けを確認すると、その抜群の美味さに脳天を撃ち抜かれたような感覚を覚える。
「ノアさん出来ましたよー!」
「お、待ってた待ってた! すんごい美味しい匂いがするからお腹空いてたんだよ」
エリナはノアと自分の器に煮込みを盛り付けていき、最後に香草を添えて彩を良くして完成。
「お待たせしましたデスクローラーの塩煮です」
「うわあ美味そう……お肉ホロホロじゃん」
器に入れただけで煮込んだ肉が崩れる。脂身がぷるぷると揺らめいて食欲を誘う。
「ではいただきます」
「いただきます」
二人とも食事に手を合わせた後で熱々の肉を頬張る。
柔らかく煮込まれたデスクローラーの肉が口の中で溶けるようにして崩れる。
程よい塩気と肉汁が溢れだし、空腹だった体に染み渡った。
「うまぁー……なんか何時もの塩煮と違う。なんか、すごく美味しい」
「私の故郷の調味料を使ったんです。海草を乾燥させて粉末にしたものをいれてみたのです」
「うん! すごく美味しいね! 旨味が凄い!」
疲れた体に塩味と旨味が染み渡る。
二人は只管にぶつ切りにした食べ応えのあるホロホロの肉にかぶり付く。
味の染みた根菜は噛む事に出汁が染み出る。
香り高い香草は出汁に香りを移し、野性的な食材を引き立てている。
「美味しいなあ……」
「にんにくとバターで焼いたバゲットが欲しくなりますね」
「あー分かる! うわー、小麦粉持ってくるべきだったなあ」
「わたしもバターやチーズを持ってくれば良かったです」
「そうだねぇ……野草とかは現地調達できるけど調味料とかは無理だもんなあ。海も遠いし塩の確保も難しいからなあ」
「次は海の近くで修行しませんか?」
「そうだね。でも、私が知ってる海の近くの狩り場はもっと強くならないと難しいかな」
「それじゃあそれまでに強くなります。頑張りますから!」
「そのいきだ!」
食事を終えた二人は寝床を整えると泥のように眠るのであった。
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