第2話
ノアとアランは屍食鬼の痕跡を辿り、森の奥深くへ進んでいく。
彼らは特殊な霊薬を用いて闇夜の中、屍食鬼の痕跡を辿りながら歩を進めている。
猫目の霊薬は、真っ暗な闇夜の中でも昼間と同じ視界を齎す。
屍食鬼の痕跡を辿っていくと、やがて彼らは洞窟の入り口を見つけだした。
その入り口からは屍食鬼の異臭が漂ってきて吐き気を誘う。
「ここが屍食鬼の巣か」
「うえ……酷い悪臭だね」
「屍食鬼は捕まえた獲物を巣に持ち帰る習性がある。腐った餌と糞尿の匂いが混ざって酷い臭いになるんだ」
「……本当に嫌な仕事」
「その分金払いが良い」
「はあ……そうだね」
ノアはため息を吐いた。
二人は用心深く洞窟の中へと進んで行く。
洞窟の中は暗く、狭い通路が入り組んでいる。
暫く進むとかなり広い空間に出た。
その空間の中心には屍食鬼が群れていた。
屍食鬼の肉体は腐敗していてやせ細っており、朽ち果てたように見える。皮膚は青白く浮き上がり、腐肉のような褐色の斑点がその表面に広がっていた。
傷口や損傷は、化膿や壊死によって腐った肉と絡み合い、むき出しの骨や内臓が視覚的に露わになっていた。
彼らの目は鮮血のような赤色であり、狂気に満ちた光を放っている。その瞳孔は広がり、深淵の底からのような恐怖が覗き込んでいるように感じられた。
まるで死の魂が宿った眼差しが、ノアを不快にした。
鼻はねじれていたり、欠損していたりする。
彼らの口は広く開き、腐敗した歯や歯茎が露出している。
歯は鋭く、骨ごと腐肉をかみ砕く力を持っている為、噛まれれば一溜りも無い事ぐらい想像に容易い。
屍食鬼達は巣に溜めこんだ餌を互いに貪欲に奪い合っていた。そのどれもが腐っていて異臭を放っているが、彼らにとってみればご馳走だ。
喉元からは異様な音が漏れ、その音色はまるで墓地から聞こえるような不気味さを感じさせる。
彼らの体はやせ衰え、骨と皮ばかりと言えるほどの脆弱さを持っているが、その見た目に騙されてはいけない。貧弱そうに見えるが、動きは驚異的に素早く、獰猛な力を発揮する。
鋭利な刃物のように鋭く長い爪は人体なぞ容易く切り裂く。
最も厄介なのが、その爪と牙には不衛生な環境での生活の影響が強く表れているところだろう。
「あれだけの数……どうするの?」
「俺が引き付ける。
「あれだけの数……相手にできるの? ざっと20匹はいるよ? それに洞窟の奥からもっと来るかもしれないし大丈夫なの?」
「問題ない。予備の
「了解!」
アランは素早く入口へと向かって行った。
暫く時間が経過した後で、洞窟中に響き渡るような笛の音が鳴り響く。
屍食鬼達は一斉に音がした方向へ振り向き、走り出した!
洞窟の奥からも大量の屍食鬼がわらわらと現れ、次から次へと入口の方へと向かって行った。アランの方へ向かって行った数は軽く50は超えていただろう。
ノアは悟られないようにひっそりと物陰に隠れてやり過ごした。
「もう、行ったかな?」
暫くして洞窟に静寂が戻る。
ノアは周囲を見渡し屍食鬼がいない事を確認すると、洞窟の奥へと走り出した。
背中の方から強烈な爆発音が聞こえてきたが気にせず走り出した。
☆
アランは屍食鬼の群れと激しい戦闘を繰り広げていた。
彼の周りには腹を空かせた猛々しい屍食鬼達とその死骸で溢れていた。
アランは冷静な眼差しで屍食鬼たちを見据え、銀の剣を手に握りしめる。
屍食鬼達が数匹同時に襲い掛かるも、アランの体は素早く俊敏。
まるで屍食鬼達の攻撃がゆっくりと動いているように見えるのか、目にもとまらぬ速さで屍食鬼達を切り払う。余りにも洗練された剣術と身のこなし。
年齢を感じさせない動きは屍食鬼達を容易く刻む。
屍食鬼たちは凶暴な咆哮を上げ、切り伏せられた仲間など気にも留めず牙や爪を剥き出しにしてアランに襲い掛かっていく。
しかし、アランは鋭い動きでそれらをかわし、銀の剣を繰り出して屍食鬼たちに致命的な一撃を与える。
銀の剣が屍食鬼の肉体に触れると、その瞬間に屍食鬼は悲鳴を上げて燃え上がり、最後には骨しか残らない。銀炎煌油が塗られた銀の剣は、屍食鬼たちにとって致命的なものだ。
オイルが塗られた剣でほんの少し傷を付けられただけで屍食鬼の傷口が燃え上がりそれが全身へと広がっていく。
「ったく……毎度毎度数だけは多い。煙草を吸う暇もない、か」
アランはため息を吐く。
しかし、屍食鬼の群れは数多く、アランは一瞬たりとも油断することができなかった。彼は素早い身のこなしと的確な攻撃で次々と屍食鬼を倒していった。
血しぶきが飛び散り、剣と牙が激しくぶつかり合う音が響く。
数の多さなど気にも留めず、彼は只管冷静に対処していった。
アランは致命的な攻撃とそうでない攻撃を完全に理解している。
全ての攻撃を避けきる必要は無い。
であれば致命的な攻撃以外は名工が作った防具で浅く受け、反撃をする。
イグニで屍食鬼を焼き、銀の剣を振るう。彼の動きは洗練されすぎていて、素人目からみると誰にでも出来そうだと錯覚させる程のものだ。
戦闘では血が沸き立ち、痛みを忘れて執念深く立ち向かっていた。
時間が経つにつれて、アランの周りには倒れた屍食鬼たちの山が積み上がっていく。
彼の銀の剣は血に染まりながらも、屍食鬼たちを容赦なく斬り伏せていった。
『流石にオイルの効果が薄れてきたな』
何十匹と切り伏せたきた為、銀炎煌油の効果が薄れてきた。屍食鬼を切ってもさほど燃え上がる事が無くなってきたのだ。
しかしアランの勇敢な戦いによって、屍食鬼の群れは次第に削られていった。
彼の戦闘は猛烈なものだ。銀炎煌油の効果が薄れたとしても、銀の武器と執念によって屍食鬼たちに打ち勝つ力を示していた。
「やれやれ……」
アランは――洞窟の入り口から屍食鬼の群れが追加された事を見据えて大きく息を吸った。
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