第3話
闇に包まれた洞窟の奥深く、ノアは足音を殺し、息を潜めて進む。
身を乗り出すことさえ躊躇わせるほど、そこに広がる屍食鬼の巣は、忌まわしくも不気味な光景で満ち溢れていた。
肉の腐敗臭が辺りに広がり、嫌悪感が喉を締め付ける。
洞窟の壁は腐った肉片で覆われ、骨や腐肉の塊が張り付いていた。
それらは生命の息吹を失い、ただただ死の証として醜く歪んでいる。粘液と血が混じったものが垂れ流され、床には溜まり、まるで生ける墓場のように見えた。
ノアは進む先に巨大な腐肉の山が広がるのを見つける。
その山の中には、腐った人間の遺体や動物の死骸が埋もれ、悪臭を放ちながら腐り果てていた。
蠢く粘液が表面を覆い、動く影と化しているかのように思える。
まるで生命を奪い取る巨大な肉塊が、不気味に鼓動し、巣の中で恐るべき存在感を放っていた。
「ほんと……毎度毎度気味が悪い所だよ」
ノアは不快を露わにした表情で、手にした
紅焔油は粘り気があり、魔法が込められている為長時間激しく燃える油だ。特にアンデッド種に反応し激しく燃える。
銀炎煌油は剣に塗って戦う油だが、紅焔油は魔物の巣の破壊に特化させた油である。
ノアはその赤い液体がゆっくりと垂れ落ちる様を眺めながら、最後の一滴まで巣穴に注ぐ。
「燃えて灰になれ」
ノアは松明に火を灯し、それを巣穴に向かって放り投げた。紅焔油に引火し、瞬く間に炎が燃え広がる。
炎が生命を奪うような猛烈な熱さを放ちながら、腐敗した肉片と粘液を次々と蝕んでいく。
不気味な嗅覚を伴う悪臭が一層強くなり、魔物たちの住処を蝕む炎が激しく炎上していった。
ノアは巣穴を周囲から即座に離脱する。
紅焔油の効果は凄まじく、走って洞窟から抜け出そうとするノアを追い抜かんと迫りくる程だ。
猛火は激しさを増して燃え盛り、焼けた肉片と溶け出した粘液が悲鳴を上げ、悪臭と煙が洞窟内に充満していく。
屍食鬼たちの巣穴は次第に崩れ落ち、その存在を消し去るかのように焼き尽くされていった。
ノアが洞窟の入り口から飛び出すと同時に激しい炎が洞窟から溢れてきた。
地面を転がり、体制をを整えたノアが入口から溢れる炎を見ながら呟く。
「とんでもないな……」
しかし、ノアには息を整える時間など無かった。
洞窟の外ではアランが死闘を繰り広げているからだ。
「アラン!」
「随分と派手な登場だな!」
ノアは小柄で華奢な体格ながら、その身の軽さと俊敏さを活かして屍食鬼の群れに飛び込んで行った。アランを囲んでいる敵を切り伏せ、攻撃をかわす。
彼女の剣はアランから学んだ技術を駆使している。正確で迅速な攻撃を繰り出していき、屍食鬼の数を減らしていった。
屍食鬼達は突然背後からの奇襲に驚くも、一部は反転しノアに襲い掛かる。
「遅いよ!」
ノアの動きは機敏だ。屍食鬼が振り向いてから攻撃をするという流れでは遅すぎる。振り向いて攻撃をする前に、アランとの連携が合わさり切り伏せられる。
イグニで敵を焼き、ノアの俊敏な動きで翻弄し、叩き切る。
二人の攻撃の幅が広がり、屍食鬼の数をどんどん減らしていった。
アランが敵の注意を引きつける間、ノアは素早く敵に飛び込み、剣で痛烈な一撃を加える。剣が届かない場所にいる敵はクロスボウで銀の矢を放ち確実に仕留める。
彼女は冷静な判断力と戦闘センスを持ち合わせており、敵の攻撃を見切って回避し、隙を見つけて反撃する能力を持っている。
その子供っぽい外見からは想像もつかないほど、彼女の戦いぶりは大人顔負けのものだ。
「やっと体が温まってきたか?」
「やっとね!」
ノアとアランは息を合わせながら目まぐるしく変化していく戦場を巧みに戦いを続ける。
ノアのクロスボウが吸血鬼の胸を貫き、アランの剣が敵の首を切り落とす。彼らの連携はまさに見事であり、次々と敵を打ち破っていった。
最後の一匹を仕留める頃には周囲一帯が死屍累々と化し、二人の装備は返り血で真っ赤に染まっていた。
「やっと終わったー」
「気を抜くな。剣の入りが浅いヤツもいる。一匹一匹しっかりと見て仕留めろ」
アランが瀕死に藻掻いている屍食鬼に剣を突き立て仕留める。
屍食鬼は短く悲鳴を上げて絶命した。
「はいはい……」
「それと、
「言われなくてもそうするよ」
ノアはポーチから霊薬を取り出し喉を鳴らしながら飲んだ。
甘酸っぱい味が喉を通っていく。数ある霊薬の中でも非常に飲みやすい為、ノアは一瞬で飲み干した。
一方アランは辺りを見渡しながらゆっくりと飲んでいく。
翠嵐華の霊薬は体内の免疫力を高めて強化し、病気や毒に対する耐性を高める霊薬だ。屍食鬼のように不衛生な場所で生活している魔物と戦う前や戦った後に用いられる霊薬である。
一時的に疲労を回復させる効果もある為、ノアとアランはこの霊薬を重宝しているし、常に持ち歩いてるのだ。
二人は倒した屍食鬼を一匹一匹確認しつつ止めを刺す作業を進めていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます