第46話
前回に続き、今回の診察でも、信頼を置いている医師を指名した。
2時間待ち。
しょうがない。
その価値があると知ってしまったので、粛々と待つ。
今回は、髪が薄くなってしまったことで飲み始めた「発毛を促すサプリメント」について質問した。
横柄な医師には聞きづらい、ちょっと乳がん治療中の諸症状からズレたテーマだ。
だが、しかし!
またもや、信頼している医師は、清々しい笑顔でアドバイスをしてくれた!
髪が薄くなったのは、初期の2年間投与されたニュープリンの影響はあるが、タモキシフェンでの影響ではないかも。
ホルモンが低下してくる年齢でもあり、それも一要因。
閉経後はさらに薄毛になる可能性があるが、個人差もある。
サプリは服用してかまわないし、なにより、それで自分の気持ちが安定するようなら、続けるといいと思う。
ただ、サプリメントは①動物由来ではないこと(プラセンタなど)②高額ではないこと(長く続けていくために)を、考慮した方がいい。
タモキシフェンは、閉経しても服用すると、骨粗鬆症の予防にもなる。
と、とても重要な見解を下さったのだ!!
確実に効果を感じ始めていたサプリメントを服用する度に、それとは裏腹に、心のどこかで、再発を誘発する原因になりはしないかと不安に思う自分がいた。
でも、もう心配は無用。
毛量が増えていくことに心躍らせながら、これからもサプリメントを飲み続ければいいのだ。
あぁ、安心した。
自然と自分も笑顔になり、診察室を出ていくときには、優しい笑顔の医師の「お大事になさってくださいね」を、またまた今回も背中に受け取った。
そういえば、この医師に初めて診察をしてもらったとき、手術時の、自家組織を使う乳房同時再建の希望を伝えると、かなりの勢いで叱られたっけ。
自家組織を使った再建だと、他の場所から組織を取るため、乳房以外の場所にも傷が付くし、大きなダメージになるが、それでもいいのか?と。
今でも、再建をしなかったために生じている乳房サイズの左右差は、自分の気持ちを重くする。
「以前のように、同じ大きさだったらな・・・」と思うのは、入浴前に脱衣所の鏡に映る自分の姿を見て、現実を思い知らさせるときや、テレビでバストを強調する服装のタレントを目にして、左右同じ大きさでいいな〜と思うときくらいではあるが。
通常、日中は左右差を目立たせないために、カップに厚みのあるブラタンクトップを着用し、自分自身、そういう「残念に思う気持ち」を忘れている。
それでも、毎日入浴するわけだから、毎日、数秒は自分の姿を見て、その気持ちを思い出す。
その繰り返しだ。
その思いが、少し「これで良かったんだ」のほうに振れたのは、自家組織で再建した胸を患者会で見せてもらったときだった。
自家組織再建の経験参加者は、とても嬉しそうに、自分の柔らかく再建された豊満な胸を、ほかの参加者たちに披露してくれた。
「これから再建を考えている人、どうぞ。私はこういう感じになりましたよ」と、惜しげもなく見せてくれたのだ。
とても元気で、朗らかで、再建に満足している様子だった。
しかし、自分の目が釘付けになったのは、臍下に一直線に残る、脂肪を取るときにできた、30センチはありそうな傷跡だった。
とても長い。
これか。
医師が、それでもいいのかと尋ねていた、傷跡は。
これだけの傷が、追加で出来てしまうのか。
この、脂肪を取るための傷に、自分は耐えられなかったと思う。
確実に。
あの時、叱って止めてくれた医師に、改めて感謝した。
幾人もの患者を診てきた経験が、勢いとなり、強い語気になったのだろう。
結局、自分は「この選択でよかった」と思えた。
そして、他の参加者に、自分の再建したバストを披露してくれた自家組織再建経験者にも、感謝だ。
彼女には、「そんな傷くらい平気よ!」と言えるくらいのポジティブなパワーが溢れていた。
だから、彼女には再建が最適な選択だったと、よく分かった。
人には、それぞれ、違った最適解があるのだ。
ひとつの正解が、全てを支配してはいない。
ネット検索だけではなく、「人を通して知る」経験の大切さを、教えていただいた。
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