第38話
ホルモン剤治療を始めて、一年半以上が経った頃、子どもの夏休みに合わせて、石垣島へ旅行に行った。
何度目の、沖縄だろう。
美しい海に、心が踊る。
青い海が大好きで、独身時代は、ダイビングが趣味だった。
お金を貯めて、南国へのダイビング旅行を、何度も楽しんだ。
美しくてダイナミックな魚を見るために、いっぱい海に潜った。
今は、重装備で潜らなくても、家族で気軽にシュノーケルをして、海の中の世界を十分楽しんでいる。
自然の中で遊んで笑うことが、家族の中では大切な時間だと思う。
子どもは、波打ち際で遊ぶのも大好きだ。
いつまでも、そこを離れない。
ずーっと楽しそうにはしゃいで、疲れたって言わない。
そんな子どもと一緒に、波打ち際でパシャパシャ遊んでいると、急に子どもが、母親の濡れた髪を見て「お母さん、ハゲてる!!」と、驚いて叫んだ。
そうなのだ。
確かに自分でも気づいていた。
髪が薄くなってきていたことに。
外出先で、なんか髪型がキマらないなと思いつつ、鏡を見ながら髪を整えていた時に、気がついた。
「前髪が無い・・・」
ホルモン剤治療を受けた数パーセントの患者に起こる副作用、薄毛。
頭頂部から前髪にかけて、かなり薄くなり、頭皮がテカテカ光って見えるほどに薄くなり始めていた。
かなりの精神的ダメージになった。
過去にも同じ経験をしていた。
出産後に抜け毛が増え、その時も前髪が無くなったのだ。
だがその時は、数ヶ月もすると、自然にまた前髪が生えてきていた。
子育てに追われ、それがどれくらいの期間だったかも覚えがない。
今回も、そんな風に過ぎ去ればいいと思っていたが、薄毛度合いが前回より、酷かった。
なので、今できることをしようと思い、BELTAという育毛剤をネットで見つけて、既に使っていた。
藁にも縋る思いで。
髪が乾いている時は、ドライヤーでふんわりとセットしているから、なんとか薄毛をごまかしていられたのかな?
だから、いつもと違う濡れた状態の髪を見て、子どもが驚いたのかな?
ということは、まだ、今は乾いた状態なら、ギリギリセーフなのかな?
なんて、自分を慰めたりしていた。
しかし、ほとんどハゲ寄りの「薄毛」とうい状態は、どんどん自分の気持ちを重くした。
人前で、いつも通り振る舞うことも、難しくなった。
痛みを伴う足のむくみも、出るようになった。
ホットフラッシュの苦しみは、相変わらず激しく続いている。
少しのことでイライラが湧き上がる状態も、睡眠障害も、依然として変わらない。
ホルモン剤治療には、こういうリスクがあったのだ。
このころ、北斗晶が乳がんのカミングアウトをしたり、川島なお美が死去したり、心がざわつく日が続いた。
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