第31話
専門家が難色を示したように、ほんの数ミリの皮膚の剥がれは、簡単に治るものではないのだと、思い知らされることになった。
放射線医師に、皮膚の状態を診察してもらう。
例えば、ガーゼをあてたとしても、それを止めるテープでまた皮膚が剥がれるため、それはできない。
もちろん、絆創膏は使ってはいけない。
できることは、患部を乾燥させるくらいだと説明を受ける。
そうなんだ・・・。
上半身裸で診察台に横たわりながら、やっぱり肌が弱いから副作用を避けられなかったな・・・、と考えていた。
気の毒に思ってくれたのか、看護師が、「軟膏を使いましょう」と提案してきた。
すると、医師が「いつも、そうやって君は軟膏を勧めるけど、あれは効果がないだろ!なんで、勝手にそう言うんだ!」と語気を荒げて看護師に言った。
「でも、何もしないより、いいじゃないですか!」と看護師も応戦し、2人の言い争いが始まった。
上半身裸で診察台に横たわっている自分を、放置して。
はぁ、困るんだけど・・・。
看護師の患者に寄り添う気持ちはありがたいが、若干、越権行為かもしれない。
ここは医師を立てるのが正しいだろう。
「あ、分かりました。じゃ、なるべく乾燥してみます!」と、上半身裸のまま2人の言い争いに割って入り、険悪な状況を収めた。
皮膚の剥がれた部分は、下着のアンダーバストが当たる部分なので、そこにガーゼを挟んで滲み出る浸出液を吸わせるようにした。
こんなとき、ネットの、体験記ブログの情報が大いに役立った。
日が経つにつれ、その皮膚の剥がれはだんだん大きくなり、長さ3センチ・幅1センチほどの大きさに広がっていった。
一部分はカサブタにもなっていたが、周囲の皮膚が剥がれ続け、浸出液でジクジクとしていた。
もちろん、痛い。
そんな折、放射線技師が、いつもと違う人の日があった。
20代後半から30前半に見える男性と、20代の女性のコンビだ。
自分が放射線室に入ると、2人は雑談の最中で、キリが悪かったのか、しばらく楽しそうにそのまま雑談を続けたあと、やっと、診察台に横になるときに使うバスタオルを渡してくれた。
そして、男性技師は、アンダーバストの皮膚が剥がれた傷を見ると、雑談のノリのまま、「わぁ〜!痛ぁ〜くなぁ〜いんですかぁ〜(笑)」と、素っ頓狂な調子で、笑いながら話しかけてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・痛いですよ」
たっぷり5秒は開けた後、答えてやった。
上半身裸のまま。
チッ。
当然、調子に乗っていたバカな技師も、患者が不快に思っていると感じ取ったようで、急に神妙な態度になった。
今頃気づいたのかよ、遅いんだよ、ボケ!
放射線室で、若い女と楽しんでんじゃねぇ、ボケ!!
お前みたいなアホは、黙って仕事しろ、ボケ!!
ボケ!ボケ!!ボケ〜〜〜!!!
ホルモン剤治療が始まり、しっかりホルモンバランスが崩れている。
自分でも変化を自覚するほど、もう、怒りをコントロールするのが難しい。
それまでの、そんなことぐらい許します〜の「ちょっと聖人モード」は、完全に終了していた。
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